060106心電図モニターの観察

 
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基本手技



060106心電図モニターの観察

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060106心電図モニターの観察

講師:高橋亮介(向かって左)
   岩見沢地区消防事務組合


I. はじめに

 心電図に関してはいろいろな本があり、読んではみるものの「いつまで経っても苦手だな」と思っている方は少なくないと感じる。そこで、全てを基本から覚えようとせず、ある程度の「重いのか、多少余裕があるのか」だけでも理解できれば現場での活動に役立つであろう。

 最初に、CPA時の波形についてはほとんどの消防職員がAEDを使用する今となっては説明する意義は薄いであろうと思われるので今回は省略し、傷病者の脈拍が触知できる状態の波形についてのみ記載することをお断りしておく。


II. モニターを付ける前に

 傷病者に接触したら、初期評価、バイタル測定や既往の聴取を行いながら、傷病者が心臓に由来した疾患を患っている可能性を「大まかに」判断する。
 まず、「動悸」を除いた自覚症状、身体所見があるかを確認する。

・自覚症状?

  • 意識障害、失神、脱力感、呼吸困難、胸痛

・身体所見?

  • 血圧低下(収縮期80mmHg以下)、冷汗、湿性ラ音、頸静脈の怒張

 上記の症状、所見が一つも見られない場合、心臓自体は比較的安定しており、胸の苦しさの原因が心臓以外の箇所に原因がある可能性も併せて考える。症状、所見があった場合は重症心疾患の可能性があることを考慮する。


III. モニターを装着する

 まず心拍数を確認する。次に波形に注目する。

A頻脈(概ね100回/分)の場合

 心拍が速いために心筋拡張時に流入する血液が少なくなることで相対的に虚血となっている可能性がある。

1.心拍数が150回を超えている

 超えている場合は傷病者が重症化する可能性が高いため注意して観察する。意識障害が起きている場合は除細動器をすぐ使用できるように準備をする。また、病院へ連絡の際に心拍数異常を伝えることで、カルディオバージョン(電気的な治療)の準備が必要かどうかを病院側が判断する目安となる。

2.QRS幅が広い(方眼紙で3マス=0.12秒以上に幅が広がっている)

 重症である可能性が高く、緊急の治療が必要であることが多い。

1)心室頻拍(VT)(写真1)
 QRS幅が広い頻脈はVTであることがほとんどであると言われている。脈拍が触知できるケースであっても病院内ではカルディオバージョンの適応となることも多い。傷病者の意識が障害されているときはPulseless VT(無脈性心室頻拍)に移行することが充分考えられるので頻回に脈拍を触知できるかどうかを確認し、除細動器をすぐに使用できるよう準備をしておく。

3.QRS幅は狭く、RR間隔は整っている(方眼紙で3マス=0.12秒以下)

 2.ののQRS幅が広い状態に比べると重症度は下がる。一見洞性頻脈との識別が困難だが、T波とP波の識別が可能かどうかを確認する。

1)可能である?
 洞性の頻脈と判断する。自覚症状、身体所見がなければ緊急度は低い。頻脈の原因が発熱など心臓以外の箇所に存在している可能性があることを心にとめておくべきであろう。

2)不能である?
 PSVT、あるいは心房粗動である可能性が高い。

a. 発作性上室性頻拍(PSVT)(写真2)
 逆行性のP波が出現している。過去に既往のない人が突然動悸を訴えることで発生し、突然発作が終わるケースが多く見られる。重症化することは少ない。

b.心房粗動(写真3)
 基線に鋸状波(f波)が認められることが特徴。心拍出は良好に保たれているケースが多い。出現頻度は低い。

4.QRS幅は狭いが、RR間隔が不整である

1)多源性心房頻拍(MAT)
 大きさの異なる心房刺激(P波)が出現する。COPD(慢性閉塞性肺疾患)を既往に持つ傷病者が低酸素血症に陥った場合などに多く見られる。

2)心房細動(Af)(写真4)
 基線の動揺が特徴的な波形である。細動と筋電図などのアーチファクトとの区別はRRの間隔で判断する。Afであれば必ずRR間隔は不整となる。心拍出は良好に保たれているケースが多く、傷病者によっては何日も発作が持続しているケースもあるため比較的余裕が持てるが、心拍数が早いほど心不全に進行する可能性が出てくるので経過を観察しておく。ガイドラインでは発作の発生から48時間を超えるか超えないかで病院での治療法が変わるとの記載があるので、可能であれば発症経過を現場あるいは搬送途上で聴取しておく。

B. 除脈(60回/分以下、あるいは血圧が低いのに心拍数が増加してこない)の場合

 この状態と前述の自覚症状、身体所見が併せて確認される場合は除脈が心疾患に起因する可能性が高いと考える。病院到着後はTCP(経皮ペーシング)の適応となる可能性もあるので、症状や所見を確認したときは到着前に病院へ連絡しておく。

1.PR間隔は広い(方眼紙で5マス=0.2秒以上に幅が広がっているか)

 1)2)は急変することは少ないが、3) 4)は傷病者は前兆なく急変する可能性があるため観察に注意しなければならない。

1) 1度房室ブロック(写真5)。
 PR間隔は広いが延々と同間隔であり、QRS波が抜け落ちることがない。

2)I型2度ブロック(写真6)。
 PR間隔は徐々に延びていき、途中QRS波が欠落する。

3)II型2度ブロック(写真7)
 前触れなく、突然QRS波が欠落する。PR間隔は正常。

4)3度房室ブロック(写真8)
 P波とQRS波がそれぞれ独自のリズムで発生する。P波の刺激が伝わっていない。

2.PR間隔は狭いが、RR間隔が不整

1)洞不全症候群(SSS)
 波形自体には異常はないが心房刺激(P波)が変調しリズムの不整をおこす。既往は特に関係なく発症する。(原因不明である)。安定しているケースも多いが、除脈の時間が長く続くと虚血による失神発作をおこす場合もあるので、意識状態には注意が必要である。

C. 心拍数正常

 まず、ST間に異常がないかどうかを見る。

1.STが上昇している。(方眼紙で2分の1マス以上基線から上昇しているか)(写真9)

 重症である可能性が高く、緊急の治療が必要であることが多い。

 胸痛がある場合は発症からの時間経過を確認しておく。15分を超えている場合は心筋がすでに障害(筋細胞の壊死)を受けており、心筋梗塞を発症しているケースが多い。心筋梗塞ではST上昇と胸痛の他、背部や肩及び前腕、下顎などに痛みや違和感を訴えることがあるので、聴取しておく。また、急性期の心筋梗塞ではST上昇の前に高いT波のみが見られることもある。(高カリウム血症でも同様の高いT波が見られることがある。)

2.STが低下している。(方眼紙で1マス以上基線から低下しているか)(写真10)

 心筋に虚血がおこっているが、まだ壊死までは至っていない状態である。

 緊急度は1. に比べると低いものの、搬送途上STが上昇する可能性も潜んでいるため、モニターを注意深く見守る必要がある。STの上昇が見られた場合は直ちに収容先へ連絡する。

 ST異常の波形は、狭心症などの心疾患を既往としている傷病者に出現することが多い。また、救急車を要請する前に所持している経口薬を服用している可能性もあるため、服薬の有無も聴取するべきであろう。

3.QRS波が広くなっている箇所がある

 心室性期外収縮を疑う。問題となるのは2.,3.の場合である。いずれもVfへ移行することがあるため、以下の波形が出現した場合は観察に注意する。

1)単発(連続しないもので、かつ、異常波形が1種類のもの)(写真11)
 これは健常者であっても日常的に発生するものである。一般には1分間で5個以上出現しなければ緊急性は低いと言われている。

2)連発で発生するもの(写真12)
 2つ以上の期外収縮が連続するもの。3つ以上続いて出現するものを特にshort runと呼ぶ。

3)RonT(写真13)
 本来T波が出るだろう箇所に期外収縮のQRSがぶつかってしまった状態を呼ぶ。心臓の拡張(T波)が期外収縮(QRS)によって障害されている状態を示すものである。これに限っては1つでも出現した場合、Vfに移行することが充分考えられるため発見した段階で除細動器を使用できるように準備をしておく方がよいだろう。


IV 実際にモニターを装着するときの注意点

1. 波形がモニターに小さく映る場合

 肥満している傷病者では体脂肪によって電気抵抗が増大し、低電位となって映ることがある。また、外傷症例では、血胸によって電気抵抗が大きくなっている。あるいは心タンポナーデや緊張性気胸によって心筋の拡張障害が発生している可能性がある。そのため、波形が小さく映るケースもある。特に胸部外傷の傷病者を観察中にはこの点にも注意が必要である。

 救急車に積載されるテレビ型モニターには自動的に感度を調整するものや、手動で感度を調整しなければならない機器(写真14)もある。

 感度を示している箇所が必ずあるのでモニター上の倍率表示に注意しておく必要がある。(写真15)


V パルスオキシメータ

  非観血的に酸素化を簡便に観察可能であり、有用性が高いため救急活動上使用頻度が高い機器であろう。何しろ「指に挟む」だけである。

 数値を信用できる状況か常に気を配る。ショック状態のように低血圧となっている場合や寒冷環境に曝露されていた場合などは末梢への血流が悪く、数値を信用してよいのか迷うケースに遭遇する。心電図電極を装着し、心電図の波形とパルスオキシメーターの脈波が同期しているかを確認する。(写真16)


VI結語

 現場での心電図波形を確認し、情報を医療機関へ伝えることは重要であり、時間の経過とともに変化するものであるため特徴的な所見を把握することは大事だが、判読にいたずらに時間をかけてしまうことのないように心がけねばならない。

 また、救急現場でのモニターで心臓全体の状態を把握できるということではない。体内ではどのような病態が進行しているかは病院でなければ確定できない。救急現場での心電図波形を見ただけでの「決めつけ」や「思いこみ」は避けねばならない。搬送途上でも、自覚症状や身体所見、バイタル変化などにも留意し、傷病者の疾患が心原性のものか否かを総合的に推察していくことが重要であろう。


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