手による胸骨圧迫は機械による圧迫に有意に優れる

 
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最新救急事情

(2018/7/2)

近代消防のコメントを書いていたら質問が来たので再掲します。オートパルス・ルーカス2の現在の評価は表題のとおりです。

JRC心肺蘇生ガイドライン2015においては、「用手と機械的CPR装置に有意差はない」としています。今回紹介した論文はガイドライン後に出たもので、しかも日本発ですので、ガイドライン2020では明確に有意差が記載されるはずです。

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手による胸骨圧迫は機械による圧迫に有意に優れる

2018年2月25日日曜日

ルカースをはじめとして、国内に広く普及している自動胸骨圧迫器。この連載で取り上げるたびに「有意な利点は証明されない」とし、「救急隊員の疲労軽減と手が空くことが利点」と結論付けて来た。

このたび慶應義塾大学を中心とする臨床研究グループであるSOS関東が、手圧迫が機械圧迫に有意に優れるという論文1)を発表した。

目次

6537例の追跡調査

関東地方の病院前心停止患者(外傷患者は除く)のデータを用いた後ろ向き研究である。第一の評価は生存退院率で、第二の評価は病院前に心拍が再開して入院に漕ぎ着けた割合としている。。

データ採取期間は2012年1月1日から2013年3月31日で、対象患者数は6537例。これを手圧迫群5619例と機械圧迫群918例に分けた。全体としては来院時に心拍が再開していた割合が28.1%, 入院に至った割合が20.4%、生存退院率が2.6%、入院後1ヶ月の時点で脳神経学的に良好な患者の割合は1.2&であった。両群の比較では、機械圧迫群は手圧迫群に比べ、生存退院率(p=0.005)、病院前での心拍再開率(p=0.018)、病院入院率(p=0.001%)でいずれも有意に劣っていた。この結果を受けて筆者らは以下の2点を主張している。

(1)機械による胸骨圧迫をルーチンとすることは支持できない。

(2)病院外心停止を扱うチームは機械による胸骨圧迫が転帰を悪化させることに気づくべきである。

患者背景を見ると機械圧迫の完敗である。男女も年齢も心原性・非心原性もいずれも手圧迫が優れた結果を残している。バイスタンダーCPRの有無では、バイスタンダーCPRがあった方が手圧迫に比べて機械圧迫の成績が悪くなっている。せっかくバイスタンダーが手で押してくれていたのに機械にするとその気落ちを踏みにじるようだ。手と機械で余り変わらなかったのは、夜に出場した症例と発症目撃のない症例とバイスタンダーCPRのない症例の3つである。夜の出場は救急隊員も疲れていて機械並みの圧迫しか出来なかったのか。目撃がない、もしくはバイスタンダーCPRがないというのは救急隊が来た時点で勝負はついていると考えられる。

なぜ機械は手に劣るのか

機械の方がまじめに胸を押してくれるのになぜ成績が悪いのか。筆者らの考察を示す。

(1)装着に時間がかかり胸骨圧迫の開始が遅れる:バンド式の胸骨圧迫器を導入したところ、胸骨圧迫の最初の5分間で血流途絶時間が増加したという論文を紹介している。

(2)手で圧迫した方が機械圧迫より即座に修正できる:機械にはリアルタイムのフィードバック機能はない。実際にマネキンを使った研究では機械圧迫では手圧迫より胸骨圧迫の質が劣ることが報告されている。

(3)蘇生中に機械圧迫から手圧迫に変更した1症例では、手圧迫の方が高い循環動態が得られた。

(1)の遅延についてはにわかに信じがたい。文献はシンガポールのものである2)。胸骨圧迫の最初の5分間で、手圧迫なら血流のない時間が85秒であったのに対し、機械圧迫では104秒あったと報告している。この差の19秒が機械を取り付ける時間である。シンガポールはこの文献の通りかも知れないが、優秀な日本の救急隊がルーカスを取り付けるのに19秒もかかるだろうか。

(2)の修正については可能性はあるかなと思う。元となった文献3)では21名の救急隊員がマネキン相手に手圧迫とルーカスを用いた機械圧迫を行っている。手圧迫では正しい胸骨圧迫をしていた割合は88%であったのに対して、機械圧迫では58%に留まっていた。ちなみにこの論文はスウェーデンからのもので、(1)で挙げた血流のない時間は手でも機械でも同じであったとしている。

(3)の手の方が良かったという話は1例報告4)なので、皆がみんな同じ結果になるとは限らない。

同時期の文献では差を認めない

手と機械を比べた論文は同じ時期にもう1本出ている。イギリスからの報告5)で、ルーカスによる機械圧迫が377例、手圧迫が658例である。両群で入院日数と集中治療室滞在日数に差はなかった。長期のQOL(生活の質)も感情の質についても両群で差はなく、他の指標を用いた評価に置いても差は認めなかった。これは例数が少なくて有意差を出すまでに至らなかったのだろう。

人を助けるのは人である

SOS関東の論文は「胸骨圧迫にも魂を込めるべきだ」と主張しているように感じる。助けられる人も助ける人も同じ人間。熱意とかひたむきさとかが救急隊員の掌を介して患者に伝わるのかも知れない。

文献

1)J Am Heart Assoc 2017;6(11), pli:e007420
2)Ann Emerg MEd 2010;56:233-41
3)Resuscitation 2011:82;1332-7
4)Am J Emerg Med.2013;31:1154.e1–1154.e2
5)Resuscitation 2017;118:82-8

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