110124G2010:小児の蘇生

 
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最新事情

G2010:小児の蘇生

 今回は小児の蘇生についてお送りする。小児とは日本版によると1歳から思春期以前(目安としてはおよそ中学生まで)であり、乳児は1歳未満をいう。CPRは基本的には成人と変わらないのだが、小児では呼吸が原因で死亡する例が心臓が原因で死亡する例より多いため、人工呼吸の重要性は成人より高い。

ABCからCABへ

 小児も成人と同じくABCからCABへ変更された。肩を叩くなどしても反応がなく、見ても呼吸をしていないようならすぐに胸骨圧迫を開始する。従来強調された「見て・聞いて・感じて」は削除された。人工呼吸は胸骨圧迫30回を待たずに準備ができ次第行う。最初から人工呼吸の準備ができているなら人工呼吸から行うことになる。

 小児の心停止は呼吸原性が多いのに先に人工呼吸をしなくていいのか、という疑問についてはアメリカ版ダイジェストに詳しく回答が載っている。人工呼吸からではなく胸骨圧迫から蘇生を開始することは大きな議論を呼んだこと、現在は小児の心停止の大半はバイスタンダーCPRを受けていないので、この状況を変えるべく全ての年齢で胸骨圧迫を最初に持ってきた、としている。成人と同じでABCがCABになったのはバイスタンダーの増加を狙ってのことである。

胸骨圧迫の手技

 手で抱え込める乳児の場合、胸骨圧迫は二本指で行うか、体を手のひらで包んで両方の親指で押すかになる。この二つの比較では、両方の親指で押す方が10本の指全てが固定されるため、冠状動脈潅流圧が高く安定した押し方ができて有利である。小児の胸骨圧迫では片手で押す方法と両手で押す方法がある。これについては優劣ははっきりしていない。両手での胸骨圧迫のほうが高い胸骨圧迫圧が出るという報告もある。胸の厚さの1/3を押すことができればどちらでも構わないのだろう。

 圧迫部位は成人と同じ胸の真ん中で、解剖学的には胸骨の下半分になる。

 胸骨圧迫の中断を最小限にすることは成人と同じ。1分間に最低100回のリズムで押すこと、押す深さについては胸の厚さの1/3としている。回数については日本版では上限を定めておらず、「1分間あたりの胸骨圧迫回数が最大限となるようにするべき」としていて、意地悪な見方をすれば140回でも160回でもいいらしい。アメリカ版ではリズムは1分当たり最低で100回、深さは1/3以上としていて、この深さは乳児では4cm、大部分の小児では5cmに相当する、している。ヨーロッパ版ではリズムは最低100回は日本やアメリカと同じだが、120回を超えないこととしている。深さについては1/3以上。

 胸骨圧迫の深さはがアメリカ版とヨーロッパ版では1/3以上もしくは5cmを求めているが、日本版では1/3であってそれらより浅い。これは5cmでは日本人の体形では1/3を越えてしまい深すぎるためと解説が載っている。

気道確保と人工呼吸

 先に書いたとおり、人工呼吸はできるだけ速やかに気道確保と人工呼吸を開始する。人工呼吸回数は2回で1秒かけて胸が上がる程度を吹き込む。気道確保については成人と同じである。第一選択は頭部後屈顎先挙上法であり、頚椎損傷が疑われる場合にはできる人は下顎挙上法を行う。下顎引き上げ法は有害となり得る、としている。

 マウスツーマウスでのフェイスシールドなどの感染防御資材は不要となった。マウスツーマウスでは感染しないかららしい。だが、成人の時にも書いたように、今まで感染防御が大事、CDCでの教えを守ろう、と聞かされてきた人間にとっては騙された気分になる。

胸骨圧迫と人工呼吸の比率

 成人と異なり、小児では人工呼吸を加えた方が予後が改善するというデータが多い。これは心停止の原因が呼吸によるものであり、動物実験でも呼吸を止めてその結果心臓が止まるモデルを用いているためで、当たり前と言えば当たり前である。ただ、呼吸原性の心停止であっても蘇生中の換気量はわずかでいい。

 圧迫回数と人工呼吸の回数は30:2で成人と変わらない。しかし2人で蘇生を行える場合には15:2を勧めている。15:2であっても過剰な換気は避ける。

 成人では胸骨圧迫のみの心肺蘇生法が広く受け入れられてきた。しかし呼吸性心停止の小児では、人工呼吸を加えたほうが胸骨圧迫のみのCPRより30日後生存率が高く神経学的転帰も良好であることが示されている。この結果からは、人工呼吸を行わない小児のCPRは例外と考えたほうが良さそうだ。

AEDは乳児にも

 先月号に書いたとおり、AEDは1歳未満の乳児にも使えるようになった。エネルギーが大きくても若い心筋はよく耐えるらしいので、小児用のパッドがなければ成人用を貼って放電する。

小児にかかわる人は小児CPRを

 上述の通り、小児は成人と心停止の原因が異なるため、小児に接する機会の多い人(学校の先生など)は小児用のCPRを習得することが望ましい。これに関しては全く異論はないところであるが、最近小学校や中学校で講演する機会があって学校の先生方と話をしてみると、小児CPRとか成人CPRの区別以前に、基本的な手技をしっかり覚えてもらう必要を強く感じる。知識レベルが高い学校の先生であっても心肺蘇生法は容易なことではなく、特に「絶え間ない胸骨圧迫」に関しては、まだまだ改善の余地がある。成人と小児を原則的に同じ手技にしたことは、覚える方にとっては好ましい。汎用性のある成人CPRを習得した上で、症例の少ない小児のCPRを覚えるべきだろう。


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11.9.18/3:09 PM

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