120610肩書
120610肩書
作)ゆうたん
若い頃は、一人暮らしというものに憧れていた時期がある。初めて一人暮らしを始めた時は、それだけで大人になったような気分にもなり、親元から離れた生活に何とも言えない優越感のようなものに浸ったものでした。
今はそれなりの年齢になり家庭を築き、そんな若い頃も遠い昔の話になりつつあり、家族に囲まれた生活をしている中で、「たまに一人になりたいな」と思う事はあっても、突然一人暮らしの状況に置かれたら、自分はどうなるのだろうなと考える出来事があった。
ある年の大晦日、通信勤務に就いていた正午過ぎに一本の119通報があった。
電話の向こうの通報者はかなり慌てていたが、「お父さんがトイレの中で死んでいる」と言っていた事だけは理解できた。家の場所を聞き出しているうちに、声が同級生に似ている事に気付き、尋ねたらやはり同級生であった。口頭指導をしようとしたが、もう冷たくなっているので出来ないと泣き崩れたのが分かった。
救急隊が向かったものの、すでに搬送出来るような状態ではなく、警察に引き渡しての帰署となったが、同級生の60代の父親は一人暮らしであった。
小さい頃は、その同級生とは家が近かったこともあり、家に遊びに行った事もあった。父親の印象はあまりないが、母親には非常に優しく接してもらった記憶がある。
僕が帰郷後に消防に務めるようになってからも、街中で出会う度に「元気かい?」などといつも声をかけてくれる、非常に明るい母親であったが、癌を患っていたらしく、この年の春先に急逝していた。
娘が二人いたが、同級生の次女は都会で一人暮らしをして忙しく働いている。長女も他の町で家庭を持っており、母親が急逝した後は、父親が一人で暮らすようになっていて、姿をほとんど見かける事はなかったが、かなり元気がなくなっており、元々好きだったお酒をかなり飲んでいるらしいという噂を耳にしていた。
住宅用火災警報器の普及啓発を兼ね各戸を査察する事になり、その同級生の家がある地区が私の担当になった。
ある日の午後明るいうちに訪問し、すでに酔いのまわっている父親と接し驚いた。空になった日本酒の瓶が多数床に散乱しており、家に上がり込むのを躊躇する程床は汚れていた。査察の為、火の元の点検をする事になったが、炊事をまめにしている様子も伺えず、母親に先立たれてからの生活がかなり荒れていると容易に想像できた。
同級生の話も交え、娘達は帰郷してこないのかと尋ねても、色よい返事は返ってこなかったので、すぐ別の話題に変えた。母親が健在だった頃の家を知っている私にとっても、汚れ放題になっている家の中はかなりの驚きがあり、娘達がほとんど帰ってきていない事がわかった。
近所の人の話では、最近は昼間から酔っている事が多くなり心配しているとの事であったが、そんな中での悲劇であった。お正月には元気な顔を見せようと帰ってきた同級生のショックは、想像も出来ない程のものであったと思う。
ある日突然、取り残されたように一人暮らしとなったら、自分はどうなってしまうのだろうか。田舎町では、独居の高齢者が非常に多く、そんな人たちの救急要請はかなり多い。今は通所のサービスもかなり充実してきているとはいえ、やはり孤独な生活は辛いのだろうかと、色々と思いを巡らせてしまう出来事であった。
12.6.10/8:50 PM
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