工場内における高所作業中の転落事故 Jレスキュー2018/5, 日立消防 田村悠輝・須田賢治

 
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症例

工場内における高所作業中の転落事故

再現!救急活動報告

工場内における高所作業中の転落事故

日立市では、三次病院である株式会社日立製作所日立総合病院を拠点としたワークステーション方式のドクターカーと、近隣3市(日立市・高萩市・北茨城市)で共同運用する、24時間体制のラピッドカーがある。今回は、ドクターカーとラピッドカーが同時出場した稀な事例を経験した。通報から12分で医師4名と看護師2名が介入し、現場から医療が開始された本事例を報告する。なお、写真3と写真4は実際の現場の写真であり、写真5から写真11までは再現写真である。

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写真1

ステーション方式ドクターカー

写真2

ラピッドカー

 

通報内容

平成××年×月×日、15時26分(通報から+0分、以下時刻は通報時を基準とする)、市内の工場内において、「高所作業中の男性3名が高さ約8mから転落した。」との119番通報が入った。

出場隊

 指揮車1隊 (2名)

消防隊2隊 (8名)

救急隊3隊 (9名)

ドクターカー1隊(ワークステーション方式 救急隊員3名、医師2名、看護師1名)

ラピッドカー1隊 (医師2名、看護師1名、運転員1名)

 計8隊 29名

先着救急隊①(救命士2名、救急有資格1名)の活動

出場途上の考察

病院からの引揚途上であったため、現場に1分程度で到着する距離で指令を受信した。指令内容から、高リスク受傷機転と複数傷病者であると判断、活動方針を安全確保、トリアージ、さらにドクターカー、ラピッドカーも同時出場したとの情報から、医師との情報共有、現場のマネージメント、また、医師の現場到着に時間を要さないと判断し、現場で医師に引き継ぐことを隊員に周知した。

現場到着後の活動

+2分、救急隊現場到着、工場内に、高所作業車1台がリフトアームを伸ばした状態で基台ごと横転(写真3)、その周囲に側臥位で倒れている男性1名、坐位の男性2名を視認した(写真4)。工場内責任者に接触(写真5)し、工場内の作業が停止し安全が確保されていることを確認。さらに情報として、高所作業車のリフトアームを伸ばし高さ約8メートルで作業中、高所作業車が基台ごと横転したことにより、プラットホーム内で作業していた作業員3名が投げ出されたと聴取した。

写真3

高所作業車1台がリフトアームを伸ばした状態で基台ごと横転していた

写真4

側臥位で倒れている男性1名、坐位の男性2名を視認

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写真5

工場内責任者に接触

ただちに側臥位で倒れている男性(A氏)に救急隊3名で接触(写真6)、JCSIII‐300、呼吸浅く速く、橈骨動脈微弱、外耳孔からの出血(写真7)を確認し「緊急」と判断、隊長の指示で、隊員2名が下顎挙上での気道確保と高濃度マスクにて酸素10ℓ投与を開始した。隊長は、坐位でいた傷病者2名(B氏、C氏)に接触(写真8)、2名とも歩行は不能、呼吸正常、橈骨動脈触知可能、従命と会話も可能で、「非緊急」とし、最優先搬送傷病者をA氏とした。

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写真6

側臥位で倒れているA氏に接触

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写真7

外耳孔から出血を確認

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写真8

隊長は坐位でいた傷病者2名(B氏、C氏)に接触

+5分、指揮車と消防隊2隊が現場到着、指揮隊員は現場の安全を再確認するとともに現場指揮本部を設置、関係者から事故概要を聴取し本部指令室に現場報告、あわせて現場の状況と初動出場隊の数から応援隊の必要はなしと判断し報告した。また、消防隊員は救急隊員2名とともにA氏をバックボードへの全身固定を実施(写真9)、+8分に救急車①に収容(写真10)した。この間に救急隊長は、B氏とC氏の観察を実施、B氏は、意識清明、左下腿部痛、変形なし、外出血なし。C氏は、意識清明、右顔面打撲、右手関節変形、外出血なしを確認し、傷病者3名の情報を現場指揮本部に無線で報告した。

+10分、救急隊2隊②③が現場到着。傷病者2名(B氏、C氏)を後着の救急隊に引き渡し、2名とも全身固定と酸素投与が実施され、B氏は救急車②へ、C氏は救急車③へ収容。

 +11分、救急車①に収容したA氏が心肺停止。蘇生開始、AED装着、心電図波形は無脈性電気活動であった。バックバルブマスクでの換気は良好(写真11)。

 +12分、救命救急センターからドクターカー、ラピッドカーが現場到着し、医師2名と看護師1名が救急車①に乗車しA氏に対応、医師2名と看護師1名がB氏とC氏を対応した。

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写真9

A氏をバックボードへの全身固定を実施

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写真10

A氏を救急車①に収容

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写真11

心肺停止になったA氏に心肺蘇生を開始。

医師同乗後の救急隊①の活動(A氏)

 +12分、医師2名と看護師1名が同乗。

 +22分、医師と看護師により静脈路確保と薬剤投与が開始される。同時にもう1名の医師により気管挿管を試みるが確保困難によりバックバルブマスクでの換気を継続。救命救急センターに向け現場出発。救急隊員により救命救急センターに状況報告。

+29分、救命救急センター到着。

医師同乗後の救急隊②の活動(B氏)

 +12分、医師1名同乗。

 +17分 医師により静脈路確保。

 +25分、救命救急センターに向け現場出発。

+33分、救命救急センター到着。

医師同乗後の救急隊③の活動(C氏)

 +12分、医師1名、看護師1名同乗。

 +25分、救命救急センターに向け現場出発。

 +26分 医師により静脈路確保実施。

+33分、救命救急センター到着。

時系列

まとめ

 今回の事例では、帰署途上で、現場近くにいた救急隊が出場したために単隊での先着となった。消防車-救急車同時出場、同時現場到着であれば、現場での役割が明確であるため、スムーズな情報収集、情報伝達、現場活動が行えたのかもしれない。しかし、災害は、時を選ばない、日頃からこのような状況を想定し、先着救急隊の役割としての、安全管理、トリアージ、現場の管理、そして傷病者と活動隊のコントロールの重要性を理解はしていたが、目前に重篤な傷病者がいると、割り切っての情報収集、後着隊へ情報伝達や活動指示、そして現場を管理することは非常に困難であり、十分にはできなかった。このため、後着隊への情報伝達が遅れたことは事実であり、改めて複数傷病者の現場管理と情報の共有の重要性を強く感じた事例であった。

また、傷病者3名とのことからトリアージを実施したものの、トリアージタグを使用しなかった。これは、トリアージタグは、大規模な災害において使用するものと認識していたためである。しかし今回の活動において、3名でもトリアージタグを活用すべきだったと、そして日頃からトリアージタグに慣れているべきだと再認識した。

非日常的に発生する複数傷病者事故は、訓練だけで経験を積むことは難しく、災害現場でのトリアージタグ記載もままならない。さらに、複数傷病者に対応するためには、情報収集や現場管理、そして的確な判断が必要であり、現場指揮本部の指揮能力も必要不可欠である。このことを踏まえ、本事例の検証結果に基づき、全職員が複数傷病者対応の共通認識を持つことが必要であると考える。

最後に、「ここで複数傷病者が発生したならば、どのような指揮、部隊活動、場所取りをしよう。」と日頃から考えることが大きな一歩だと確信する。

執筆

日立市消防本部

多賀消防署

 

田村 悠輝(たむら ゆうき)

救急救命士

拝命:平成25年

趣味:映画鑑賞、カラオケ

須田 賢治(すだ けんじ)

救急救命士

拝命:平成6年

趣味:ゴルフ、ギター

コメント

玉川進(旭川医療センター病理診断科)

現場写真が添えられており、状況がよくわかる。高所から複数が転落するのは何も工業都市の日立市に限ったことではない。どんな小さな村でも起こりうることである。

筆者らの指摘している問題点は2つある。一つ目は重症患者を目の前にしての情報伝達と現場管理。「目前に重篤な傷病者がいると、割り切っての情報収集、後着隊へ情報伝達や活動指示、そして現場を管理することは非常に困難」であることは、読者が等しく納得するはずである。これは救急外来であっても同じで、私も今でも悔やまれる症例を経験している。

二つ目はトリアージタックの使用についてである。原稿を読む限りでは、この事例ではタックの必要性は低い。だが何でも習慣にしておかなければ本当に必要なときには忘れてしまう。患者が2人であってもタッグを付けるようにすることが、「複数傷病者が発生した」ときの対応に結びつくことをこの症例は教えてくれる。






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