061102上手な気管挿管
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061102上手な気管挿管
挿管救命士になるためには30症例に挿管すればいい。しかし以前に書いた通り、生涯研修として挿管をさせているところは多分まだないだろうし、今新しい挿管救命士を作っている段階では生涯研修に挿管が入るのはいつになるか分からない。30症例で挿管のすべてが分かるはずもなく、また一例ごと工夫して挿管しようと心がけても実際の患者を目の前にすると心の余裕などないだろう。
今回はエビデンスに基づいた医療(EBM)の一つとして挿管方法を述べた論文を紹介する。別にエビデンスがなくても全例挿管できれば問題はないのだろうが、どんなふうにすれば入りやすいか覚えておくものいいことだろう。
頸椎損傷症例に挿管
今回紹介する論文1)は頸椎損傷が疑われる救急患者に対してどうやって挿管したらいいかというもので、EBM(エビデンスに基づいた医療)を提言するために書かれたものである。まず彼らは「頸損疑いの患者に挿管をするときに、特別な手技はあるのか」を検討した。
重症外傷患者で頸損の可能性のある患者は全体の2-5%あり、その中で実際に14%は頸椎の不安定性が指摘できるという。救急外来で挿管が考慮させるのは臨床症状と受傷機転、それに画像診断による。鈍的外傷患者で頸椎損傷がある患者の10%は救急外来搬入後30分内で挿管されていたという結果もある。しかしながら挿管に手間取ったり失敗したりすることは死亡などの重大な結果を引き起こしかねない。また急ぐあまり乱雑な手技を行えば頚髄損傷をさらに悪化させる可能性もある。
筆者らは1966年から2003年までの医学論文とインターネット上の論文を検索し25編の論文をピックアップした。
その結果は
- 頸損が疑われる患者では急速導入法が勧められる
- 頸損患者では手で頭部を保持する。これは患者の側頭部をボーリングの球を持つように両手で支える。この手技は患者の頭部が伸展屈曲したり回旋したりすることを防ぐ。頭を引っ張る必要はない。挿管時には挿管が成功する最低限の頭部運動をさせる。ネックカラーが装着されている症例では、挿管時にはカラーをゆるめるか前半分を取り除き開口と輪状軟骨圧迫を可能にさせる。
- スタイレット(挿管チューブの中に入れてチューブの曲がりを決める針金)は必須。
- 喉頭鏡のブレード(口の中に入る部分)の選択も重要。勧められるのはマッキントッシュタイプ(緩やかに曲がっているもの)かマッコイタイプ(先端がぐっと曲がるもの)
- 挿管に失敗した時にはラリンゲアルマスク(LMA)を挿入する。LMAは事前の練習が必要。LMAには誤嚥の危険性があることも覚えておく
急速導入法でのエビデンス
麻酔をかけるときのテクニックの一つで、そのうちのエビデンスは次の通りである
- 現病歴・既往歴の確認:JPTECでいうGUMBAとかSAMPLEは緊急挿管時の情報として有用
- 機材・薬剤用意。人員配置:スタイレットは挿管の成功率を1.5倍にする
- 患者に酸素マスクで高濃度酸素投与。5分以上状況が許すまでネックカラーの前半分を取り去る。
- 患者の頭部を隊員が保持:Mallampatiスコアは有用かもしれない。頸椎カラーをしていたり腹臥位などの患者ではスコア付けができない
- 静脈麻酔薬と筋弛緩薬を急速静注
- 患者就眠と同時に輪状軟骨圧迫:喉頭展開時に甲状軟骨を動かすBURP法も有用かもしれない
- 筋弛緩薬が最大効果を現した時点で開口、挿管:挿管時の頭部固定はネックカラー・テープ・砂袋とも不可。喉頭展開不十分となる。手で頭を押さえるのが一番いい。挿管手技が何回まで許されるかはエビデンスがない。これは患者それぞれで外傷の程度も状態も違うからである
- 挿管チューブのカフに空気を入れる。換気確認。
- 輪状軟骨圧迫を解除
- 吸入麻酔薬投与開始
LMAとの比較のエビデンス
どの方法で気道確保するかは(当然ながら)施術者の技術と経験による。 LMAは挿管と同等の効果という報告がある。またLMAが頸椎の偏位を起こすことが報告されている。頸損患者には危険な話なのだが、これについては支持する報告と否定する報告があるので何とも言えない。挿管チューブとLMA以外の器具、例えばコンビチューブやラリンゲアルチューブなどは報告が少なくエビデンスがないとしている。
挿管困難>頸損
さらに彼らは、頸損患者で当然予想される挿管困難症例についても22編の論文からエビデンスを探した。
挿管困難のアルゴリズムについてはいくつか出ているものの、外傷患者に特化したものはほとんどない。ぞこで現在最も支持されている気道確保困難学会のアルゴリズムを検討している。簡単に書くと、SpO2をモニターしつつ、酸素飽和度が維持できれば2度まで挿管を試み、それでだめなら患者や周りの状況をちゃんと確認して挿管を試みるか、止めるか、気管切開をするか考える。酸素飽和度が落ちるようならLMAを入れ、LMAも入らないようなら気管切開を行うというものである。このアルゴリズムには頸椎損傷も外傷患者も一般の患者と同じ扱いである。
この考えはガイドライン2005と同じある。ガイドラインでも気道確保は頸損に勝るとして、下顎挙上で気道確保ができない場合には頸損が疑われても頭部後屈をするよう勧めている。
挿管困難患者に対するLMAの有用性は証明されている。しかし外傷患者の挿管困難に限っていえば症例を蓄積している最中であり、はっきりしたことは言えない。
普段の訓練と引き返す勇気
急速導入法は4人で行うとしている。しかし、日本の救急隊は通常3人、それだけでもハンデがある。さらに3人の中で挿管救命士が複数いることはまず考えられない。高エネルギー事故、頸損疑い、心肺停止、挿管。これで挿管困難にぶつかったときには、喉頭展開をしたとたんに頭が真っ白になるだろう。手術室なら別の医者を呼ぶこともできる。しかし救急現場では自分一人。逃げることはできない。普段の訓練と引き返す勇気が必要である。
引用文献
Emerg Med J 2006;23:3-11
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06.11.2/10:55 PM
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