阿部陽太郎:外傷病院前救護プログラムに従って救助隊とともに活動し救命に成功した交通外傷の一例

 
  • 365読まれた回数:
症例

OPSホーム>投稿・報告一覧>阿部陽太郎:外傷病院前救護プログラムに従って救助隊とともに活動し救命に成功した交通外傷の一例

阿部陽太郎、石村幸、清水武博、市川裕幸、佐藤郁男、坂本幸智、本川宏樹:外傷病院前救護プログラムに従って救助隊とともに活動し救命に成功した交通外傷の一例。プレホスピタルケア 2005; 18(1通巻65):36-39


外傷病院前救護プログラムに従って救助隊とともに活動し救命に成功した交通外傷の一例

阿部陽太郎、石村幸、清水武博、市川裕幸、佐藤郁男、坂本幸智、本川宏樹
稚内地区消防事務組合消防署

はじめに

現在各地でJPTECを初めとした外傷初療プログラムの講習会が開かれ普及が図られている。しかしこれらプログラムの習得は消防組織とは直接には関係がなく、個人の熱意にゆだねられているのが実情でである。今回私たちは交通事故でCPAに陥った傷病者に対し外傷初療プログラムに沿って活動を行った。この事例では安全管理のため出動した救助隊も同じプログラムに則り行動できたため極めて迅速かつ安全に活動でき、これが患者の救命にもつながったと考えられるのでここに報告する。

事例:

男性。男性が乗用車にはねられ意識がない模様との通報があった。現場は迂回路のない片側1車線の道道であり、通勤時間帯のため救急隊のみで現場の安全管理を含めた活動は困難と判断し救助隊にも出動要請のうえ覚知から1分後に出動した。
現場到着前に感染防御具(ガウン、ゴーグル、グローブ)を着装し資機材の準備を行った。現場に近付いたところ約100m手前から渋滞となり、さらに接近したところ反対車線に毛布をかけられている傷病者を確認した。すでにパトカー1台が臨場しており、交通は遮断されている模様であった。
覚知5分後現着。傷病者はランドセルを背負ったまま腹臥位で毛布をかけられていた。直ちに観察を行ったところ呼びかけ反応はなく顔面は蒼白で呼吸は確認できなかった。腹臥位では活動に差し支えるため隊員とログロールを行い傷病者を仰臥位としさらに観察を続けたが、やはり呼吸が停止していたためCPRを開始した。この時点で救助隊が到着した。救急隊員と救助隊員に対し傷病者がCPAでありLoad and Go適応であることを宣言し、さらに救助隊員に対して情報収集と収容準備の協力を要請した。傷病者に対してネックカラーを装着し、バックボードに固定の上車内収容しバッグバルブマスクに酸素を10L/分接続した。この時点で衣服を裁断し観察したところ胸腹部には打撲痕は認めなかった。心電図モニターを装着し心静止を確認した。覚知12分後に心電図上に波形が出現した。ネックカラーを装着していたため総頸動脈での脈拍の確認はできず、また橈骨動脈は触知できなかった。覚知12分後現場出発。この時点で心電図上は120回/分の頻脈となったが総頸動脈と橈骨動脈は触知できず、また自発呼吸もなかったためCPRを継続した。

頭部と顔面の観察では頭蓋骨と顔面骨の動揺・礫音は触知しなかった。耳鼻出血もなかった。瞳孔は瞳孔左右とも7mmで対光反射は消失していた。
覚知15分後に病院到着。

自発呼吸がないままCPR継続し病院へ収容した。医師により総頸動脈脈拍が確認された。直ちに気管挿管と薬剤投与がなされた。覚知25分後には血圧97/26mmHg、脈拍159/分、酸素飽和度96%であったが自発呼吸は再開しなかった。脳挫傷、外傷性くも膜下出血、左腎損傷、肺挫傷、低酸素脳症の診断で入院となった。

拡大

第3病日には自発呼吸出現したが弱いため、現在でも人工呼吸器から離脱できていない。

考察

防ぎえた外傷死亡をなくすためにJapan Prehospital Trauma Evaluation and Care(JPTEC, 救急隊員向け 外傷初療プログラム)の普及が図られ、全国的に定着してきている。このプログラムの中には現場を5分で出発するという目標がある。だが実際救急隊のみの活動では5分以内の現場出発はかなり難しい。
今回の事故現場は普段から交通量が多くしかも迂回路がなかった。事故が起きた時間は通勤時間帯であり、交通の遮断を含めた安全確保に人手を要することから119受信時点から救助隊を要請した。また受傷機転の把握により高エネルギー事故と判断しLoad and Go の適応と考えられた1)。幸いなことに救助隊もまた外傷初療プログラムを理解しており、傷病者への処置と情報収集でで的確なサポートが得られた。これが早期に現場を出発でき、さらには傷病者の心拍が再開した大きな要因であると考えられる。
本事例を通じて、外傷初療プログラムに則った行動が救急活動に有効であることが理解できた。また救助隊の投入が迅速な活動につながったと考えられることから、人命を救うために覚知段階からの柔軟な人員配置が必要である。

結論

(1)救急隊のみではなく救助隊も含め外傷プログラムを理解し共通の認識で活動する必要がある。
(2)救急隊だけの活動では限界がある。必要と思われるときは柔軟にマンパワーを投入し他隊と連携することで早期に現場を離脱できる。

文献

1)JPTEC協議会マニュアル作製ワーキンググループ、編:JPTECプロバーダーマニュアル。株式会社プラネット、東京、2003


OPSホーム>投稿・報告 一覧>阿部陽太郎:外傷病院前救護プログラムに従って救助隊とともに活動し救命に成功した交通外傷の一例






症例
スポンサーリンク
opsをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました