手技76:阿寒湖消防が語る「冬の救急」(0)-総論
阿寒湖消防が語る「冬の救急」(0)-総論 (1)-設備資器材編 (2)-症例編
講師
沼田一成
釧路市西消防署阿寒湖温泉支署
救急救命士
北澤健行
釧路市西消防署阿寒湖温泉支署
釧路市西消防署阿寒湖温泉支署庁舎 | |
阿寒湖と救急 | |
まりもんろー&まりもっこりもちろん阿寒湖が発祥の地です | |
結氷を控えても一隻だけ残した遊覧船、来春に氷を割るため一隻だけ湖に残ります.この船の周りだけ温泉を流し氷は張りません | |
結氷前の湖で遊ぶ鴨たち | |
昔は鴨もその卵も貴重なタンパク源だったそうです. | |
紅葉も終わり冬景色を待つ自然. | |
ホテルの向こうに見える雄阿寒岳はもう雪で白い | |
これらの常設テントやスーパーハウスが氷の上に乗っても場所を間違えなけれ割れることは無い. | |
漁協の人たちが仕事や観光客の案内をするところ.食事もできます. 氷の厚さがわからない時はここで教えてもらいます. |
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スケートマラソンは200キロを早朝から滑ります、湖の数キロ沖までコースが造られます.スケート場とフェスティバルメイン会場に変身 | |
スノーモービルコースに変身 | |
スケートマラソンコースに変身 | |
阿寒湖温泉観光名所の一つアイヌ集落正面の建物チセでは毎日、国の重要無形文化財でもあるクマ祭りの踊りが連日行われています. | |
このアイヌ集落も傾斜がきつく冬期間は救急隊泣かせの場所であり、活動には注意が必要な場所の一つ | |
大雪の年(後述)水利除雪のため急きょ,かんじきを作成し除雪に行きました。
救急活動でかんじきを使用したことは今のところありません。 しかし,スノーシューやかんじきを隊員数分用意しておく方がベストかもしれません。 |
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阿寒湖の冬 | |
阿寒湖の冬の観光用パンフレット
2007 阿寒湖氷上フェスティバル |
北海道の春は桜の開花が最も早い函館方面から始まります。ここ阿寒湖はゴールデンウィークが明けた5月の中頃にやっと桜が開花しはじめ春が始まります。夏は子供たちの学校の夏休みと同じ7月の第3週目くらいから8月の第2週ぐらいまでで、わずか20日程度がわが町の夏。
秋はここから10月の中旬頃までで、そこからゴールデンウィークまでは救急隊員にとっての意識は常に冬です。実に8ヶ月が冬です。 阿寒湖は冬季間は全面結氷し多くの観光客、釣り客が湖に張った氷の上で楽しみます。連夜の花火大会、200キロのスケートマラソンも行われます(図1)。 |
冬の症例 | |
手前の手すりは共同住宅の1階ベランダの手すり地上からは180cm
煙突の無い石油FFストーブ(密閉式)では住宅の壁からここに向かって給排気が取り付けられています。 ここまで積もると石油FFストーブ(密閉式)では給排気筒が雪にかくれ不完全燃焼となる場合があり,一酸化中毒等も発生します。雪国に長くすんでいる人はわかっていますが,本州の雪の少ない地方から引っ越してきた方は気をつけてほしいです。 |
どの症例でも、冬季間の救急出場ではいろいろと苦労させられる場面があります。例えばストレッチャーが曳航できない場所での、救急車までの搬送方法。阿寒湖温泉支署ではほとんどの場合、バスケットストレッチャーを使用するなどして、結局のところ召集した後続隊のマンパワーに頼っているのが現状です。また一度にたくさんの降雪があったときは(図2)、雪が羽毛のように人を飲み込んでしまいます。
こういった事案では迷わずに応援を要請します。マンパワーは絶大です。 |
ほかにも、JPTECなどプログラム化された標準的な活動も、こうした環境では無力化されてしまうこともしばしばです。現場で服を切るのも、氷点下でそれをされたのでは傷病者もたまりません。救急隊員としての最低限の役割である、悪化防止という観点を無視することになってしまいます。現場に長居しないのは当然ではありますが、いつも以上に気にする必要が出てくるのです。 さらには現状評価をすれば、安全に活動できる症例は多くはありません。冬には湖の上へ出動することが多くあります。内容は転倒による骨折、頭部打撲、テント内で炭火を焚いてのCO中毒などです(図3)。CPRをしている下は、地面ではなく凍った湖のこともあります。 |
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湖での出動時に気をつけていることは、一面、広大な広場に見えます(図4)があくまでも湖の上の氷の上を走行しているという意識を忘れないことです。特に氷の張り始めと春は注意が必要です。 | |
氷の厚さを確認しているところ
帽子をかぶっていない人が本当の漁師さん |
阿寒湖には漁業協同組合がありいつも氷上で仕事をしているので、怪しいと思ったときは氷の状態を組合員に確認(図5)してから車を進めます。時には岸に車を止めて資器材と隊員だけが現場まで行くこともあります。車内収容までは時間はかかりますが、車ごと落ちてしまっては自分たちが要救助者になってしまいますから。 安全な現場ではないことなど、昨今の救急現状では当然考慮すべきではありますが、冬季間の条件下においては、その厳しい寒さとともに、特殊な救急活動の難しさが身にしみることになります。 |
転院搬送も大変 | |
除雪でできた雪の壁 3メートルは楽にこえる高さになりました.左の子供は身長165㎝道路の雪がここまで積み上げられた陸の孤島となり3日間大きな災害及び,管外救急搬送が無くて本当に良かった。 三日間の豪雪で排雪した雪がここまで積み上げられ雪壁と化した,道路幅は非降雪期間の半分となった。 この年もエルニーニョ現象と言われていた。 今年(2006年)もそういわれ子供と愛犬は喜んでいるが3年ぶりに降雪量が心配です。 |
また、冬期間は搬送にも当然ながら時間を要し、80キロ先の3次医療機関までの搬送時間が90分100分を超えてしまうことも少なくありません。 それなら、搬送手段をヘリコプタ-にすれば解決すると思われるかもしれませんが、釧路市消防本部には航空隊は配備されておらず、ヘリコプター搬送を考えるとき北海道防災ヘリを要請することになります。これがまた、北海道の東と西で約300キロメートルも離れており飛行時間で到着まで90分かかります。さらに中間には日高山脈がそびえたち、離発着場と日高山脈すべてが晴れていることは少なくなかなか飛んできてもらえないのが現状です。 いつの日か広い北海道の東側に一機ヘリコプターが配備されるまでは自分たちが最善の注意を払いながら救急車で搬送するしかないのです。 しかし、3年前に予想を超える大雪が降りました(図6)。阿寒湖地区はここから40キロ離れたところまで行かなければ入院できる医療機関はありません。阿寒湖から他へ出るためには足寄峠、釧北峠、阿寒横断道路、国道240号線のいずれかを通る必要がありますが、これらすべてが大雪のため3日間通行止めとなりました。幸いこのときは、診療所に医師1名が常駐していてくれたおかげで管轄外への搬送はありませんでしたが、急ぐ手術の必要な傷病者や三次の事案が発生していたらと考えるとぞっとします。 |
私たちの工夫 | |
・冬季間はウインタースポーツや屋外での事故で全身固定をする機会が多くなります。ここで着衣の切断は車内収容後に実施することも考慮すべきです。ただし、ダウンを使用しているジャケットやスキー・スノーボードウエァは車内で切ってはいけません。車内が養鶏場に変わってしまいます。 ・ウインタースポーツはそれぞれそのスポーツごとに特殊な靴を装着しています。これらは進歩が早くて見た目は紐を解くだけで脱がせそうな靴も実は中にバックルがあったり、さらに、中でインナーに紐があったりバックルがあったりとさまざまです。また脱がすこつもそれぞれにあるようで、新しいものを常に用品店で眺めています(もちろん買うためではありません)。 ・短時間で大雪が降ると道路の除雪が間に合わず現場まで救急車が到着できないような状況が一年に何度かあります。そのようなときのために、市の除雪委託業者に直接連絡をとり、現場までの除雪を優先してもらうような体制となっています。 |
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07.2.9/10:17 PM
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