亀山洋児: 社会見学に対する工夫。 月刊消防2010;32(1):89-91

 
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月刊消防投稿

社会見学に対する工夫

亀山洋児
稚内地区消防事務組合消防署猿払支署
098-6233 北海道宗谷郡猿払村鬼志別南町1
TEL 01635-2-2119
FAX 01635-2-3159

皆さんの職場にも地域の小学生や中学生、保育園児などが社会見学にいらっしゃると思います。消防職員にとって常識的なことでも保育園児や小学校低学年の児童には難しい説明となってしまいますので、そういった方々が対象の場合にはより解り易いように言葉を選び、説明よりも実際に見せることを中心にプレゼンテーションしています。今回、小学校4年生の社会見学に対してちょっとした工夫をしてみたところ意外な発見がありましたので紹介したいと思います。

今までの社会見学は

従来、社会見学に対する説明は119番通報の受信から救急出動の指令・火災出動の指令など通信指令設備の説明に始まり、早く現場に到着するために日頃からしている工夫や準備、消防車両の種類や積載している水の量、消防車に積載してある機材の説明というように覚知から現場到着・現場での活動要領を順を追って説明し、内容はこちら側から見て必要と思われる事項を中心に説明していました。質疑応答については事前に質問事項を提出していただき、社会見学の最後に会議室で質問事項に回答していました。実際には学校側も社会見学に対してそれほど時間を割けないので見学時間は45分-1時間位のことが多く、時間も少ないためあまり詳細には説明できず、どこの学校の小学4年生が来ても説明や見せる物は同じでした。

伝えたいことよりも聞きたいことを

今回はせっかく社会見学に来てくれるのだからこちらから伝えたいことを一方的に説明・紹介をするよりも、見学に来てくれる児童の質問事項に着目して説明をすることにしました。

図1 児童からの質問事項を加えながら説明

説明の順番は従前どおり覚知から現着、現場活動の順に説明するのですが、児童の中には「消防団員さんは何名いますか」など、普段の説明の中では時間の都合上割愛していた部分や、「火を消しているとき、トイレに行きたくなったらどうするのですか」など到底一般的な消防職員では思い付かないような事柄にも質問が及びますので、児童からの質問を整理して、「119番通報を受信して通報内容が火災の時にはサイレンを鳴らします」という説明に「猿払村には消防団員さんが124名いて、火災発生のサイレンを鳴らすと出動してくれます」のように児童からの質問事項を加えながら説明していきました(図1)。児童が疑問に思っていることを取り入れて説明することにより、児童の興味も高まり説明にも熱心に聞き入ってくれました。

会議室での説明より実物を

図2 見せて触らせたりすると社会見学を楽しんでくれます

同じ事柄や資機材を説明するにしても、社会見学終了前に質疑応答の時間をとって会議室で机・椅子に座って実物に触れることなく口頭で説明を受けるよりも、65mmのホースを二重巻きの状態で実際に持ってもらい重さを体感したり表面の布の硬さや内張りがゴムであることを見せて触らせたりするだけでも児童たちはお互いに感想を言いながら社会見学を楽しんでくれました(図2)。児童にとって興味のある事項を実際の物に触れながら説明を受けるという事は児童自身が社会見学に来る前に学級で話し合って想像していたものと実際の物の違いを肌で感じる事ができ、僕たち消防職員にとっては当たり前に感じるホースの構造も、児童にとってとても新鮮だった様です。些細な内容でも目をキラキラさせながら一生懸命こちらの説明に聞き入る姿は社会見学に対応する側にも感動を与えてくれました。また、中学生の質問の中に「ホースの水の圧力はどのくらいになるのですか?」という質問が有り、口頭で説明して実際に放水を体験させてあげました。

相手の理解の程度を確認しながら

今回は偶然にも1週間位の間に小学校1年生と小学校4年生の社会見学が3件ありました。通常のJPTECやICLSのコースでも受講生に教える時に使うスキルですが、相手の理解の程度を確認しながら話をすることは相手の学習を深め自分自身の指導方法の選択にもつながるため有効な手段です。小学校1年生と4年生に「火事で消防車を呼びたい場合や交通事故や急病などで救急車を呼ぶ場合は何番に電話すれば良いか解りますか」という質問をしてみました。自分の予想では小学校1年生では「火事と救急は119番」ということを理解している子供はいないだろうと考えていましたし、実際にも小学校1年生では誰も「火事と救急は119番」ということを答えることはできませんでした。これを機に覚えて貰えればと思いお話したのですが、小学校4年生に同じ質問をしたところ半分くらいの児童は答えられませんでした。自分の認識の中では小学校4年生であれば「火事と救急は119番」というのは常識であり、専門的なこと以外は理解している年齢だと思っていましたが、「小学校4年生というのは社会の仕組みを理解していく途中の微妙な年頃」と考えを改めました。

反応のいいところに時間を割いて

図3 最後にも質問を受け付けます

話し方も語気を和らげ難しい言葉を使わないのは当然ですが、児童の目線にたって児童の反応が良かった部分に時間を充てるように説明をしました。事前にいただいた質問事項を説明の中に盛り込んで、実際に見せながら説明することで、児童は興味をそそられたらしく、こちらの説明に熱心に聞き入ってくれました。また、説明の中に児童の質問事項を取り入れる事により社会見学終了時の質疑応答の時間に児童が質問する項目を減らす事ができます。ただし、質問事項でも説明し忘れたり、児童によっては説明を聞いて別の疑問が生じたりするので、最後にも質問を受け付けます(図3)。後日、学校帰りに担任の先生と一緒に大きな模造紙に自分達で書いたお礼の手紙を貼って消防署に届けてくれたのですが、児童のお礼の手紙に書かれていた感想からあの見学に対する説明で児童がどのように感じてくれたのか理解することができました。児童からの反応も良かったので次回も児童の質問事項に沿って実際に通信指令台や消防車の前で実物を見せながら説明したいと思います。

中学生以上に対しては

中学生は職場体験訪問という名目で毎年数名の生徒が5時間程度消防署で放水訓練や救命講習、救助訓練などを体験しています。事前に質問事項を提出していただき、職場体験訪問終了間際に質疑応答の時間を取って説明しています。回答を印刷して引率の先生に渡すことでメモをとる手間を省き、生徒が説明を聞いて内容を理解することに集中できるようにしています。中学生の場合は理解力も高いのである程度は普通に説明しても理解してくれますし、質問内容も「火災原因の上位になるものはどの様なものがありますか?」等といった体制・現況の様に現物を見せる事の出来ない質問が多く、救命講習を行っても授業のように説明した後にこちらから「なぜ早期のCPRが大切なのですか?」などと質問をしても答えてくれるので講習を行って理解の程度を確かめることも容易なため、有意義な職場体験をしていただくことができます。今までも上記のような年代の方々には有効な見学・体験をして頂けていたと思っています。話で聞くよりも実体験に勝るものはなく、実物に触れて説明をするという手法は、小学生ばかりではなく中学生以上の社会見学であっても有効でした。

おわりに

今回の小学校4年生の社会見学から以下のことを学びました。

  • 自分が伝えたいことを中心とした説明ではなく、社会見学に来る人の質問事項に沿った内容で説明をすること。
  • 最後にまとめて質疑応答ではなく、できるだけ実際に物を見せながら説明すること。
  • 社会見学に来る人の消防に対する理解度を確認すること。

多少なりとも皆さんの参考になれば幸いです。


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10.2.8/2:16 PM






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