151227今さら聞けない資器材の使い方(22) 自己防衛装備(PPE)

 
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151227今さら聞けない資器材の使い方(22) 自己防衛装備(PPE)

吉田 航太

所属:八戸地域広域市町村圏事務組合
八戸東消防署
著者

出身地:青森県八戸市
消防士拝命:平成21年4月1日
趣味:バスケットボール、映画鑑賞、読書

1.はじめに

今回、「今さら聞けない資機材の使い方」シリーズ、「自己防衛装備(Personal protective equipment; PPE)」について執筆させていただくことになりました、八戸地域広域市町村圏事務組合消防本部、八戸東消防署・消防士6年目の吉田航太と申します。我々消防は、安全かつ迅速な活動を行えるように様々な訓練を実施し、技術を磨いています。その中のどの場面においても、私達と「自己防衛装備」は切っても切り離せない関係にあります。それだけ重要である自己防衛装備について、深く知る必要があるという想いから、自己防衛装備ついて執筆させていただきます。

各消防本部では、さまざまな自己防衛装備を使用していると思いますが、今回は私達が普段使用している資機材を例に検証を行います。

2.自己防衛装備
自己防衛装備について、諸元、使用方法等の知識を復習します。これを機に、自己防衛装備の正しい使用方法・選定について考えてみましょう。

まず最低限必要の装備の検証です。

(1) 保安帽
自己防衛装備の中で、第一に着装すると言っても過言ではない保安帽。労働安全規則で保安帽の着装が義務付けられている条件は、「物体の飛来のおそれのある作業」や、「2m以上の高所作業時」となっています。保安帽の着装目的は、飛来・落下物からの保護、高所からの墜落保護です。着装方法はみなさんお分かりでしょう。保安帽に関して注意するべき点は状態管理です。耐用年数等、状態管理については表1のとおりです。私達が使用している保安帽は、ほとんどが繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics, FRP)製で、着装体の内側に衝撃吸収ライナー(発泡スチロール等)が装着されている型です。(写真1)

帽体、着装体及び衝撃吸収ライナーが良い状態かつ正しい着装方法で使用してこそ、はじめて自己防衛装備品となります。いま一度みなさんもご使用の保安帽を点検してみましょう。(写真2)

写真2 常に安全な保安帽を着装しましょう

表1 FRP製 飛来・落下物・墜落保護ヘルメット

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耐用年数:

外観に異常が見られなくても5年以内に交換が好ましい。一度衝撃を受けたもの、その他衝撃の跡が見られるもの及び汚れが著しいものは交換が好ましい。着装体は、1年以内に交換が好ましい。(日本ヘルメット工業会 保護帽の取扱マニュアル参考)

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(2)ゴーグル・マスク
飛来保護・感染防止を目的として使用しているゴーグルは、様々なモデルが販売されていますが、大きく分けると2種類あります。ゴムバンド等で締め付けて気密性を高くするタイプと、メガネタイプです。メガネタイプのゴーグルは、軽く、圧迫感が無く、視野も狭まることがなく大変使い勝手が良く感じます。しかし、メガネタイプは気密性に欠け、保護面積も少ないというデメリットがあります。状況に合ったゴーグルの選定が必要です。

感染防止・粉塵等吸入防止を目的として使用しているマスク。様々なマスクが販売されています。そのたくさんの種類の中から私達が災害現場活動時に、求められる機能を考えてみました。

第一に、ウイルスや有害物質を十分に防げること。第二に、ゴーグルと併用し活動している中で、ゴーグルの曇り等活動中支障をきたさないこと。これらを踏まえて選ぶと、どのようなマスクが適切でしょうか。私は災害現場用として、N95規格・排気弁付マスクを使用しています。ろ過率と防護率の観点からは、N95以上の規格が好ましいと思ったからです。マスクを着用しながらの現場活動中、もっとも活動に支障をきたすのはゴーグルの曇りですが、この点に関しては排気弁付のマスクが最良だと思います。(写真3)

写真3 より良い活動を行えるように

たくさんの種類が販売されている装備品だからこそ、基本的な知識と必要性を基に選定するべきです。

(3)編上げ靴


足元を保護し、ズボン裾の巻き込み・引っ掛かり防止を目的としている編上げ靴。諸元については表2のとおりです。普通作業用がもっとも広く使われています。編上げ靴もゴーグルやマスクと同じく様々なモデルが販売されておりますが、大きく分けると革製のものと布製のものの2種類に分かれます。一部にはつま先の耐衝撃・耐圧迫性能が劣るものや、耐踏抜き性を有していない編上げ靴もあります。これらは現場で使うべき編上げ靴とは思えません。

私は布製の編上げ靴を履いています。布製編上げ靴は、通気性に優れ、軽く、勤務中長い時間編上げ靴を履く救助隊員にとっては、非常に好都合の編上げ靴です。

しかし、先日私は救助隊の先輩に「いつも君は、その薄い布製の編上げ靴を履いているが、瓦礫等の鋭利な物が足元に散乱している災害現場に対応できるのか?」と言われました。私はその時までそれぞれの編上げ靴のメリット・デメリットを考えたことがありませんでした。勤務中に気分が良いという部分だけ考えていたのかもしれません。編上げ靴も出動場所に応じた選定が必要であることを初めて考えさせられました(写真4)。

写真4 それぞれにメリットがあります

(3)安全帯

高所作業等での自己確保するために欠かせない資機材が、安全帯です。労働安全衛生規則では、安全帯の着装が義務付けられている条件として、「高さ2m以上の箇所」で、「作業床を設けることが困難なとき」「開口部で囲いを設けることが困難なとき」と定められています。

まず使用方法について正しく理解しているか考えてみます。安全帯は、多くの人がアレンジして装着し、器具等を安全帯に付けているシーンを多く見るので、ここで使用方法を整理しましょう。

皆さんが普段お使いになっている安全帯は、1本つり専用(ロープまたは、ストラップ巻き取り式)がほとんどだと思います。今回はこの型式で、安全に使用する基本的なポイントをあげ説明していきます。

ポイント1つ目として、D環の位置または、巻き取り器の位置が身体の横、あるいは斜め後ろにくるように装着しましょう。D環の位置は墜落時活動隊員にかかる衝撃荷重の軽減につながる重要なポイントです。活動中における安全帯自体のズレにより、D環の位置が変わることにも注意しなければいけません。活動隊員はもちろん、部隊の安全管理を担う方々も注意しなければいけないポイントでもあります。

ポイント2つ目として、胴ベルトは正しい位置で締め付けをします。(写真5)

写真5 活動中にも注意をしましょう

腰骨の位置で締め付けるのが正しい位置です。写真5のように腰骨の下で締め付けると、墜落時足元に抜けるおそれがあります。腰骨の上で締め付けると、墜落時内臓圧迫等のおそれがあります。多くの隊員が腰骨のすぐ下に装着していますが、正しい位置は腰骨を覆う位置です。写真6のように胴ベルトがしっかりと締め付けられていない隊員も、度々見ます。

写真6 ベルトの緩みにも注意しましょう(悪い例)

安全帯の位置、ベルト締め付けは基本です。今一度確認しましょう。

ポイント3つ目として、墜落による振り子状態が発生した時、構造物に衝突しない箇所にフック等を取り付けましょう。私自身も、いつもフック等を腰より上部に取り付けることばかり意識し、墜落時どう身体が振られるかを意識していませんでした。ショックアブソーバ付安全帯を使用する際は、落下距離がさらに大きくなるので、特に注意が必要です。条件が良いフック取付場所がないのであれば、取付場所を新たに設ける等の対策も必要ではないでしょうか。

ポイント4つ目として、装備等を身につけて85㎏以上になる場合、ショックアブソーバ付安全帯(写真7)を推奨します。

写真7 正しく安全帯の選定をしましょう

安全帯の規格のなかで、「85㎏の落下体をランヤードの長さ(標準的には1.7m)で落下させた時の衝撃荷重は8.0kN以下」と規定されています。バックルの破損強度は、8.0kN以上となっています。8.0kN以上の衝撃荷重は重大事故を起こす可能性が高いと言えます。ショックアブソーバ付安全帯を装着した場合、この衝撃荷重は概ね4.0kNから6.0kNとなっています。しかし、活動隊員の体重がさらに重い場合、又は防火衣と空気呼吸器を着装の場合、ショックアブソーバがエネルギーを吸収しきれないこともあります。フック等設定は出来る限り高い位置に設定し、衝撃荷重の軽減に努めましょう。(写真8)

写真8 衝撃荷重の軽減に努めましょう

ポイント5つ目として、安全帯の分解・改造等はしないようにしましょう。分解・改造等で良く見られるのが、1本つり専用安全帯にD環を2つ付けて使用している安全帯です。「安全帯の規格」のなかで、1本つり専用安全帯のD環は1つと決められています。個人的に他の資機材を安全帯に装着するために、D環を多く付けている方を多く見ます。正しい使用方法で使用してこその自己防衛装備ですので、分解・改造等はしないようにしましょう。

これらのポイントを踏まえれば、安全帯を付けていれば安心だという先入観では、さらに大きな事故を生みだす危険性があります。状況に合った使用方法、自分に合った安全帯の選定、安全帯の整備、このような点の見直しが必要なのかもしれません。また、防火衣に装着している安全帯も見直してみてはどうでしょう。火災出動時、防火衣を着装しやすいように安全帯を緩く調節していませんか?今一度確認してみましょう。

これらのポイントは、藤井電工株式会社 柱上作業用安全帯取扱い説明書の、使用上の注意事項を参考にしています。

考察

要救助者や傷病者に対して、安全に救出・搬送はもちろんのことではありますが、その活動の中で必要不可欠な自己防衛装備。安全な救出方法等を日々訓練することも大事なことですが、まずはみなさんが訓練前に着装する、あるいは出動前に着装する自己防衛装備品について、もう一度復習するべきではないでしょうか。今回検証に用いた装備品だけでも、様々な種類が販売されています。様々な種類があるからこそ、私達には正しい選定、正しい使用方法等が求められています。

安全管理の基本は「自己管理」です。つまり、自己管理が出来なければ、安全管理は出来ません。これを機に、改めて安全管理の基本である「自己管理」について考えてみましょう。

撮影協力者
石郷岡 祐介、長瀬 学
八戸地域広域市町村圏事務組合
八戸東消防署

 

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