最新救急事情 第1回 「コンビチューブが食道を裂いていく」

 
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旭川厚生病院麻酔科
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「コンビチューブが食道を裂いていく」

はじめに

コンビチューブはラリンゲアルマスクと並んで特定行為にはなくてはならない気道確保器具である。コンビチューブは挿入が容易でエアリークが少ないため、ラリンゲアルマスクより繁用されている1)。しかし、コンビチューブにも欠点はある。その中で最悪なのは食道を突き破ることだが、ただ食道に傷をつけるくらいならそんなにまれなことではない。産業医科大学からの報告では、コンビチューブを使用した1594例中9例で食道を含む組織の損傷が見られている1)。

事例1:カナダ2)

70歳女性。心臓手術の既往あり。自分のベッドの上で心肺停止で発見された。救命士がコンビチューブを簡単に挿入したが換気できず、チューブの中から口の中まで胃液でいっぱいになったため一旦抜去した。90秒後、2本目のコンビチューブをこれも簡単に挿入し、咽頭カフに140ml,食道カフに40mlの空気を注入した。コンビチューブによる換気開始直後から胸が皮下気腫で腫れ始め、病院到着時には頭から胸、さらに手首にまで及んだ。

患者は死亡確認のあと解剖された。コンビチューブは正しい位置に挿入されていた。咽頭-食道境界部から3.5cm胃側に行ったところから、長さ6cmにわたり食道前壁が裂けており、食道カフは裂け目から外に飛び出していた。皮下気腫はこの裂け目が原因と断定された。死因は冠状動脈の硬化による不整脈であった。

食道前壁が裂けている。チューブを挿入するときに先端で擦って傷を付けたらしい。そのうえ、食道カフに規定の15mlを大きく越える40mlもの空気を注入したことで、カフが大きく膨らんで食道が破けた。いくらカナダ人といえども高齢の女性に40mlは多すぎる。

事例2:カナダ2)

59歳男性。心疾患の既往あり。意識不明になっているところを発見された。救命士がコンビチューブをかなり苦労して挿入した。咽頭カフに140ml,食道カフに20mlの空気を注入した。換気開始後だんだん顔が腫れてきて、ついには胸にまで及んだ。解剖所見では、食道に幾筋もの亀裂が見られたが空気漏れの穴は見つからなかった。気管には大量の胃液が流れ込んでいた。死因は冠状動脈血栓であった。

食道にいっぱい縦筋がついていることから、救命士が何度もチューブを抜き差しして食道を裂いたのが皮下気腫の原因である。気管内の胃液は胃から食道カフを乗り越えて気管に流れ込んだものだ。食道カフを信用してはいけない。

事例3:イギリス3)

60歳男性。挿入方法の研究のため、全身麻酔の患者に使用した。全身麻酔導入後、コンビチューブの挿入を試みるが2回失敗。3回目は首を大きく反らせて簡単に挿入できたので、咽頭カフに100ml,食道カフに15mlの空気を注入した。換気を確認したあと、食道チューブに吸引カテーテルを入れ食道内を吸引した。その後コンビチューブは抜去し、気管内挿管を行った。

手術は無事終了した。患者は覚醒直後から胸が痛いと騒ぎだし、血圧も85と低下した。胸部レントゲン写真には縦隔(左右の肺の間、胸骨の裏側で心臓や大動脈のあるところ)に空気が写った。直ちに手術が行われ、食道に長さ5cmの裂け目が見つかった。

コンビチューブの先か吸引カテーテルで食道を突き刺したらしい。裂け目はチューブの先端から3cm先から始まっており、食道の構造上最も弱い部分に当たる。また、咽頭カフが気管入口部を閉鎖したため食道に大きな空気圧がかかったことが裂け目を大きくしたことも考えられるが、本当のところは不明である。筆者は以前にコンビチューブの臨床研究を行ったことがあり、これを読んだときは背筋が寒くなった。

結論

食道を破かないようにするためには
1) 無理をしない。
2) バッグが重いときは抜去する。
3) 細くて柔らかいSAサイズを使う。


引用文献

1.Tanigawa K, Shigematsu A: Choice of airway devices for 12,020 cases of nontraumatic cardiac arrest in Japan. Prehosp Emerg Care 1998;2(2):96-100.

2.Vezina D, Lessard MR, Bussieres J, et al: Complications associated with the use of the Esophageal-Tracheal Combitube. Can J Anaesth 1998;45(1):76-80.

3.Klein H, Williamson M, Sue-Ling HM, et al: Esophageal rupture associated with the use of the Combitube. Anesth Analg 1997;85(4):937-9.


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