170930救助の基本+α(17)救助隊員による傷病者の初期観察

 
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170930救助の基本+α(17)救助隊員による傷病者の初期観察

著 者:唐澤 裕二(からさわ ゆうじ)
所 属:我孫子市消防本部 西消防署 救助隊員
出身地:千葉県松戸市
趣 味:ランニング、スポーツ観戦


1 はじめに
この度、「救助の基本+α」シリーズ、「救助隊員による傷病者の初期観察」について執筆させていただきます、千葉県我孫子市消防本部西消防署救助隊員の唐澤裕二と申します。
はじめに、私たちが管轄する千葉県我孫子市について紹介させていただきます。
我孫子市は、千葉県の北西部、茨城県との境に位置します。面積は43.15k㎡、人口は約13万人、市域は東西に約14km、南北に約4kmと横に長く、北側の利根川と南側の手賀沼に挟まれています。
都心からの距離は約40km圏内に位置しており、JR常磐線や平成27年3月に開業した上野東京ラインを利用することにより都心までのアクセスが40分程度である ことから、都心へ通勤する方々のベッドタウンとしての役割が大きくなっています。(図1)

図1 我孫子市の位置

我孫子駅周辺ではマンションの高層化が進み、人口の密集もみられますが、自然景観にも恵まれ、手賀沼は関東でも有数の野鳥の飛来地であり、山階鳥類研究所や我孫子市鳥の博物館が所在しています。また、平成29年6月には手賀沼に隣接した「水の館」がリニューアルオープンし、手賀沼に暮らす鳥や魚、植物の展示を見ることができる手賀沼ステーションや環境学習コーナー、我孫子産の安全・安心な野菜や農産物を扱う直売所やレストラン、迫力ある映像が楽しめるプラネタリウムなどもあり、多くの方に親しまれています。(写真1)

写真1 手賀沼に隣接した「水の館」

2 救助隊による傷病者の初期観察

通常の救急現場であれば、救急隊が傷病者に接触し、観察・処置等を行いますが、救助現場となると容易に救急隊が傷病者へ接触できない場合も考えられます。救助隊が傷病者に接触し、どのように活動していくのか想定の中で手順を確認します。
(1)今回の想定は、低所への転落事故により男性1名が負傷し、地上部分からの接近は不可能。また、転落場所は狭所かつ不安定であるため、全身固定は傷病者を引き揚げた後、安定した場所で実施することとします。(写真2)

写真2 低所への転落事故により男性1名が負傷し、地上部分からの接近は不可能

(2)装備は、感染防止衣に加え肘や膝の保護、ヘッドライト、警笛等二次災害の防止にも留意します。最近では各隊員人に無線機等が配備されている市町村もありますので、活動障害にならないように注意しましょう。(写真3)

写真3 装備は、感染防止衣に加え肘や膝の保護、ヘッドライト、警笛等

(3)現場へ到着したら傷病者への声掛けを上部からでも実施します。(写真4)

写真4 傷病者への声掛け

(4)隊員1名が救急資器材バッグを携行し先行進入すると同時に救出準備を行います。(写真5)

写真5  隊員1名が救急資器材バッグを携行し先行進入

救出方法は梯子クレーン救出による引き揚げを選定しました。(写真6)

写真6梯子クレーン救出による引き揚げを選定

(5)救急資機材バッグの中身は次のとおりです。(写真7)

写真7 救急資機材バッグの中身

(6)傷病者の転落防止措置を行います(接触と同時に頚椎保護も必要ですが、現場状況から、さらなる転落を防ぎます)。(写真8)

写真8  傷病者の転落防止措置

(7)「初期評価」とは蘇生処置の必要性とロード&ゴーの適応を判断するものであり、15秒程度で迅速に行い、原則として気道確保困難と心肺停止以外は中断しないこととされています。

(8)SMR(脊椎運動制限)を実施します。SMRは傷病者に接触し頭部を保持することから始まります。これにより、頚椎を保護しながら全身の固定を実施していきます。接触と同時に消防が助けに来たことや自分の名前等を告げ、意識があれば継続的に声掛けをしましょう。痛みや不安を少しでも和らげることができるはずです。接触時や声掛け時は、振り向かせないように注意が必要です。傷病者が正面を向いておらず、痛みや抵抗が無い場合は、正面を向いた時の自然な頭の位置(ニュートラル位)に戻してあげましょう。もちろん、その時も声を掛けてあげましょう。(写真9)

写真9 SMR(脊椎運動制限)を実施。意識があれば継続的に声掛けをする

(9)気道の観察を行います。頭部保持と同時に声掛けを行い、その反応から呼び掛けて声を出すことが出来れば、気道は開通しています。発語がない場合は早急に呼吸の観察を行い、適切な処置(吸引、器具の使用、用手的気道確保)を行います。
気道の閉塞が解除できない場合は、気道確保困難となりますので、初期評価は中断 してただちに搬送に移行します。
ここで、もう一名の隊員が到着しました。(写真10)

写真10 気道の観察中にもう一名の隊員が到着

(10)呼吸の観察を行います。呼吸観察は、「見て」「聞いて」「感じて」が基本です。口元に耳をあてて観察を実施しますが、現場状況によっては困難な場合もありますので、傷病者の胸や腹部の動きを目視で観察することや、手を添えて動きを感じとることも必要です。初期評価の一環なので、詳細な回数などではなく、「あるのか無いのか」「浅いのか深いのか」「速いのか遅いのか」を観察することが大切です。(写真11)
観察の結果、呼吸状態が正常でなければ高濃度酸素投与を行います。さらに、呼吸が異常に浅い場合、又は異常に遅いか速い場合はバッグバルブマスクにて補助換気を行います。補助換気中にも頚椎保護を怠らないように注意します。
現場の状況と隊員の配置を考慮して、頭部保持の交代は行いません。

写真11 呼吸の観察。胸や腹部の動きを目視で観察することに加えて、手を添えて動きを感じとることも必要

(11)循環の観察を行います。まず脈拍を触知しましょう。橈骨動脈または頚動脈で脈拍を確認しますが、ここでも呼吸の観察と同じく、詳細な回数ではなく「あるのか無いのか」「速いのか遅いのか」「強いのか弱いのか」を判断します。橈骨動脈で脈拍が触知できなければ、頚動脈で触知します。そして頚動脈で触知出来ない場合、それ以降の処置を中断し、心肺蘇生、全身固定を行い搬送します。
脈拍の触知とともに、傷病者の手首や手のひら、前腕部などに触れながら、皮膚の色や温度、湿り具合を確認します。脈拍が速く、皮膚の蒼白や冷たく湿った感じがある場合は、ショック状態の可能性が高いです。(写真12)

写真12 循環の観察。「あるのか無いのか」「速いのか遅いのか」「強いのか弱いのか」

【ここでポイント!】循環の観察の中には、活動性の出血が有るかの確認も含まれます。しかしながら、動脈性や静脈性に関わらず、持続して出血している場合はただちに止血の必要があります。止血は直接圧迫止血が基本となりますが、それでも効果がない場合は止血帯の使用が必要となります。

(12)意識状態の観察を行います。意識状態の観察は、JCS(Japan Coma Scale)を用いることが日本では一般的になっています。初期評価では時間をかけず、「刺激しないで覚醒している:Ⅰ桁」「刺激すると覚醒する:Ⅱ桁」「刺激をしても覚醒しない:Ⅲ桁」という3段階でおおまかな意識状態の確認を行います。
傷病者に接触した時点で声掛けを行っていますので、その時の反応が正常であれば 意識は清明であると判断できます。しかし、声掛けに対して開眼しない場合は、呼吸・ 循環の観察後に胸骨部へ痛み刺激を与え開眼するかどうかを観察します。(写真13)

写真13 意識状態の観察。、声掛けに対して開眼しない場合は、呼吸・ 循環の観察後に胸骨部へ痛み刺激を与え開眼するかどうかを観察する

初期評価の流れは以上の通りです。

(13)現場の状況から、最低限の処置(ネックカラー、酸素投与)を行い迅速に救出します(写真14)。

写真14   現場の状況から、最低限の処置(ネックカラー、酸素投与)を行い迅速に救出する

また、他の隊員と連携を密にとり、傷病者の容態、追加資機材及び引き揚げ手段の連絡等を行います。(写真15)

写真15他の隊員と連携を密にとり、傷病者の容態、追加資機材及び引き揚げ手段の連絡等を行う

(14)要救助者を縛着し、救出を開始します(写真16)。傷病者の容態や現場の状況に応じて、適切な手段を選定しましょう。

写真16 要救助者を縛着し、救出を開始

3 執筆の狙い

今回救助の基本の連載の中で、救急をテーマにした題材ということで、なぜ?という疑問を持った方もいるかと思います。しかしながら、出場した救助現場の状況によっては、救急隊より先に傷病者と接触する可能性があり、場合によっては救助隊でしか傷病者に接触できないという状況も考えられます。そのような状況の中で、どんな救助隊員でも救急資格の有無に関わらず、臆することなく自信を持って傷病者に接触し、正確な初期観察を実施することがより傷病者の予後に繋がると思い、執筆させて頂きました。
私自身、救助隊に拝命されたばかりの頃は、とにかく要救助者を早く助けたいという気持ちや、救助隊になったのだから現場の最前線で活躍したいという気持ちから、常に「前に前に」という考えでした。しかし、いざ想定訓練などを行い先行隊員として傷病者に接触しても、「○才ぐらいの男性、意識がないです!!」や「ぐったりしていて話せません!!」と、漠然と目に映る状態しか伝えることができませんでした。その後、様々な訓練、また救急資格やJPTEC資格を取得していく中で、傷病者へ接触した際の観察、その中でも特に私たちの活動や傷病者の予後に大きな影響を与える初期観察の重要性を認識しました。

今回の内容も、JPTECやITLSといった外傷初療標準化プログラムにおける「初期評価」の手順やおおまかなポイントだけの内容のため、長年現場活動に従事されている方には当然の内容ですが、全国の救助隊員のために少しでもお役に立てればと思います。

撮影協力 我孫子市特別救助隊(写真17)

写真17撮影協力 我孫子市特別救助隊


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17.9.30/4:24 PM

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