190204_Voce(37)_AIに職を追われないために

 
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主張

月刊消防2019年2月号p65

AIに職を追われないために
納富 和也
 今年6月に開催された第21回日本臨床救急医学会において特別講演を聴講した際、「シンギュラリティ」というキーワードが強く印象に残りました。「シンギュラリティ(技術的特異点)」とは、人工知能(AI)が高度に発達し、人間の知性を超えてしまうことで、人間の生活に大きな変化が起こるという概念のことです。AIは、高度に発達することで、様々な職業において人に代わり業務を行うことになり、2045年には、多くの人が職を失う時代として「2045年問題」が問題視されています。


 私が救急救命士として勤務し始めた頃、1人でも多くの命を救おうと様々なコース教育に参加しました。その中で培った手法をそのまま当てはめて救急活動していましたが、他の救急救命士よりも活動時間が長くなっていました。それは、手法を優先するあまり、傷病者一人ひとりの状態に応じた判断・対応ができていなかったことが要因でした。このような経験から救急救命士の病院前救護活動とAIについて考えてみました。
 病院前救護活動を担う私たち救急救命士は、医療などのホスピタリティ性が高い職種に分類され、『高度な接客』を必要とするため、AIによる代替が難しいと考えるのが一般的です。救急隊に求められる『高度な接客』とは、同一の内容が無い救急事案において、各々の事案に対し、短時間で問題解決していくことだと考えています。高度な検査ができない病院前において、病態判断や緊急度判断の根拠に関する症候学は存在しますが、病態の切迫度や傷病者の予備能、基礎疾患、内服等の要素を総合的に判断しなければなりません。
 現在、救急救命士の教育は、メディカルコントロール(MC)体制下において様々な手法で行われていますが、医療従事者としての質をどのレベルまで向上させる必要があるのか、明確な方針はありません。様々なテキストを見ても「適切な」、「期待される」または「必要な」等の曖昧な表現であり、具体的なものといえば活動の標準化を促すプロトコルやガイドライン、標準化教育のみであり、「質の上限」は、地域MCに関わる医師、そして救急救命士自身の熱意や自己研鑽の質に依存しているのが現状です。

 現実、私は、これらの「標準」に対し「そこさえ押さえていれば大丈夫」との認識を持つ救急救命士も多いのではないかと感じています。「標準」を習得することだけで満足してしまうと、『高度な接客』の質の向上はおろか、AIに取って代わられる可能性も高くなると考えます。
 私たち救急救命士は、倫理的配慮と医学的妥当性に基づく検証を繰り返し、更に実体験から新たに判明した事実を科学的認識の基に証明する努力を積み重ね、常に『高度な接客』を能動的に探求していかなければなりません。その結果、AIに簡単に脅かされない職業として確立されていくものと考えます。
【著者】納富 和也(のうどみ かずや)
【出身】佐賀県神埼市
【消防士拝命】平成17年4月
【救命士資格取得】平成25年4月
【所属】久留米広域消防本部
【趣味】野球

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主張
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