プレホスピタルケア 2020年8月号p14-16
連載タイトル「あなたは大丈夫?バイタルサインの基礎とTips」
担当
北海道留萌(るもい)消防組合小平(おびら)消防署
第3回
心拍数
「心拍数」
目次
1.はじめに
連載の第3回目を担当させていただく留萌消防組合小平消防署の伊勢田と申します。今回は「心拍数」についてです。
2.心拍数・脈拍数とは
「心拍数」とは1分間当たりの心拍動の回数のことです。心電図モニターのQRS波の数でも確認できます。心拍数と似ているようで意味が違う「脈拍数」は左心室が収縮したときに発生する血管壁の振動を1分間当たりで触知した回数のことです。心拍数と脈拍数について詳しく見ていきましょう。
3.心拍数を調べる
簡便に行う方法は、心音の聴診です。トックン、トックン…という心音の正体は心拍動に伴って心臓の弁が閉じるときの音です。最初の『トッ』が房室弁の閉じるⅠ音(写真1)、
次の『クン』が動脈弁の閉じるⅡ音(写真2)
になります。Ⅰ音からⅡ音までが心室収縮期、Ⅱ音からⅠ音までが心室拡張期となり、実際に聴診すると心室収縮期の時間の方が短いです(図1)。
聴診以外では心電図モニターで調べることができ、救急現場では近似肢誘導のⅡ誘導(写真3)
で観察します。Ⅱ誘導は緑から赤に向かって心臓を見ているため、Ⅰ誘導やⅢ誘導に比べはっきりした波形を示します。ちなみにⅠ誘導では黄から赤、Ⅲ誘導では緑から黄に向かって心臓を見ている波形になります。体表面の電極取付が困難なときは標準肢誘導に準じて四肢に付けたり(写真4)、
仰臥位にできない場合は背中に付けることで(写真5)
波形を確認できます。波形の振幅が小さい場合は感度を上げるか、電極を貼る場所が乾燥していたら酒精綿などで拭いてから貼ってみましょう。
4.脈拍数を調べる
血管壁の振動が振れやすい動脈を触知します(写真6)。
中でも橈骨動脈は皮膚の近くを走行しているのでよく触れます。橈骨動脈を触知するには3指(第2~4指)で押さえます(写真7)。
脈圧や血管の硬さは、3指うち中枢側の2指を徐々に強く押し、抹梢側の1指に振動が伝わらないようにしていくときの中枢側の2指を押した強さの程度で確認します。触知するとトッ、トッ…と振動を感じますが、この振動は収縮期と拡張期の差=脈圧なので『強く抑えないと末梢側で触れる』状態であれば脈圧が大きいということになります。また、動脈硬化により血管が硬くなっていれば2指で強く押しても触れることがあります。動脈触知以外では、SpO2の脈波でも脈拍を確認できます(写真8)
が、体動により波形が乱れたり(写真9)、
末梢の循環不全があれば脈波が小さくなり正確に測定きない(写真10)
ことがあります。
5.心拍数=脈拍数と心拍数≠脈拍数
健常であれば心拍数=脈拍数となりますが、左鎖骨下動脈が動脈硬化などにより狭窄していれば心拍動はあっても末梢の橈骨動脈では触知できないことがあります。また、心房細動や心室頻拍等の不整脈により心室が十分に拡張される前に収縮するなど全身への血液供給が不十分となった場合は血管壁の振動が末梢まで伝わらずに心拍数≠脈拍数となることがあります。特に不整脈では、脈拍触知と心音聴診、SpO2測定によって得られる心・脈拍数が異なることがあります.
6. 変だと思えば心電図モニター + 触知
心臓や血管に少しでも疑いを持った場合は動脈を触知しつつ心電図モニターを観察しましょう。動脈の左右差や上下肢差を触知し、脈の強さを比較することで動脈の狭窄や解離を疑うこともできます。現場にて心室頻拍に似た心房細動による偏行伝導の傷病者に接したことがありますが(図2)、
このような特殊な状態でも心拍数≠脈拍数となります。
6.最後に
心拍数(脈拍数)について調べていくうちに『あ~そうなんだ』と思うことがたくさんあり、私自身とても勉強になりました。執筆する機会をいただいたことに感謝です。読みにくい文章ですが、一人でも『あ~そうなんだ』を共感してくれる方がいたら幸いです。
著者
氏名:伊勢田 浩平(いせだ こうへい)
年齢:35歳
所属:留萌消防組合小平消防署
出身:苫前郡羽幌町
趣味:子育て
消防士拝命:平成15年4月
コメント