月刊消防2021/7/1, p29-33
211221救助の基本+α(60)救助浮力資機材 常滑市消防本部 滝川恭平
月刊消防2021/7/1, p29-33 担当者: 滝川恭平(たきかわきょうへい) 所属:常滑市消防本部消防課3チーム救助担当 階級:消防士長主任 出身:愛知県常滑市 消防士拝命:平成22年 趣味:ゴルフ・釣り 1.はじめに 今回「...
220126救助の基本+α(61)救助浮力資機材(その2) 常滑市消防本部 滝川恭平
月刊消防2021/8/1, p44-48 担当者: 滝川恭平(たきかわきょうへい) 所属:常滑市消防本部消防課3チーム救助担当 階級:消防士長主任 出身:愛知県常滑市 消防士拝命:平成22年 趣味:ゴルフ・釣り (function(b,...
目次
担当者:
滝川恭平(たきかわきょうへい)
所属:常滑市消防本部消防課3チーム救助担当
階級:消防士長主任
出身:愛知県常滑市
消防士拝命:平成22年
趣味:ゴルフ・釣り
1.はじめに
今回「救助の基本+α」の掲載を担当させていただきます、愛知県常滑市消防本部の滝川恭平と申します。当市は、愛知県知多半島の西海岸に位置し、面積55.90平方キロメートル、東西6キロメートル、南北15キロメートル、海岸線19.8キロメートルと空港島(セントレア)を管轄し幅広く海に面していることから、今回は~海面救助編~と題させていただき、海を管轄する消防ならではの水難資機材の取り扱いを紹介させていただきます。
写真①レスキューボードを持つ常滑市消防本部の救助隊員
2.常滑市(管轄)の紹介
まずは、当消防本部が管轄する愛知県常滑市(002)を紹介させていただきます。
気候は年間を通じて温暖で適度の雨量があることから、田畑での農作物の栽培が盛んであります。また、魚介類の宝庫といわれる伊勢湾から多種類の魚が獲れることから漁業も盛んであり、昔からのり養殖も営まれています。平安時代末期頃から「古常滑」と呼ばれる焼き物の産地であり、瀬戸、信楽、越前、丹波、備前と並び、日本六古窯のひとつとされていますが、中でも最も古く最大の規模を誇ることから、常滑焼は平成29年に日本遺産として指定されました。昭和の風情を随所に残す町並みを散策する「常滑やきもの散歩道」(003,004)は観光スポットとして多くの観光客に親しまれています。また、常滑沖にある空港島(セントレア)には中部国際空港(005)や大規模国際展示場、複合施設等があり、隣接するりんくう地区には、人工海水浴場、釣り護岸、大型商業施設等が建設され年間を通じ多くの人で賑わいます。
写真②~写真⑥
002 常滑市の位置
003 土管坂
004 とこちゃん
005 中部国際空港
006 人工海水浴場
3.水難救助体制について
当市は、西側が全てが海に面しており、合計3か所の海水浴場があり、各種イベントも行われてるため、シーズンには多くの人が訪れます。また、釣りやマリンスポーツも盛んであるため、年間を通じて水難事故が発生しています。そのため、水難救助教育体制に力を入れて取り組んでおり、職員数92名の内、基礎泳力を強化した水難救助隊員を約40名選抜し、A・B・Cにランクを分けをして、活動可能な環境範囲を決めています。最終試験に合格した25名のA隊員(令和3年度現在)は、あらゆる環境下での救助活動できると判断し、第一線で活躍します。訓練は、月に2~3回海で実施しているほか、見習い隊員はプールで泳力強化や基本捜索訓練等を実施し、隊員育成の強化に取り組んでいます。
007 見習い隊員はプールで泳力強化や基本捜索訓練等を実施します
008 水難救助隊員が使う資機材
4.紹介する資機材
今回は、水難救助の資機材の中でもマリンレジャーが盛んに行われている地域特有の資機材等を3点紹介します。
リンク
①レスキューチューブ
②レスキューボード
③Personalwatercraft(PWC)レスキュー
②レスキューボード
③Personalwatercraft(PWC)レスキュー
なお、③PWCレスキューは次号でご紹介します。
(1)レスキューチューブ
024 レスキューチューブの名称
米国で開発されたレスキューチューブは30年以上に渡り、海での救助活動に必要不可欠な救助資器材として様々な場所で活用されてきました。現在では各地の海水浴場はもちろんのこと、多くの消防本部でも浮力体として使用されています。
海用のレスキューチューブは長さ95cm幅14cm厚さ7mmストラップ長さ約280cmで素材は高品質発泡ウレタンで作られ、大人2人分の浮力を有しています。それでは、使用方法を説明します。
●共通
①要救助者(溺者)を発見したら目を離さないよう最も近いところまで陸上を走ります。
砂浜で水深が浅い場合はウェーディングを用いて近づきます。次いで、膝から腰くらいまでの水深はドルフィンスルーで近づきます。
それ以上の水深になってから要救助者から目を離さずにヘッドアップスイムで要救助者のもとに向かいます。
009 ヘッドアップスイム
※ウェーディング
膝から腰くらいの水深のところで早く移動するための技術です。腕を大きく振り、ハードル走の抜き脚のように脚を水面から抜いて進みます。その後、水深が腰くらいかあるいは脚を抜くことが難しくなってきたらドルフィンスルーに切り替えます。
※ドルフィンスルー
腰くらいの水深のところで水の抵抗を少なくして波を切り抜けながら進むための技術です。波が崩れてくるタイミングに合わせて、波の下に飛び込み、両手で海底の砂を掴んで波が通り過ぎるのを待ちます。波が通り過ぎたら、両腕を引きながら両膝を身体の下に引き寄せ、水面に向かってジャンプする。水深が腰から胸くらいのところまでこの動作を繰り返し、その後に泳ぎ出します。
ドルフィンスルーを行う際は、海底に対して垂直に飛び込むと海底に頭を打ち頸椎等を損傷する危険があるので十分に注意します。
※ヘッドアップスイム
水面の要救助者を見失わないように顔を水面に出した状態で泳ぐ技術です。その際は平泳ぎではなく、迅速に要救助者に接近できるクロールを行います。海で泳ぐ際はプールと違い、水底にライン等の目印がないため、自分の泳いでいる位置や波の状態を確認しながら泳ぐことも重要となります。
●意識がある場合
②安全な距離を保ち、声を掛け、状態を確認し落ち着かせます。
③掴まれないように一定の距離を保ち、要救助者から目を離さずにチューブを手繰り寄せ、海面に滑らせるようにしてチューブを渡します。
④要救助者が落ち着いたら、自分でチューブを両脇の下にから抱え込むようにして捕まるように指示します。
010 掴まれないように一定の距離を保ち、海面に滑らせるようにしてチューブを渡します
●意識がない場合
②声を掛け返答がなければ迅速に確保します。
③確保したら、脇の下からチューブを差し込み、仰向けにした状態でチューブを体に巻き付け、背中側でフックを止めます。
011 仰向けにした状態でチューブを体に巻き付け、背中側でフックを止めます
●共通
④体にチューブを巻き付ける、あるいは掴ませたら、ストラップが張れるまで要救助者を確認しながら岸方向へ泳ぎます。ストラップが張れ要救助者の体勢を確認したら岸に向かって泳ぎます。
012 ストラップが張れ要救助者の体勢を確認したら岸に向かって泳ぎます
●要救助者確保後の搬送法(泳ぎ方)
013チューブ1本
014 チューブ2本
●その他の使用方法
・ストラップを取り付け丸形にしロープを取り付ければ、皆さんお馴染みの丸形浮環となります。
遠投距離も通常の浮環と変わりがありません。
・泳力強化や潜水訓練中に警戒員が海面でチューブを携行すれば、不慮の事故が発生した場合に備えることができる安全管理対策にもなります。
リンク
(2)レスキューボード
レスキューチューブは救助者の泳力を必要とするため、沖合であればあるほど救出に時間を要します。また、車両に積載し搬送する救命ボートは海面へ船体を降ろす作業に時間を要すことから、迅速性に欠けてしまいます。そのため、当消防本部では、陸地に比較的近い沖合の海面に要救助者がいる場合はレスキューボードを使用します。
全長320cm全幅58cm厚さ18cm重量12kg、素材はエポキシ樹脂で作成されています。
015レスキューボードの名称
ノーズ:ボードの先方
テール:ボードの後方
デッキ:ボードの上面
ニーパッド:膝あて(ニーリングパドルを行う際に利用します)
レール:ボードの横面
ストラップ:デッキ部分にある紐(マリンレスキューの際に溺者を掴まらせることもできます)
使用方法の一例を紹介します。
●共通
①要救助者を発見したら見失わないようにレスキューボードを搬送し、要救助者に最も近いところまで陸上を走ります。
②声を掛けながら要救助者に接近し反応の確認をします。
※レスキューボードの漕ぎ方
016安定しているが速度が遅い
017 016に比べ安定に劣るが速度が速い
018要救助者への接近
●意識あり
③ボードのノーズが要救助者に届いたところで一旦停止する。落ち着かすよう声をかけ続け、ストラップをつかむように指示をします。
④ボードのノーズを浜に向け、要救助者に腹ばいの体勢で乗るように指示をする。バランスを取りながら補助します。
⑤パドリングで浜に向かいます。要救助者がパドリングできる状態であれば協力しパドリングすることも可能です。
⑥波打ち際に近づき、安全な推進まで戻ってきたら救助者はボードから下り要救助者の足首とストラップを一緒に持ち、浜に向かって押す。ボードが進まなくなったら要救助者に下りてもらい救助完了です。
●意識なし
③要救助者を確保したらすぐにボードを挟んだ反対側に下り(019)、つかんだ腕が反転していないか等の異常がないことを確認し、ボードを反転させます。すると要救助者の腕と身体の一部分がボード上にのります(020)
④要救助者が最終的にボードに乗る位置を予測、調整しながら肘をしっかりボードのレールに重ねたまま、もう一度ストラップまたはレールを利用してボード反転させます。
019 要救助者を確保したらすぐにボードを挟んだ反対側に下ります
020 ボードを反転させると要救助者の腕と身体の一部分がボード上にのります
021 肘をしっかりボードのレールに重ねます
022 ボード反転させます
⑤ボードのデッキ部分に要救助者の身体を腹ばいに寝かせバランスが良い場所に位置を調整します。この際に要救助者の腕が水中に垂れ下がっていればバランスが良くなります。しかし抵抗が増えますのでその際は腕をボードに乗せて搬送することも可能です。
⑥救助者はバランスに注意しながらテール側からボードに乗り込み、バランスに注意しながらパドリングで浜に戻ります。
⑦波打ち際に近づき、安全な水深まで戻ってきたら救助者はボードから下り要救助者の足首とストラップを一緒に持ち、浜に向かって押します。
⑧ボードを押しても進まない深さになったら要救助者をボードから前屈搬送の要領で浜の安全な場所に移動し救助完了です。
023搬送方法
●その他の使用方法
・大人10人が捕まっても沈まない浮力があるため、大人数が海面に投げ出された場合に使用できます。
・チューブと同様、泳力強化や潜水訓練中に警戒員が海面で待機すれば、不慮の事故が発生した場合に備えることができるため安全管理対策にもなります。
さて、どうでしたでしょうか?
1回目の投稿は、簡易な救助浮力資機材を紹介しました。次回は水上バイクを用いた救助方法であるPWCレスキューを紹介します。また地域連携についても触れさせていただきます。ご期待ください。
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