231016救助の基本+α(78)訓練施設外を利用した育成訓練 甲賀広域行政組合消防本部 清水雄一郎

 
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基本手技

月刊消防2023年02月号, p20-25

目次

プロフィール

【プロフィール】
■氏名 
清水 雄一郎(しみず ゆういちろう)
■所属 
甲賀広域行政組合消防本部
湖南中央消防署特別救助隊
■出身地 
滋賀県甲賀市
■消防士拝命 
平成6年4月
■趣味
 バレーボール、ランニング

救助の基本+α   第74回 訓練施設外を活用した育成訓練

 

1 はじめに

滋賀県の甲賀広域行政組合消防本部(以下「甲賀消防」という。)の清水と申します。今回「救助の基本+α」掲載にお声がけいただき、誠にありがとうございます。寄稿にあたり検討した結果、甲賀消防に令和2年12月、2隊目となる特別救助隊が発足したことから、現場に近い環境を活用、企画立案した隊員の育成訓練の取組みを執筆させていただきました。

また、管内を横断するように流れる野洲川の下流側に当該救助隊が配置されていることから、流水救助災害時にはバックアップロープの設定が主な任務になることが考えられます。このことから、+αとしてバックアップロープ専用アタッチメントについても紹介させていただき、少しでもご参考になれば幸いです。

 

2 甲賀消防の紹介

甲賀消防は滋賀県の南部に位置し、甲賀市及び湖南市の2市で構成され、管内は、五街道の一つである東海道が東西に貫いており、古くから交通の要衝として栄え、現在でも多くの遺跡や文化財が残されています。地勢は、東側に鈴鹿山系を望む丘陵地であり、野洲川・杣川・大戸川沿いに平地が開け、森林も多く琵琶湖の水源涵養、水質保全にも重要な地域となっています。

また、平成20年2月23日に新名神高速道路が開通し、名古屋・東京方面への自動車交通の利便性が格段に向上し、京阪神及び中京地域からのアクセスも増加しています。

消防概況は、1本部4消防署3分署をもって構成され、職員204名を配置するとともに、消防力として消防ポンプ自動車、救助工作車Ⅱ型、はしご付消防自動車等38台を備え、各消防活動や火災予防啓発等の取組みをとおして管内約15万人に及ぶ地域住民の安心と安全の確保に努めています。(図1)

             

図1

甲賀広域行政組合消防本部の管轄地域

 

 

 

 

3 湖南中央消防署の取組みについて

  甲賀消防で2隊目となる特別救助隊を配置する湖南中央消防署において、庁舎を活用するなど、隊員間で意見を出し合い工夫し、効果的な現場活動ができるよう日々努力しています。一部ではありますが、紹介させていただきます。(写真1:)

001 湖南中央消防署

 

(1) 日常訓練

消防救助の根幹でもある火災救助。この現場活動の難しさは全国の消防本部の皆さんも感じられていることと思います。火災現場の予測しえない状況の変化や、建物構造の複雑多様化により、ますます対応が難しくなっています。

そこで湖南中央消防署では、火災救助の技術向上はもとより消防活動に対する個人の意識と、チームワーク及び信頼関係の強化を目的とし、所属職員50名全員を対象に、応急はしご救助訓練を毎日実施しています。操法を習得し、切迫した状況でも隊員が戸惑うことなく共通認識を持ち救助活動を展開できるよう訓練を重ねています。(写真2・3)

002

応急はしご救助訓練を毎日実施

003

共通認識を持ち救助活動を展開できるよう訓練を重ねている

 

 

 

 

(2) 外部施設及び廃棄車両を活用した訓練

   青少年自然道場(湖南市)及び甲賀農業協同組合(JAこうか)の協力を得て、解体予定の建物を活用した消防救助(震災救助)訓練を実施しました。訓練では、若年層職員への基本的な活動戦術や中堅職員による指揮能力、活動能力の向上を目的とし実施しました。また、実践に近い建物を活用した訓練により、災害時における消防救助活動に対する知識、技術を深めることができました(写真4・5)。

続いて、甲賀広域防火保安協会第2支部及び管内事業所の協力を得て、廃棄車両を調達し交通救助対応訓練を実施しました。訓練は借地を利用、ガラス等の飛散防止を設定し安全対策をとり、若年層職員への基本的な救助資機材の取扱い、車両の構造説明等を実施しました。また、想定訓練を実施することで、より実践的な経験を積むことができ、実りある訓練となりました(写真6・7)。

004

解体予定の建物を活用した消防救助(震災救助)訓練。バスケットストレッチャーを用いた引き上げ

005

解体予定の建物を活用した消防救助(震災救助)訓練。はしごクレーン

006

廃棄車両を調達した交通救助対応訓練

007

想定訓練を実施することで、より実践的な経験を積むことができる

 

 

 

 

 

(3) 消防庁舎等を活用した特別救助隊訓練

   専門的知識、高度な救助技術の習熟及び安全活動を目的とした特別救助隊訓練において、基礎から応用へと臨機に対応できるよう実施しています。

 

ア 火災救助訓練

建物火災において逃げ遅れた要救助者を安全・確実・迅速に救出するための知識及び技術の錬成を図ることを目的に実施しました。消防庁舎を活用することで、慎重に行動する意識も向上し、沈着、冷静な活動ができるよう隊員を育成しています。

近年、火災は減少傾向にあるものの、全国的に痛ましい事故が発生しています。火災の現場は常に危険と隣り合わせであることを認識し、許容可能なリスク内で迅速な救助活動を行えること。また、火災現場での危険要因について共通の認識を持ち、安全で迅速的な活動を行えるよう特別救助隊員間で確認しました(写真8)。

008

消防庁舎を活用した火災救助訓練

 

 

 

イ 流水救助訓練

甲賀消防管内に流れている一級河川野洲川を訓練場所と設定し、流水救助現場に必要な専門的かつ高度な知識及び技術の統一を図り、初動体制及び迅速な現場活動の構築を目的として行いました。当該訓練は、流れに対応する特殊な泳法や令和2年度消防防災科学技術賞において、甲賀消防が優秀賞を受賞した資器材である、「バックアップロープ専用アタッチメント(※1)」を使用しての救出訓練、想定訓練であり、消防長の訓練視閲を受けたことから緊張感のある訓練となりました。訓練では隊員間それぞれに自然の恐ろしさを体感、周知することができ、陸上の活動では得ることのできない貴重な訓練となりました(写真9・10)。

※1 詳細は4で解説します。

009

流水救助訓練。流れに対応する特殊な泳法

010

バックアップロープ専用アタッチメントを使用しての救出訓練

 

 

 

ウ 都市型救助訓練

   令和2年12月に配備された救助工作車Ⅱ型の資器材のうち、「アリゾナボーテックス」を使用した低所救助現場に必要な専門的かつ高度な知識及び技術の統一を図ることを目的に、低所救助訓練を実施しました。「アリゾナボーテックス」を使用することで、高取り支点の構築が可能となり、安全かつ確実に要救助者へのアプローチ、救出が可能になることを改めて周知できました(写真11)。

011

アリゾナボーテックスを使用した低所救助訓練

 

 

エ 現場対応訓練

隊長は現場指揮と安全管理能力の確認、隊員は隊長の指示どおりに活動できるかの効果確認を目的に、高所救助及び低所救助の2想定をそれぞれ企画立案して実施しました。年度を通して基本的な訓練から応用的な訓練へとレベルを上げ、現場活動の構築につなげることができました(写真12・13)。

012

現場対応訓練。高所救助

013

現場対応訓練。低所救助

 

 

4 バックアップロープ専用アタッチメントの開発について

 

(1) テンションダイアゴナル*とは

川の流れる方向に対して45度以上で、テンションを掛けたロープを張り、上流から流れてくる要救助者を、動水圧を利用し岸まで移動させるという救助方法であり、全国的にバックアップロープの設定及び救助方法として用いられています(図2)。

 

*テンションダイアゴナル:Tension(=張力) diagonall(=対角線)。斜めに引っ張ること。

Zu2

テンションダイアゴナルの説明

 

(2) テンションダイアゴナルの代表的な失敗例

川の流れる方向に対して緩やかな角度でバックアップロープを設定した場合、要救助者が動水圧を受けても岸に引き寄せられない状態となります。

 

(3) 現状の救出方法における問題点

ア パニック状態の要救助者は、斜めに張られているロープの意味には気づけず、ロープに必死にしがみつくことが容易に想像できます。

イ 川幅の広い河川では、岸までの移動に体力及び技術を要します。

ウ 支点の状況により、45度以下の設定しかできない場合が発生します。

 

(4) 開発理由

問題点を考察した結果、「テンションダイアゴナルは、多少なりとも知識のある要救助者にしか効果がなく、ロープ1本では、バックアップロープとして不十分である。」との結論に至りました。 そこで、知識のないパニック状態の要救助者でも、テンションダイアゴナルの能力を最大限引き出せるように、専用アタッチメントの開発をしました(図3)。

図3 専用アタッチメントの概要図

 

 

(5) 使用方法

ア バックアップロープの端末から専用アタッチメントを通します。

イ 専用アタッチメント両端末のカラビナに確保ロープを設定します。

ウ 橋脚、救命索発射銃等で対岸にバックアップロープ及び確保ロープの一端を渡します。

エ 可能な限り45度以上で、かつ高張力になるようにテンションダイアゴナルを設定します。

オ 専用アタッチメントの両側の確保ロープを引き合い、要救助者が流れ着く位置に専用アタッチメントを移動させます。

カ 要救助者が専用アタッチメントにしがみついたことを確認した後に、上流側の確保ロープをゆっくり緩めます(図4)。

キ テンションダイアゴナルの理論同様に要救助者が岸に引き寄せられます。なお、最大の特徴として、要救助者が専用アタッチメントをどれだけ強く握ったとしても、バックアップロープを直接握ってはいないので、要救助者の移動が可能となります(図5)。

ク その他の利点として、バックアップロープの展張角度、 水流の変化等により、要救助者が岸に移動しない場合は、下流側の確保ロープを引くことにより救出することが可能となります。

Zu4

専用アタッチメントの使用方法(1)。要救助者を専用アタッチメントにしがみつかせる

zu5

専用アタッチメントの使用方法(2)。容易に要救助者を移動できる。

 

 

(6) 今後の展望

流水救助は、要救助者がパニック状態に陥りやすく、1分1秒を争う事案です。また、要救助者の位置が刻々と変化していく特異な事案でもあります。このような事案におけるバックアップロープの重要性は極めて大きく、今回開発した専用アタッチメントを装着することにより、従来のバックアップロープだけでは救い出すことのできなかった要救助者を、安全かつ迅速に救出することが可能になると確信しています。また、訓練で繰り返し使用し検討を重ね、一級河川等を管轄する甲賀消防管内の各消防署へ配備を進めていきたいと考えております。

 

5 終わりに

   この度、このような貴重な機会をいただきありがとうございました。今回、ご紹介しました訓練内容は、訓練施設でない場所でも実施できる訓練を特別救助隊員間で工夫し、企画立案したものです。署員一丸となって「プロフェッショナルとしての自覚」を持ち、常に自己研鑽に努めています。

今後発生が懸念される大規模地震や想定外の特殊災害等、いつ発生するかわからない災害にも、我々消防には住民の生命・身体・財産を守る使命があり、柔軟に対応し完遂する必要があります。そのため、日々の業務内において訓練実施時間と内容を工夫して計画し、継続して実施していくことが常日頃から災害に対応できる準備として重要です。

今回のこの記事が、全国消防職員の皆様の消防活動の一助になれば幸いです。(写真14)

014

甲賀広域行政組合消防本部湖南中央消防署特別救助隊

 

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