240104救助の基本+α(81) チェンソー取り扱いの基本および応用について いわき市消防本部 新妻拓弥

 
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基本手技

月刊消防2023/05/01号, p22-26

目次

プロフィール

【プロフィール】
新妻拓弥(にいつまたくや)
いわき市消防本部平消防署高度救助隊
福島県いわき市出身、
平成26年4月拝命、
趣味:資格取得

1.はじめに

今回、月刊消防「救助の基本+α」の掲載記事を担当させていただくことになりました、福島県いわき市消防本部平消防署、高度救助隊の新妻拓弥と申します。

チェーンソーは、近年、増加する土砂・風水害の対応になくてはならない資機材の一つであり、道路障害となった倒木や、民家などに倒れてしまったかかり木の処理等に迅速に対応できるよう、基本的な構造及び応用的な切断方法について説明します。また、労働災害事故の増加に伴い、平成31年に労働安全衛生規則が改正され、チェーンソーでの作業時に着用義務化となった下肢の切断防止用保護衣(以下「チャップス」という。)について説明させていただきます。

2.消防本部の紹介

いわき市は、昭和41年10月に14市町村の合併により誕生し、福島県の東南端、茨城県との県境に位置しており、1,232㎢という広大な面積、南北に約60㎞の海岸線を有する豊かな自然環境と温暖な気候風土に恵まれています。東北地方では仙台市に次ぐ人口32万人を超える中核市で、製造業を基幹産業として、水産業及び農林業も盛んであります。南部には、石油コンビナート等特別防災区域があり、17の特定事業所が所在しています。また、2006年に映画「フラガール」の舞台となったスパリゾートハワイアンズや水族館の「アクアマリンふくしま」等の観光産業、更には昨年サッカーJ2昇格を果たした「いわきFC」等と連携し、スポーツイベント活動にも力を注いでいます。

いわき市消防本部は、1本部4課5消防署1分署7分遣所で組織しており、現在の職員数は364名となっております。平成21年度に高度救助隊を発隊、平成22年度から国際消防救助隊へ6名の隊員を登録しています。なお、令和2年度に高度救助隊が運用する救助工作車Ⅲ型(写真1)が更新、緊急消防援助隊の登録車両でもあることから、多種多様な災害に対応すべく日々訓練を実施しています。(地図)

   

写真1

救助工作車

 

地図

いわき市管内説明図

3.チェーンソーについて

チェーンソーとは、エンジンまたは、電気モーターを動力とし、ソーチェーンが高速で回転することによって木等を切断する資機材の一つであり、機種は数多くありますが、基本的な構造はほぼ同一です。また、労働災害事故が多い資機材でもあり、取り扱いを一つ間違えると、活動している自分自身の身体を受傷させてしまうだけでなく、ともに活動する隊員にも危害を及ぼしてしまう可能性があるので、チェーンソーでの活動時は、活動現場全体の安全管理が必要となってきます。

今回は、活動時に、チェーンソーを使用している隊員を守る安全装置について、説明していきます。安全装置には、様々な種類があり、危険な事象などが起きた際に使用者を守るものになっています。

(1)前ハンドガード兼ブレーキレバー

枝の跳ねなどから左手を保護する機能及びキックバックによる作業者の

受傷を防ぐ装置です。(写真2)

⑵後ハンドガード

枝の跳ねなどから右手を保護する機能です。(写真2)

⑶チェーンキャッチャー

ソーチェーンのチェーンが切れたときに巻き付き、後方への被害を最小

限に食い止める機能です。(写真2)

 

写真2

チェーンソーの安全装置

次に、土砂災害時に対応すべく、当本部が導入した根切りチェーンソーについて説明します。

根切りチェーンソーとは、土砂災害などにより埋没してしまった木を根元から切断できるチェーンソーです。土砂内の木を切断する作業は、負荷がとても高いため、根切りチェーンソーは全体的な剛性も高く設計されており、ソーチェーンも特殊な加工が施されたものを使用しています。(写真3)

写真3

根切りチェーンソー

4.チャップスについて

チェーンソーによる自傷事故は、身体の左半分側、特に左足の確率が極めて高く、このような事故から作業者の身体を守る資機材であり、法令改正に伴い着用義務化となりました。消防職員も例外ではなく、基本的に労働安全衛生関係法令は、地方公務員である消防を適用から除外していないため、一部例外もありますが、チャップスを着用し活動しなければなりません。(写真4)

チャップスの構造について説明していきます。チャップスは、ソーチェーンが接触した際、表面が破れ、内部の特殊アラミド繊維が、高速で回転しているソーチェーンに当たり、引っかかって引き出された繊維がクラッチドラムに絡みつき、回転自体を止めてくれる仕組みとなっております。(写真5)もちろん、チャップスは一度、切断してしまうと再度使用することはできません。また、オイルなどが付着された状態で保管してしまうと、内部の特殊アラミド繊維に浸透し、繊維自体を固めてしまい、切断された際に、本来の役割を果たせなくなってしまうので、油などの汚れが付着した際は、中性洗剤などで洗浄し保管するようにして下さい。

写真4

チャップス着用が義務付けられた

写真5

特殊アラミド繊維が回転を止める

5.応用的な切断方法について

応用的な切断方法としてかかり木の処理及び道路障害となった倒木の処理について説明します。かかり木の処理はとても危険な作業であり、法令でも禁止されている手法もあります。しかし、二次災害発生の可能性があるかかり木の処理方法は、災害現場で活きてくる知識及び技術でもあるので、覚えておく必要があります。

⑴かかり木の処理

かかり木とは、伐採した木が思わぬ方向に倒れたことにより、途中で周囲の立木や家などに引っかかってしまったものをいいます。(写真6)

かかり木を切断する場合、どの方向に力が加わっているか確認してから切断しないと、ガイドバーを挟めてしまったり、切断中の隊員に落下してしまうなど二次災害のおそれがあるため、切断前の確認作業が重要です。

住宅などにかかった倒木を切断する際は、切断後に、上に跳ね上がる場合と下に跳ね上がる場合があるため、それぞれ切断方法が変わってきます。いずれもガイドバーが挟まらないように、初めに大きな切り口(受け口)(写真7)を作成し、反対方向から切断するようにします。

木が上に湾曲している場合は、最後に上に跳ね上がる力が加わるため、初めに下に受け口を作成し、最後、上から切断し落とします。(写真8及び図1)逆に、木が下に湾曲している場合は、最後に下に跳ね上がる力が加わるため、初めに上に受け口を作成し、最後、下から切断し落とします。(写真9及び図2)

   

写真6

伐採した木が周囲の木に引っかかり止まった様子

写真7

受け口は大きく作成し、挟まりを予防する

 

写真8

上に跳ね上がる力が加わる

写真9

下に跳ね上がる力が加わる

⑵道路障害となった倒木の処理

道路障害となった倒木を切断する場合、最も注意するべきことは、切断中にソーチェーンを、アスファルトなどに誤って当てないことです。アスファルトに当たってしまうと、刃が欠けたり、ソーチェーンが切れてしまうことがあるので、注意して切断する必要があります。(写真10)

初めに上から切断し、刃がアスファルトに当たらない程度まで切断します。その後、倒木を転がし、反対側を上にして切断しますが、切断口が繋がらない場合があります。(写真11)手間を増やさず、2回の切断で済むように、チェーンソーの上側を利用し切断口をなぞるように切断します。(写真12)この際、先端を初めに当ててしまうと、キックバックが起こる可能性があるので、チェーンソーの角度を考慮して切断することが重要です。(写真13)

写真10

チェーンソーの先端などが当たらないように切断する

    

写真11

重ならなかった場合、再度切断しなくてはならない

写真12

キックバックゾーンに注意して切断する

写真13

キックバックゾーン

6.メンテナンスについて

使用しているうちに付着する汚れにより、チェーンソー本来の性能を発揮できなくなる可能性があります。今回は、汚れが付着しすいクラッチカバーの内側やガイドバーの清掃方法について説明していきます。

⑴クラッチカバー

クラッチカバーの内側は、木屑がチェーンオイルと混ざって付着してしまいます。コンプレッサーやブラシなどを使用し、あらかた汚れを落としたら、ウエスなどで拭きあげます。(写真14)

写真14

放っておくと固着してしまう

⑵ガイドバー

ガイドバーのレールの内側には、オイルと混ざった木屑等が溜まりやすいので、ソーチェーンを取り外し、専門の工具で取り除きます。また、根元部分にあるオイルホールは、レール内にチェーンオイルを送る重要な箇所なので、木屑等を取り除き、ウエスなどで拭きあげます。(写真15)

写真15

使用後はガイドバーを裏返して設定するため、2箇所とも清掃する

⑶本体

本体もクラッチカバーと同じように、汚れが付着します。中でも、オイルホールは、ガイドバーにチェーンオイルを送る重要な箇所なので、木屑等を取り除き、ウエスなどで拭きあげます。(写真16)

清掃後は、チェーンオイルの吐出状況を確認するため、白いウエスなどを敷き、エンジンの回転を上げ、飛散状況を確認します。

写真16

本体のオイルホールも併せて清掃する

7おわりに

私は、東日本大震災以降に拝命いたしましたが、震災を経験した先輩から、「現場に向かう際に、車両の進行の妨げとなっている倒木の処理をするのに苦慮した。」という話をよく聞きました。(写真17)このため、当本部では、森林組合のプロの方々から適時、講義を受け対応力向上を図っております。

私も高度救助隊員として、震災対応の訓練は随時行っていますが、要救助者が待つ現場へたどり着くには、倒木などの障害物を除去しながら向かう必要があるため、一見簡単そうに見える倒木の処理、つまりはチェーンソーの取扱訓練なども軽視することはせず、今後も訓練を重ねていきたいと思います。

写真17

東日本大震災時の土砂崩落現場

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