月刊消防 2023/07/01, p78
月刊消防「VOICE」
題名:消防への憧れ
人は消防という仕事を選ぶ時、憧れや助けられた経験など、それぞれのきっかけがあると思います。私が消防という仕事を選ぶきっかけになったのは、約40年前の出来事でした。
真夜中に響いた「ガシャーン」という音。約40年前に私が小学生だった頃、両親と祖母、兄、妹の6人家族で、一戸建てに住んでいました。場所は、閑静な住宅街の一角にあり、夜に外から聞こえてくる音は、たまに通る車の音ぐらいしかありませんでした。そんなある日、自宅で家族と過ごしていた時にその音は鳴りました。事故が起きたということが予想できるくらいの音だったと思います。
その直後に、父親がパジャマ姿で家を飛び出しました。私の父親は、大阪府下に勤務する消防士でした。特に仕事のことに関して、聞いたこともないし、言われたこともありませんでした。何日か毎に朝出勤し、次の日の朝に帰ってくるというぐらいしか印象になかったと思います。その父親が家を飛び出したので、後を追うように、母親や兄、妹とパジャマ姿のまま一緒に駆け付けました。
現場は、自宅から約30m先の片側一車線道路の真ん中で、車が破損して止まっており、周りに破片が散らかっていました。まだ、運転席には怪我をした人が座っている状態だったと思います。その運転席の怪我をした人に対して、父親がとりついており、背中越しではあるが何かをしていたと記憶しています。その後、おそらく救急車が来たと思いますが、そこは私の記憶に残っていません。ただ、鮮明に憶えていることは、その事故の時に消防という仕事への憧れを少なからず抱いたということでした。
あれから40年。
私は父親と同じ消防士になり、救急救命士として救急業務に従事、救急隊長として乗務した後、現在は日勤業務に従事しています。勤務して20年。その大半を救急業務に費やし、救急隊としていろいろな現場に出場し、経験もしてきました。プライベートでは、妻と子供2人(高校生の息子と中学生の娘)の家族構成で、妻とは子供の将来や職業について、特に話をしたことはなく、好きな職業に就いてくれたらいいなと、漠然とした話しかしていませんでした。
その高校生になる息子が昨年、卒業後の進路について、唐突に言い出しました。
「俺は救急救命士になりたい。どうしたらいい?」と。
妻と二人で聞いていましたが、正直ビックリしました。私と同じ仕事を選んでくれたことは嬉しかったのですが、照れもあり、平静を必死に装いました。今まで、仕事の話は妻にはしてきましたが、凄惨な現場や体験も含め、子供たちに改めて伝えたことはなかったと思います。なぜ、息子が救急救命士という進路を希望したのか、理由はまだ聞いていません。ただ、私が消防という仕事に憧れ目指したときに全力で応援してくれた父親と同じように、私も息子を全力で応援したいと思います
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