近代消防 2024/01/11 (2024/02月号)p82-4
酸素マスク及び酸素投与について
目次
1.はじめに
はじめまして。北海道留萌(るもい)消防組合小平(おびら)消防署の松山涼と申します。今回の「今さら聞けない資器材の使い方」では、「酸素マスク及び酸素投与」について執筆させて頂きます。
2.酸素投与の目的
酸素投与の目的は吸入酸素濃度を増加させて、低酸素血症を改善し、組織に十分な酸素を供給するためです。低酸素血症が進むと昏睡やショック状態となってしまいますので、傷病者に対し適正に酸素を投与することが重要です。
3,酸素投与の適応
呼吸不全、ショック、心不全などの循環不全、Spo2値が低い傷病者、意識障害などが適応となります。
また、外傷におけるロードアンドゴー、一酸化炭素中毒などによるガス中毒が疑われる傷病者も適応となります。
4,酸素マスクの種類
主に救急隊が使用する酸素マスクにあっては、鼻カニューレ、フェイスマスク、リザーバー付きフェイスマスクの3点となります。その他にベンチュリ―マスク等がありますが主に医療機関内で使用されるため、今回は鼻カニューレ、フェイスマスク、リザーバー付きフェイスマスクについて説明します。
(1)鼻カニューレ(001, 002)
軽症の低酸素血症傷病者や慢性呼吸器疾患の傷病者に使用します。
○メリット
鼻腔から酸素を吸入するタイプの酸素投与器具で、口元をマスクで覆わないため不快感が無く、酸素を吸入しなが
ら会話や食事も可能です。
○デメリット
鼻閉や口呼吸をしている傷病者には酸素吸入濃度が減少し効果が期待できません。また、高流量の酸素を投与してしまうと鼻腔内が乾燥してしまうため注意が必要です。
001
鼻カニューレ
002
鼻カニューレを装着したところ。チューブはメガネのように耳介の上を通す
(2)フェイスマスク(003, 004)
状態の落ち着いた中等度の低酸素血症傷病者に使用します。
○メリット
鼻腔と口腔から酸素を吸入するため鼻カニューレと比較すると多く酸素を取り込むことができ、酸素流量を調整することで吸入酸素濃度をある程度調整することが可能です。
○デメリット
低流量で酸素投与をすると、呼気の一部がマスク内に残存することがあり、それを再呼吸してしまうことがあります。高流量で酸素投与をすると隙間から酸素が逃げてしまい高い吸入酸素濃度が得られないため、軽度から中等度の傷病者に使用することが推薦されます。
また、密閉感があるため、不快に感じる傷病者もいるため注意が必要です。
003
フェイスマスク
004
フェイスマスクを装着したところ。ゴムバンドでマスクを頬にしっかり密着させる
(3)リザーバー付きフェイスマスク(005, 006)
重症の低酸素血症傷病者に使用します。
○メリット
リザーバー内には供給された酸素のみが蓄積され、傷病者の呼気が吸気に混入することがありません。
鼻カニューレとフェイスマスクに比べ高い吸入酸素濃度が得られます。
○デメリット
低流量の酸素投与だと、吸気流量不足により吸入酸素濃度が維持できないため注意が必要です。
005
リザーバー付きフェイスマスク
006
リザーバー付きフェイスマスクを装着したところ。リザーバーが常に膨らむように大量の酸素を供給する必要がある
5.各マスクの投与酸素流量と吸入酸素濃度について1)
酸素吸入濃度の最大値は表の通りです。傷病者の呼吸状態やマスクの装着状況によって酸素吸入濃度は低下します。
表
投与酸素流量と吸入酸素濃度の関係。吸入酸素濃度は最大値であることに注意。
6.合併症について
酸素投与の際に注意しなければいけない合併症として、CO2ナルコーシスが挙げられます。慢性呼吸不全の傷病者に対し不用意に高濃度酸素を投与すると、呼吸を弱めてしまい、傷病者の意識レベルが低下し自発呼吸が停止することがある(007)ので、酸素濃度は少しずつ上げて行きます(008)。ですが低酸素血症の改善には酸素投与は必要不可欠であるため、CO2ナルコーシスの可能性がある傷病者には、あらかじめバックバルブマスクを用意し酸素を投与します。
また、酸素投与の禁忌として除草剤(パラコート、ジクワット製剤)による中毒の急性期では、酸素と反応して活性酸素が生成されることにより肺の線維化を助長させる可能性があるため、不用意な酸素投与は避け、最小限の酸素投与量にします。
007
CO2ナルコーシス。慢性呼吸不全の傷病者に対し不用意に高濃度酸素を投与すると自発呼吸が停止することがある
008
CO2ナルコーシスを避けるために、酸素濃度を少しずつ上げて行く
7.おわりに
今回、酸素マスク及び酸素投与について執筆できたことで、再確認することができました。読んでいただいた方の知識に少しでもプラスになればいいなと思います。このような機会をいただき、ありがとうございました。
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