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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします
目次
救急隊員のための基礎講座
一般内科の救急
今回は内科の講義の締めくくりとして、今まで触れなかった重要な疾患を取り上げ解説を加える。
アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショック(過敏性ショック)は、外から原因物質が体内に侵入することにより急激かつ重篤な症状が出現するものである。原因物質としては蜂、そば、薬剤など直接体内に入るもののほか、運動や寒冷暴露といったちょっとしたきっかけからショックになることもある。
原因物質の侵入により白血球などからヒスタミンなどの化学物質が大量に放出され、それにより血管が広がり血液成分が血管外に出てしまう(浮腫)ことによってさまざまな症状が引き起こされる。症状は注射の場合には数分以内で現れるが、経口薬や食べ物では2時間程度まで遅れることがある。
症状としては、皮膚の痒み、発赤、蕁麻疹といった軽度のものから、消化管に浮腫が来れば嘔気、嘔吐、下痢がおこり、咽喉頭に浮腫が来れば喘息・呼吸困難から窒息する症例もある。全身の血管が広がれば血液の容量が不足して血圧は低下する。生命に直接影響しない程度のアナフィラキシーショックは頻度が多く、急に体中が痒くなって皮膚が真っ赤になり、息も何となく苦しいという症例は救急外来で結構経験する(事例1)。
観察と処置
バイタルサインをすばやく把握する。ショックなので血圧は低下している。喉の痒み、息苦しさを訴えている症例は窒息する危険がある。酸素投与を行い厳重に観察すること。呼吸困難が強い場合にはバッグマスクで補助換気を行ったり、胸郭圧迫法(用語)を行って呼吸を補助する必要がある。血圧低下に対しては下肢を挙上する。それでも血圧が下がるようならショックパンツの装着を考える。嘔吐が高頻度に見られるので誤嚥しないように側臥位を取らせたり、顔を横に向かせる必要がある。
もし観察中に呼吸停止になった場合にはコンビチューブなどの気道確保器具を挿入して換気することになるが、咽喉頭の浮腫や喘息が原因なので気道抵抗が大きく換気は難しい。また静脈確保し急速輸液を行って少しでも血液容量を増やす必要がある。
山林で働く人では蜂刺されに備えて、アナフィラキシー用の注射剤を持っていることがある。その場合には速やかに皮下注射をさせる。
糖尿病による意識障害太った人には糖尿病が多い。ありふれた病気であるが侮ってはいけない。糖尿病はインシュリンの需要に対して供給が不足することにより起こる。症状としては血糖が高くなることが知られているが、高くなるというより調節が利かなくなるとといったほうが正しい。血糖は簡単に高くなりまた簡単に低くなる。また糖尿病は血管を新たに作ったり詰まったりして合併症を引き起こす。腎不全で透析を始める原因の筆頭は間もなく糖尿病性腎症になるし、糖尿病性網膜症で失明する人も急性動脈閉塞で足を失う人も多い。さらに、糖尿病の初めての症状が意識障害であることも稀ではない。
糖尿病が引き起こす意識障害には3種類ある。低血糖発作、ケトアシドーシス性昏睡、高浸透圧非ケトン性昏睡である。
1)低血糖発作
低血糖発作は血糖が40-50mg/dLを切ったときに意識が消失するものである。脳はエネルギー源としてブドウ糖しか利用できないため、低血糖が長時間続くと脳は回復不可能な損傷を受ける。そのため迅速に処置する必要がある。
低血糖の初期症状は普通の人が空腹を覚えたときと同じである。つまり、空腹感を覚えてイライラし、不機嫌になる。よだれが出て力が入らずふらつく。さらに冷や汗をかきドキドキし、意識が遠くなる。問診が重要で、糖尿病の治療を受けていることが鍵となる。病院では、糖尿病の情報を基に血糖を計り、もし血糖が低い場合には50%ブドウ糖を50ml程度急速静注する。低血糖の期間が短い場合にはこれにより後遺症なく完全回復する。
2)ケトアシドーシス性昏睡
インシュリンの絶対的欠乏から代謝失調を起こし、昏睡に至る。ケトン体が蓄積することによりアシドーシスとなる。また血糖は上昇し、脱水を起こし、電解質バランスも異常となる。もともとインシュリンが不足している患者が、感染やストレスによって食生活が乱れることによって発症する。
糖尿病の初発症状が糖尿病昏睡であることも珍しくない。しかし、突然昏睡になるわけではなく、何らかのエピソードに続いて昏睡になるので、それらを問診することによっておおよその見当を付ける。確定診断には血糖測定と血中尿中のケトン体測定が行われる。
3)高浸透圧性非ケトン性昏睡
高齢者に多く発生する昏睡。感染や薬剤の飲み忘れなどによって発生する。著しい高血糖、脱水、高浸透圧を呈するが、ケトアシドーシスはない。意識障害に加えて、さまざまな精神症状を認める。年齢が高いために、死亡する症例もある。発症は通常緩やかで、数日から数週間かけて症状が進行していく。
観察と処置
通常の意識障害と同じ。低血糖らしいが意識が保たれている場合には、誤嚥に注意しつつ、砂糖水やオレンジジュースなどを飲ませる。意識が保たれていない場合には誤嚥する可能性が高いので呼吸状態に注意しながら病院へ搬送する。
喘息喘息は従来言われていたアレルギー反応に基づく発作的かつ可逆的な気道の狭窄ではなく、慢性の炎症により気道の過敏性が亢進した状態と定義されるようになった。このため、治療も気管支拡張薬からステロイドの吸入へと変化してきている。
救急外来を訪れる喘息患者に一番必要なのは教育であろう。高頻度で発作を繰り返す喘息患者の中には、仕事や家事にかこつけて通院や薬の摂取を怠っている人がいる。そういう人は喘息は死ぬ病気だとは思っていないし、前回も点滴で治ったのだから今回もこれからも点滴で簡単に治るという安易な考えをしている。喘息で急死する患者は多いし、先輩の医師で死んで発見された人もいる。
観察
喘息の判断は容易である。バイタルサインをチェックしつつ呼吸困難の程度を観察する。呼吸回数は増加し、いかにも苦しそうな表情となる。会話が困難になればかなり重篤である。唇や爪床のチアノーゼを見る。意識が障害されている場合には血中二酸化炭素が60mmHg以上になっていると考える。聴診器を携帯している救急隊員は必ず呼吸音を聴取すること(コラム)。息を吐くときにヒューと音がする。重症になれば息が吐けなくなるため「ブツブツ」という音に変わり、最重症では換気できないために呼吸音は消失する。小児の場合には喘息に見えて気管異物のこともあるため、家族に発症のきっかけを聞くことが必要。
処置
かかりつけ医によっては発作時には吸入やネオフィリンの頓用を行わせていることもあるので、それらをまず守らせる。起座呼吸をしていればそのままストレッチャーに載せ換えて搬送する。小さな発作と思っても歩かせないほうがよい。
車内では酸素投与を行う。呼吸困難が強いときには患者の呼吸に合わせてバッグマスクで補助換気をしつつ、もう一人の隊員が胸郭圧迫法を行う。患者は呼吸困難で死の恐怖を抱いている。恐怖は呼吸困難を悪化させるため、励ますことが必要である。
呼吸が停止した場合には救急救命士ならコンビチューブやラリンゲアルマスクを挿入するが、もともと気道狭窄があるために送気には異常な力が必要になる。このため、早くて浅い送気を心がけるようにする。
用語
胸部圧迫法
6月号でも触れた胸部圧迫法を解説する。札幌医科大学で胸部圧迫法を指導されている石川朗先生にお話を伺うとともに、実際に私にやってもらった。
前方から圧迫する場合には親指を乳房部下、後方から圧迫する場合には親指を肩甲骨下に置き(図1)、残りの4本指は腋の下から側胸部に置く。患者が息を吐くときに、はじめは軽く、吐き終わりには強く胸を絞る。吸気時には力を抜く。
強さは肋骨が2-3cmへこむくらいは必要である。石川先生は触れなかったが、どうしても向こう側に押しつける状態になるので、前から押す場合には背板を起こしたストレッチャーに載せ、後ろから押す場合には毛布を抱かせた(図2)ほうが効率がいい。
実際にやってもらったところ確かに先生の押し合わせて息が吐ける。でも、それよりも皮膚が先生の手と肋骨でよじられて非常に痛い(これは私が痩せていることも原因とは思うが)。長時間行うと患者は皮下出血するらしい。この痛さを忘れるほど呼吸が苦しいのが喘息なんだと妙に納得してしまった。
患者によっては、もっと前屈みになったほうが楽だとか、腹の上を押したほうが楽だとかいう要求もあるようなので、希望を聞きながら押す。胸部圧迫法の効果がある場合、5分以内に自覚症状は改善し、息が楽になったとか会話できるようになったとか言う。20分行って症状が改善しない場合には効果がないと判断して中止する。
事例1
運動性アナフィラキシー(運動性蕁麻疹)
17歳男性。入浴後、全身の発赤・蕁麻疹・痒みが出現し、救急車要請。既往歴:約1年前、体育の授業中に同様の症状が出現。直ぐに症状が改善したため救急車の要請はなし。病院受診し運動性蕁麻疹と言われた。
現着時所見:全身の痒みを主訴。全身の発赤、膨疹を見分。観察中に嘔気(+)、呼吸苦(+)。JCSI−0。 BP 139/84・PR 86・R 30・SPO2 96。口腔内は「発赤」。
処置:酸素投与。補助呼吸。処置中BP90代に低下、足側高位とする。最悪の事態を想定し、CPR準備。
搬送途上の所見:全身の発赤、痒み及び呼吸状態は回復。BP130代。
医師意見:同様の患者はたまーに見かけるが重篤になるような例は少ない。救急時に重篤になるような場合は、補助呼吸や体位変換など血圧維持に主眼を置き対処すること。
(留萌消防組合消防本部 梅澤卓也 救急救命士)
事例2
緊急を要する膠原病
36歳の主婦。生来健康で、特に既往歴なし。
数日前から胸元に発疹が出るようになっていたが放置していた。また、腕を挙げにくいことを感じていたが、普段から運動が好きで趣味としてテニスをしていたため、そのための筋肉痛だとしか思っていなかった。
自宅で全身のだるさを訴え救急要請。意識は清明。微熱はあるが、ぐったりとした様子はなく比較的元気であった。胸元に紅斑が見られるが、自覚症状は特にないとのことであまり気にとめなかった。腕を挙げにくいことがときどきあるが筋肉痛とのことで特に疑いを持たず、内科的な疾患と判断し近位に搬送した。
その後、投薬を受け通院していたが、膠原病の診断により総合病院に転院、数日後、膠原病による心筋梗塞で死亡した。
本事例は発症して数日で死亡したものであるが、まれなケースとはいえ、生命に別状ないもとの安易に判断し、十分な身体所見を怠った事例である。反省点として、
(1)発熱・倦怠感はよく遭遇する症状であり、先入観、思いこみにより症状は軽いと判断したこと
(2)病態を予測できなかったため、筋肉痛の訴えを鵜呑みにしたこと
(3)発疹には重大な疾患が隠れている場合があり、皮膚症状の観察にはよりいっそうの注意が必要であったこと
以上の点に十分注意すべきであった。
(旭川市消防本部南消防署豊岡出張所 救急救命士 矢野博己)
写真1
後ろから押す方法。
写真2
起座呼吸時は毛布を抱かせる。術者は岩淵達也理学療法士。
聴診器はいいものを使いましょう あなたは自分の聴診器を信頼できますか?もし、そうでないのなら今すぐ信頼できる「良い道具」に買い換えるべきです。
私は先日、聴診器を買い換えました。今まで使っていたものは、消防学校の救急2課程入校時に支給された「ナーススコープ(定価1,200円)」という代物で、安さとヘッドの薄さだけが取り柄のものでした。
では何故、これではダメなのでしょうか?騒音のない静かな部屋の中で、血圧測定をするだけなら大した問題はないでしょう。しかし、我々救急隊員には心音と呼吸音の聴取が許されています。というよりも、傷病者の状態に応じて行わなければなりません。確かな観察ができなければ、その後の判断や処置が不適切なものになってしまうからです。
それでは本当に、「ナーススコープ」では用が足りないのでしょうか?私が不満に感じていた点は、・聴診感度の悪さ(これは決定的です)・イヤーチップの密着の悪さ(周囲の騒音が入ってきてしまう)・傷病者に与える不快感(リムが金属製なので寒い場所ではすぐに冷たくなってしまう)などがありました。「聞こえの良さ」が聴診器には一番求められることなので、やはり「ナーススコープ」では役不足ということになります。
でも、多くの人がそうであるように、何かの「きっかけ」がなければ、高価な聴診器を自分で購入しようとはなかなか思い立てないものです。私の場合は、性能が良くない聴診器での「聴診不能」という観察結果が信用できず、判断に迷ったという経験と、「安い聴診器では聞こえない音も、高価な聴診器では聞くことができる。」という以前から耳にしていた言葉とが結びついたことが、買い換えの契機となりました。
さて、いざ買い換えるとなると、どういったものにするかが最大の問題です。私は、(1)使用目的を明確にする(2)予算を決める(3)情報を収集する、このようなステップで購入しました。
(1)について
呼吸音の聴取に適したもので、血圧測定にも便利(マンシェントへの挟み 込みが容易)なもの
(2)について
私の場合、1万円台のものと決めた。
(3)について
インターネット、電子メールを活用して情報を集めた。また、医療機器販 売会社の担当者、本署にいる救急救命士、地元の獣医などから話を聞き参 考とした。
実際に新しい聴診器を手にしたとき、真っ先に感じたことは「見た目の格好良さ」でした。いかにも頼りになるといった感じの面構えです。肝心の性能についてですが、先に書いた不満を全て解消してくれる出来でした。聴診感度は以前のものと比べて、格段に良く、イヤーチップは、周囲の音がほとんど耳に入ってこないほどの密着の良さで、リムについても、非金属素材を使用しているので、聴診時に冷たさを感じさせる心配がなくなりました。
また、この聴診器買い換えの一件が、職場内での救急に対する「意識の高まり」という予想外の効果をもたらしてくれました。今回私の職場では、私以外に4名の職員が聴診器を買い換えました。消防業務は、「救急」に限らず、チームで成果を発揮する仕事です。一人だけが良ければいいというものでは決してありません。周囲の人も巻き込んで、職場全体でレベルアップしていくことが最も大切なことです。
皆さん、やはり聴診器は「いいもの」を使いましょう。そして、その輪を広げて行きましょう。
(北海道・紋別(もんべつ)地区消防組合興部(おこっぺ)支署 大井雅博 救急隊員)
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