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特集●地域医療機関との連携をはかるために
留萌市における医療機関との取り組みについて
中路和也:留萌消防組合留萌消防署
著者連絡先:〒077−0021北海道留萌市高砂町3−6−11
はじめに
留萌消防組合は、港湾を中心とし水産加工業の盛んな留萌市及び第一次産業を中心とした小平町で構成される。組合管内人口は約35,000人、管轄区域は東西34km、南北44.6km、給面積924.61km2を有し、組織は1本部1署2支署、職員71名で火災、救急、救助等消防業務を兼務している。
救急活動については、年間約750件の救急出動を救急救命士9名(留萌消防署勤務)、救急II課程資格者25名を中心に準専従で対応している。平成7年度に導入され、留萌消防署に配置されている高規格救急車(トヨタ・ハイメディック)1台を含む3台の救急車を運用している。
そこで、留萌消防防署(職員41名)で実践している医療機関との取り組みについて病院研修を中心に述べる。
経過 平成3年、救急救命士制度が発足し、当消防本部でも翌年に救急高度化推進計画を策定した。平成6年10月、救急救命東京研修所へ2名の職員を派遣し、翌年には初の救急救命士が誕生した。平成7年からは同研修所に毎年職員を派遣しており、現在では9名の救急救命士が現場で活動している。
全国的に救急救命士の養成が推進されている中、地方都市においては病院との連携体制や教育体制が遅れているのが現状である。当消防本部では、市内唯一の公立救急指定病院で二次救急病院である留萌市立工総合病院(ベッド数326床)にプレホスピタル・ケアの改善、垂篤な傷病者の救命率向上を目的に、救急救命士制度や病院研修、指示体制の必要性について積極的に説明、協力を依頼した。そこで、病院長はじめ医師・看護婦の理解を得ることができ、救急救命士誕生3か月後に病院研修、7か月後から条件(診療時間帯)付きの指示体制で救急救命士制度の運用を開始した。その後生涯研修の成果及び信頼関係により運用開始6ヶ月後に常時指示体制がスタートし現在に至っている。
留萌市立総合病院における研修・教育体制1 就業前研修
救急救命士資格取得後、研修所で修得した教養、特定行為等にかかわる知識と技術を現場で迅速かつ的確に実践でさるようになることを目的とした。指導担当医師は麻酔科医、期間は1か月、担当医からの課題に対してレポート提出が義務である。
平成7年8月、第1期の2名が1か月にわたる病院研修を開始した。初めての経験のため、内容は技術の習得のみならず病院スタッフとのコミュニケーションを図ることを重視し、診療全科を回って阿ってスタッフに救急救命士とは何かを理解してもらおうとした。しかし、実際には、1か月間で全科を回るのはハードである上にそれぞれの医療スタッフとコミュニケーションを図るには時間が足りないことが判明した。そこで、同年11月、第2期2名の研修では、研修する診療科を限定するとともに、手術室での研修に多くの時間をあてることにより特定行為を中心とした実習を充実させることにした。産婦人科領域については、当院の産婦人科医師の理解の下、分娩に立ち会い処置の見学を行っている。また、救急搬人時は救急外来にて患者への看護、処置、接遇等を実践している。
既に9名の救急救命士が就業前研修を修了している。
2 生涯研修
救急活動の中で出動件数により差がついた個人個人の技術レベルの底上げと、日進月歩する救急医療の知識と技術の更新を目的とした。指導担当医師は麻酔科医、年2回2週間(各自5回目から1週間)で日勤時間帯(実際は20時頃まで)で行う。午後からは手術室実習が基本である。
当消防署における心肺停止傷病者の数は年間約30症例と少なく、救急救命士が現場経験によって知識や技術を維持していくには症例が不足している。そこで、就業前研修の反省会において、担当医師(麻酔科)とこの問題について協議したところ、「救急救命士も医療従事者である以上、定期的に研修することが望ましい」との意見があり生涯研修が実現した。この研修は平成8年2月に開始し、現存までに実施回数55回を数えている。
カリキュラムは、特定行為手技が中心である。個人の自主性を尊重し一人ひとりが担当医師と協議した上で、自分でカリキュラムを決めることが大きな特徴である。自分で目標や内容を決めることによって、主体的かつ意欲的に研修に取り組めるだけでなく、自分の不得意な分野を十分に学ぶことが可能である。
最も重要な手術室実習では、麻酔器・気道確保器具の点検、患者入室後は各種モニターの装着、バッグマスクによる用手的換気、喉頭鏡を使っての口腔内観察、気管内挿管・ラリンゲアルマスク・コンビチューブ等を使用した気道確保及び換気確認、チューブの固定、人工換気状態の確認、静脈路確保、各種モニターの確認、気管内吸引、抜管操作、患者退室までの看護等を麻酔科医の指導下で行う。責任と緊張感、重圧感を感じながら就業前研修より一歩進んだ実習を行っている。
コンビチューブの使用については、患者の了 解のもと、医療スタッフの協力でテーマを持ち、 疑問を徹底的に追及し臨床研究を行った。その 結果、現場で迅速かつ安全、確実に使用するた めの自信を身につけることができた(図1)。
また、担当医師の指導により研究論文、活動報 告、症例等を各種研修会、学会等で発表したり、 研究論文を投稿し理解を深めている。
麻酔科外来においては、救急救命士が実習し ている旨の掲示をしていただき、外来患者に留 置針を使用した静脈路確保を行っている。多い 日には30症例以上経験することもある(図2)。
現在、1年間に前期18週間、後期18週間を麻 酔科外来を中心に研修しているため、麻酔科外 来患者からは、「誉められたり、腐されたり、 拒否されたり、比べられたり」と患者と対話を しながら静脈内留置針を刺している。
平成10年4月、病院内に在宅支援室が設立された。看護婦との訪問着護を通し病態把捉、在宅医療患者及び家族とのコミュニケーションを図り円滑な救急業務の推進を目的に研修カリキュラムに取り人れている。在宅医療患者への接遇、状態観察、点滴処置等を学び、また、毎月患者情報を提出していただき搬送方法、患者台帳を更新し、安心と信頼感を得たスムースな救急活動の準備を行っている(図3)。
3 勉強会
救急医療従事者として相互理解を深めるため、また普段接することの少ない医師・スタッフにも救急救命士の病院研修成果、救命講習等を理解してもらうため、同病院の医局会で勉強会を平成8年から年1回開催している。
初回のテーマは、「救急救命士制度について」「使用できる資器材は」であった。平成10年には、病院研修が更に有意義なものになるよう「救急救命士病院実習ガイドライン」についての説明を行い多くの医師から理解を得た。参加した医師から「救急救命士は良きパートナーであり、救急業務の推進を図る上で医療機関との密接な連携が必要」との言葉を頂いた。直接研修を担当して下さる医師に限らず、多くのスタッフに救急救命士の存在をアピールすることができ、日頃の救急業務でも収容後に処置の協力を依頼されるなど、勉強会の効果は予想以上に人きい。
また、看護部主催の研修会、講習会等へも積極的に参加し看護医療知識の向上を図るとともに、救急講習会の支援を行い、協力と信頼の維持に努めている。
おわりに 当消防組合では高規格救急車の運用や病院研修を恵まれた環境の中で実現してきた。しかし、現場スタッフと顔の見える信頼関係が作られてきているが、症例に偏りがあるのが現状である。全国的に見ても、「救急救命士病院実習ガイドライン」が示された今、地域により症例数が不足したり、研修効果判定が一定でないこと、また現場での症例経験の地域差が大きすぎること等、自治体消防における問題点はたくさん残されている。
現在、特定行為の処置拡大、指示要請等の検討がされているが、現場における症例数が少ない救急救命士にとって重要なのは、まず、許されている救命処置を十分に理解し、技術の錬磨と知識の向上、モチベーションの維持を図ることではないだろうか。近い将来、救急救命士法の改正を待つ準備として、特定行為を含め適切な現場処置、的確な判断力を養い、救急隊全体のレベルアップに努めることが必要だと思う。
今後もプレホスピタル・ケアの充実に向け医療機関と消防組織が積極的に協力し合い前進していきたい。
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06.10.28/6:31 PM
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