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目次
[講義] 投稿
論文の書き方 3.[事例報告]
玉川 進
旭川厚生病院麻酔科
078-8211 旭川市1条24丁目111番地3
tel 0166-33-7171
fax 0166-33-6075
はじめに
新しい資器材を使って、多くの事例からデータを集めないと論文はできないと思っている方が多いことでしょう。しかし、そういった条件を満たすことのできる救急隊員はほんの一握りです。その他大多数は『プレホスピタル・ケア』をただ眺めているだけしかないのでしょうか。
恵まれない人たちにも、[事例報告]という手があります。毎日出動する中で、妙にためになる事例とか、腑に落ちない事例がいくつかあるはずです。これを論文にして発表するのです。ここでは、三好らの事例報告1)を例に、書き方の実際を解説します。
題材を見つける初めの一歩は同僚に茶飲み話をすることから始まります。
玉川は同僚ではないのですが、用があって三好と電話していました。1996年7月16日の話です。「車が電信柱にぶつかって、ワイヤーが道路を横断してたんですよ。そのあとからバイクが来て、首にワイヤーが引っかかって首つりみたいになって倒れてました」というのが今回の発端でした。
「ほう、かわいそうにね」(玉川より三好のほうが年上なのですが)
「行ったらCPAで、首がカクカクしてたんで、喉頭鏡を使ってツーウェイ(チューブ)を入れたんです。そしたら、咽頭カフが口の中に入るあたりでそれ以上先に進まないんです。太いせいかなあと思って、SA (Small Adult)にしたんですけど、やっぱりだめで、LMを入れました。」
「大変だったね。でもね、LM (ラリンゲアルマスク)は頸損(頸髄損傷)には使えないんじゃないの。まっすぐで(中立位で)入ったの」
「そうなんですけどね、ツーウェイをつっこんだときに、チューブを押すと喉が持ち上がるのが表面から見えるんですよ。入ってかないし、こりゃ食道がつぶれているんだと思って。LMは簡単に入りました。喉頭鏡で見たところ、喉頭はなんともなかったようでした。」
「でもね、大きなところ(消防本部)へ行ったら首つりでツーウェイ入れることなんかいっぱいあるんでしょ。食道がむくれてたのかな。そういう報告はないの」
「どうなんでしょう」
「面白いね、書こうよ」
とあっさり書くことに決めたのです。
「エッ、書くんですか」
この電話は、その時に書き終わった臨床研究についてのもので、三好はこれで書きものから解放されたとたいそう喜んでいたのですが… 後日、電話で無駄話をしたことを大変悔やんだと本人から聞きました。
骨格の設定1)結論:わたしはこれが言いたいんだ
2)問題点:ここが変だった、ためになった
3)理由:今まではこう教わってきたのとはここが違うから
4)考察:どうして違うのか
を考えます。
三好の事例では、
1)結論:頸損でもLMを入れることがあるのですよ
2)問題点:頸損であるがツーウエイチューブが入らずLMの選択を余儀なくされた
3)理由:LMは頸損では使えないはず
4)考察:食道が腫れていたため先端が入っていかなかった。喉頭は保たれていたはず。なぜならLMでちゃんと換気できたから
電話での無駄話ですでに結論も考察も三好が述べていることに注目して下さい。
結論は、内容を考える過程で常に先頭に来ます。言いたいこと(結論)があるから論文を書くのですから。
資料を集める1)救急隊の持っている資料
搬送時の心電図、血圧、酸素飽和度など。忘れないうちに書き留めておきます。
2)病院での情報
病院での治療経過、レントゲン写真、心電図など。病院での情報は救急活動を検証する上で必須です。写真を載せれられればその報告の価値は飛躍的に高まります。是非とも手に入れましょう。
病院に資料を請求する場合には、手紙で以下の内容を丁寧に書きます。プライバシーの保護については強調しておきます。
(a)救命士として興味の湧いた点を記す。詳しく書くこと。
(b)投稿予定の雑誌の名前、発表予定の学会(研究会)名
(c)病院内の経過を知らせて欲しいことを頼む。レントゲン写真も貸して欲しければつけ加える。医師は(a)の内容に応じて適当なレントゲン写真をセレクトして送ってくれるはず
(d)知り得た内容は消防機関外にはもらさないこと、借りた写真などは期日を決めて必ず返却すること、雑誌や学会発表以外に使用しないこと、写真にタイプされている名前は発表の際必ず消去することを約束する。
三好の事例では、(a)救命士としての興味の湧いた点は、ツーウエイチューブが入らなかったことで、食道閉塞が原因でないかと考えた。(b)救急隊員の準学会誌「プレホスピタル・ケア」に投稿したい。(c)病院での治療経過を知りたい。気道閉塞の状態を知るため、できればレントゲン写真も貸していただきたい。(d)レントゲン写真は返却すること、準学会誌や学会発表以外に使用しないことを約束する、という内容の手紙を7月17日に留萌市立病院・救急担当医宛に出したところ、翌日回答がfaxで寄せられました。
「留萌消防組合消防本部 三好 正志さん
96-7-18-10:50
診断名
1)第2、3頸椎骨折
2)外傷性くも膜下出血
3)低酸素脳症
臨床経過
搬入時は完全な脳死状態でした。
(呼吸)7.5mmの挿管チューブを挿入。自発呼吸なし。
(循環)搬入時は整脈(不整脈なし)、徐々に循環不全になった
(意識)3-3-9 で 300
頸部損傷の程度
挿管は案外スムーズでしたが、頸部のCT上、浮腫(+)
外観でも頸部の浮腫(+++)です。筋の挫滅(++)
創は前頸部のみで皮下まで
CT撮影後脳外医師にコンサルト、脳外入院となったが、100%見込みがないとのことで、対症療法のみとなったようです。」
脳外科からは7月20日に、臨床経過の報告とともにレントゲン写真が送られてきました。レントゲン写真には簡単に所見が添えられていました。中咽頭から下咽頭の閉塞がわかります。レントゲン写真は写植屋さんへ渡しました。書き始める
救急隊の報告では、時間経過がはっきりしているので、行為を時間順に箇条書きにして、その行為に対してどう思ったかを並べていけば考えやすいでしょう。毎日の出動日誌や上司へのレポートを書いているつもりになってキーボードに向かいます。
表1
見たこと・したこと思ったこと平成8年7月14日(日曜日)
119番覚知時間17時08分 17時09分出動
資器材の準備遠い
最悪の事態を想定17時22分現場到着
観察
首吊り状態でCPA
心静止
指示要請
特定行為 コンビチューブ挿入入っていかない
のどが持ち上がる
太すぎるのかSAに変更やっぱり入らない
のどは何ともないようだ
食道が潰れている
LMしか残されていないが、LMは頸損には×LM入れる頭を動かさないように
簡単に入った
LMは食道に入らないからOK
食道部分の腫脹がエアリーク減少になったかオートベントにする
ECGで波形確認
CPR中止
病院収容 ここまでできたら、「見たこと・したこと」を時間順に詳しく書きます。特に観察は細かく書いて下さい。「思ったこと」は考察に当たりますが、初めから分ける必要はありません。平行して一つの流れで書いてみて下さい。全部書き終わったら眺めてみて、「思ったこと」を考察に分離させます。
こうして、文章を肉付けし、見出しをつけ、論文の体裁を整えます。書き出しは[はじめに]として事例の概要を簡単に記します。次に「見たこと・したこと」を[事例]にまとめます。ここで、事故概要から観察結果、救急活動内容まで書きます。その後、[考察]として「思ったことを書きます。さらに、一番最後に[結論]または[結語]として簡単にまとめを付けると良いでしょう。
7月29日には初稿を持って来た三好と二人で手直しをしました。全文を掲載して要点を書きます。
三好による初稿
「頸椎損傷の疑いのある患者の気道確保器具挿入について」←題。漠然としている。副題を付けた方がよい。[はじめに]←[はじめに]事例報告では、1)どんな傷病者に対して、2)どんなことを行い、3)何を強調したいのか、を簡潔に書く。
救急救命士が許されている気道確保器具の中で、頸椎損傷患者に適応可能なチューブは、頭部後屈を必要としない器具である。今回、頸椎損傷の疑いのあるCPA患者に対して、第一選択としてコンビチューブを使用したところ、挿入不可能な事例を経験したので報告する。
←わかりにくい表現。はっきりコンビチューブといったほうがいいのでは。
←CPAなどの略語は、初出時に正式名称を書くべき。「Cardiopulmonary arrest(以下CPA)」と書く。『プレホスピタル・ケア』ではCPAとCPRは正式名称なしでも許される。[事例]
33歳、男性。第2、第3頸椎骨折、外傷性くも膜下出血、低酸素脳症←[事例]時間の経過に沿って事実のみを書いていく。自分の考えを入れてはいけない。平成8年7月14日(日曜日)119番覚知時間17時08分。
事故内容は、自家用車が走行車線から左側溝に逸脱、その際右側にある電柱を支える支線柱に衝突倒壊、この事故によりワイヤー2本が道路を横断する形になり、数分後同車線を走行中のバイク運転者の前頸部にワイヤーが引っ掛かり転倒した。←1段落が1文章というのは長い。途中で文を切り、1文の長さを短くする。17時09分出動、事故現場は署から10km離れており、交通量の少ない道路であるため、最悪の事態を想定し資器材の準備を行った。
17時22分現場到着、患者はヘルメットを装着した状態で、頭部を走行した方に向け、道路中央に左側臥位で倒れていた。顔面蒼白、JCS300、呼吸、脈感じられず、外傷は頸部に左から右斜め下にかけ皮下出血が認められた。バイスタンダーCPRはされていなかった。←意味不明。質問したところ、「地元では知る人ぞ知るバイパス道路で交通量が少なくて。」「だからどうしたの?」「え、いや、いいです。」という返事。何のことかさっぱりわからない。用手により頸部から後頭部を固定しヘルメットを脱がせ収容する。ただちにCPA状態のため、喉頭展開により血液等を吸引除去、再出血のないのを確認、17時24分CPRを開始する一方医師に指示要請をする。この時点では、心電図モニター上、心静止を確認する。←頸髄損傷を疑っていることがわかる。
←ここから急に現在形になった。時制は一致が原則。医師に受傷機転と換気不充分等の情況連絡により、気道確保と静脈確保の指示を受ける。気道確保器具については、頸椎損傷を考慮してコンビチューブ標準サイズを、喉頭鏡を用いて挿入したところ、咽頭カフが門歯を通過、口腔内に入るところでかなりの抵抗を感じたため患者の前頸部を直視したところ、チューブ先端挿入箇所の皮膚の隆起が確認されたため標準サイズを抜去、喉頭部の狭窄を考え細く柔らかいSAサイズに変更を指示し、再度喉頭展開を行うも喉頭部の挫滅は(-)であった。SAサイズを挿入したところ結果は標準サイズ標準サイズ同様不可能であった。←「CPA連絡ではないのか」「こういうふうに言います」こういう言い方が標準的だとは玉川は知らなかった。ふだん自分たちが使っている表現を使う。
←ここの文章も長い。
←誰に指示したのか。
←(−)とは書かない。「認めない」と書く。
17時28分頸椎損傷では使用されないラリンゲアルマスクを選択、サイズ4を頭部後屈を行わず挿入を試みた結果スムーズに挿入でき、エアーリークもなく換気十分であったため、オートベント3000を16回600mlに設定し人工呼吸器を用手から自動に切り替え、静脈確保に移り固定が終了した17時35分心電図モニターに変化あり心マッサージ中断、橈骨、頸動脈にて触知可能、血圧触診で90mmHgあるため心マッサージは中止、呼吸は回復せず換気確認ではエアーリークなく、17時59分呼吸回復なく病院に収容する。←この時間は何の時間かわからない。マスクを選択した時間か、オートベントにした時間か、静脈をとった時間か。
←この文章も長いが、筆に勢いがつくとどうしても長くなってしまう。夏目漱石も文章が長かったため努めて短くしたらしい。ワープロがあれば、手直し段階で短くするんだと割り切ってどんどん書いた方がいい。
←病院の経過を書くこと。写真の所見も入れること。[考察]
器械的頸部圧迫により前頸部の腫脹は著しかったが、喉頭部の腫脹はさほどでなかったことから、コンビチューブの先端に抵抗が感じられたということは、食道部分組織の腫脹があり先端部挿入の妨げになったと思量される。反対にラリンゲアルマスクは、食道部に挿入しないため多少の組織の挫滅があっても挿入可能であり、
食道部分の腫脹がエアリーク(胃部分)の減少につながり充分な換気が確保されたと考えられる。
今回の事例で、状況を考慮し適切なチューブの選択が必要であることが分かった。
←[考察]時間の流れを追って書くと書きやすい。まず「思ったこと」を表で並べた順番に書いてみる。次に、どうしてそう思ったのか理由を書く。この報告で一番伝えたいことはしつこいくらいに書いてみよう。コンビチューブが入らない→その理由→LMは入った→その理由。この文章では、考察は要点のみしか書かれていない。これからさらに肉付けをする。文献も読んでみる。
←初めて読んだとき、どういう意味かわからなかった。
ある程度形になった時点で関連医師(後の謝辞に載せる医師)に原稿を郵送して、チェックをたのむこと。表現を変えて欲しいときとかどこか差し障りのある場合には必ずコンタクトがあります。
手直し後の原稿
—表紙—
『プレホスピタル・ケア』「事例」投稿←第1ページ目である表紙には、投稿論文の題名、著者名、連絡先までを書く。
←投稿する雑誌名、コーナー名も書く。「頸髄損傷の疑いのある患者の気道確保器具挿入
〜コンビチューブ挿入不可能のためラリンゲアルマスクに変更した事例について〜」←副題を付けた。長くはなったがこちらのほうがわかりやすい。なお、掲載された最終稿では、編集委員の指導によって「気道確保器具の選定に一考を要した頸部損傷例」となっている。 三好正志*、小柳 悟*、三上勝弘*、柴崎武則*、中黒康二*、大川寿幸*
*留萌消防組合消防本部
←著者名は、書いた人、一緒に搭乗していた2人、係長、副署長(救急担当のトップ)、消防署長の順。一緒に搭乗していた人の名前は必ず載せる。係長以上の名前を載せるかどうかは書く人の判断による。著者連絡先
三好正志*:みよし まさし
留萌(るもい)消防組合消防本部;救急救命士
〒077-0021 北海道留萌市高砂町3丁目6番11号
Tel 0164-42-2211
Fax 0164-43-5153←連絡先として、氏名、所属、住所、電話・ファクシミリ番号を書く。連結先は詳しく書く。筆頭著者と連絡先の人が違うときはそのことを書いておく。—改ページ—←表紙とはページを変えて[はじめに]以下の本文を書く。[はじめに]
頸髄損傷患者に適応可能な気道確保器具は、頭部後屈を必要としないことが必須である。今回、頸髄損傷の疑いのあるCPA患者に対して、第一選択としてコンビチューブを使用したところ、挿入不可能な事例を経験したので報告する。
←ちよっと表現を変えた。
←掲載された論文では、「ラリンゲアルマスクによる気道確保が可能であった事例」とさらに明確になっている。[事例]
33歳、男性。
119番覚知時間:平成8年7月14日(日曜日)17時08分。
事故内容:自家用車が走行車線から左側溝に逸脱、その際右側にある電柱を支える支線柱に衝突し倒壊させた。これよりワイヤー2本が道路を横断する形になり、数分後同車線を走行中のバイク運転者の前頸部にワイヤーが引っ掛かり転倒した。←年齢と性別のみにする。必要なら身長体重。氏名はプライバシー保護の観点から記載しないこと。
←このように項目をきちっと分ける。事例、覚知時間、事故内容、救命活動、病院内治療経過。項目名(事故内容など)は付けなくてもよい。
←事故内容も簡潔に。救命活動に関係するところのみとする。 救命活動:17時09分出動、事故現場は署から10km離れており、最悪の事態を想定し資器材の準備を行った。17時22分現場到着。患者はヘルメットを装着した状態で、頭部を走行した方に向け、道路中央に左側臥位で倒れていた。外傷は頸部に左から右斜め下にかけ皮下出血が認められた。顔面蒼白、JCS300、呼吸、脈拍感じられず、CPAと判断した。バイスタンダーCPRはされていなかった。←ここは掲載時点で削除されている。出動から現場到着の時間を見れば距離が判断できるというのが削除の理由であろう。
←観察の記載は、遠くから見る、近寄って見る、触ってみる、器材を使ってみる、の順。顔色は遠くからでもわかるが心臓の動きは触れないとわからないのでこういう順の記載となる。 用手により頸部から後頭部を固定しヘルメットを脱がせ収容した。喉頭展開により血液等を吸引除去、再出血のないことを確認、17時24分CPRを開始する一方医師に指示要請をした。この時点で心電図モニターにより心静止を確認した。 受傷機転と換気不充分等の状況連絡により、医師より気道確保と静脈確保の指示を受けた。頸髄損傷を考慮してコンビチューブ標準サイズを喉頭鏡を用いて挿入したところ、咽頭カフが門歯を通過し口腔内に入るところでかなりの抵抗を感じた。患者の前頸部を直視したところ、チューブ先端挿入箇所の皮膚の隆起が確認されたため、喉頭部の狭窄を考え標準サイズを抜去、隊員に細く柔らかいSAサイズに変更を指示した。再度喉頭展開を行い喉頭部の観察を行ったが同部の挫滅は認めなかった。SAサイズを挿入したところ、結果は標準サイズ同様不可能であった。
頸髄損傷では使用されないラリンゲアルマスクを選択、サイズ4を頭部後屈を行わず挿入を試みた結果スムーズに挿入でき、17時28分に換気を確認した。エアーリークもなく換気十分であったため、オートベント3000を16回600mlに設定し人工呼吸器を用手から自動に切り替えたのち、静脈を確保した。17時35分心電図モニターにて自脈を認めたため心マッサージを中断、橈骨動脈での触診で90mmHgあるため心マッサージは中止した。17時59分呼吸回復なく病院に収容した。←ここからが本稿の中心なので時間に沿って詳しく書く。
←長い文章は容易に短くできる。
←行為を説明する最低限度の考察は入っても許されると思う。
病院内治療経過:JCS300、自発呼吸停止、血圧は触診で40mmHgであった。両側瞳孔散大、対光反射消失、脳幹反射も消失していた。頸部の浮腫は著明であったが咽喉頭の浮腫変形は明らかでなく、気管内挿管は容易であった。レントゲン写真とCTにて上気道と食道周囲の著しい浮腫と出血陰影を認めた(図1、2)。第2、第3頸椎骨折、外傷性くも膜下出血、低酸素脳症の診断で加療したが、治療に反応せず7月15日1時08分死亡した。←このときの観察の書き順も同じ。検査についても、簡単なものから複雑なものへ、非侵襲的なものから侵襲的なものの順に書く。
←写真は図と表記する。本文中の対応するところに番号を入れ、別紙に写真の説明文を書いて添付する。
[考察]
救急救命士に使用が許されている気道確保器具の中で、確実な換気をもたらすものにコンビチューブとラリンゲアルマスクがある。コンビチューブは挿入に際して頭部後屈を必要としないことから頸椎損傷患者に有効である1,2)。本事例においても頸髄損傷が強く疑われたためコンビチューブを選択したが、標準サイズ、SAサイズともに挿入不可能であり、ラリンゲアルマスクにて気道確保を行った。←考察の冒頭に、事例の簡単なまとめと今までの常識を書くことが多い。論点を明らかにするためだが、必要がないと思ったら削除しても良い。
←文献番号は対応する文章の最後に上付きで書く。普通は句点(。)の前に書く。「三好らは…」と氏名を出して引用する時は、「三好ら1)」とする。
前頸部の腫脹に比べ喉頭部の腫脹はさほどでなかった。ところが、コンビチューブ挿入時には先端に強い抵抗を感じた。これは食道周囲組織の腫脹が先端部挿入の妨げになったためと思量された。病院収容後のレントゲン検査にて頸部の著しい浮腫により食道と気管が圧迫されている像が得られたことは、われわれの思量を裏付けるものである。
ラリンゲアルマスクは容易に挿入可能であった。ラリンゲアルマスクは食道内腔に挿入しないため食道周囲に多少の組織の挫滅があっても挿入可能であろう。←このあたりは三好とのデイスカッションで膨らませたところ。
←思量しても裏付けがないと弱くなる。写真で確認できたので堂々と発表できる。
←写真があるのとないのとでは説得力が全く違う。写真を手に入れる努力を惜しんではいけない。加えて、食道周囲の腫脹が食道の完全閉塞をもたらし、胃へのエアリークを減少させ、充分な換気が確保されたと考えられた。ラリンゲアルマスクの挿入は後屈位が標準である2,3)が、もともとは中立位で挿入できるように開発されている4)。頸髄損傷の疑われる事例に対しては頸部から後頭部を固定し慎重に挿入することによって使用可能であると思われた。←初稿では何を言っているのかわからなかったが、順序立てて書けば理解しやすくなる。
←自分の行為の正当性を裏付ける論文は積極的に引用する。いろいろなつてをたどって、論文を集めよう。ここではイギリスの論文を引用した。[結論]
頸髄損傷が疑われたがコンビチューブの挿入が不可能であった事例を報告した。頸髄損傷といっても損傷の部位や程度は一律ではない。状況を考慮した適切なチューブ選択が必要である。←『プレホスピタル・ケア』では[結論](または[結語][まとめ])を付ける。
←かっこいい(と玉川が信じる)言葉を入れてみた。そのあとは三好の文章。—改ページ—
[謝辞]
本稿をまとめるのにあたりご指導いただきました、留萌市立総合病院院長 西條登 先生、同外科 北田正博先生、同脳神経外科 鈴木進先生、前田義裕先生に深謝いたします。
←[謝辞]『プレホスピタル・ケア』では特に謝辞を書かない場合が多い。書く場合は、ページを変えて最後に書く。指導してくれた医師の名前、診療科を書くこと。肩書きまでは書く必要はなし、。関与の高い順、偉い順を勘案して並ベるが、あまり神経質になる必要はない。—改ページ—
[引用文献]
1) 植草雄次:正しい資器材の使い方 ツーウエイチューブ。プレホスピタルケア 1994; 7 (3): 228-232
2) 救急振興財団:平成7年度応急処置用救急資器材研究委員会報告書。1996、pp28-30
3) Brodrick PM, Webster NR, Nunn JF: The laryngeal mask airway. A study of 100 patients during spontaneous breathing. Anaesthesia 1989; 44 : 238-241
4) Brain AIJ, McGhee TD, McAteer EJ, et al : The laryngeal mask airway. Development and preliminary trials of a new type of airway. Anaesthesia 1985; 40: 356-361
←[引用文献]でページを変える。
←引用文献の書き方はその雑誌ごとに違うので注意。本の終わりに載っている「投稿規定」の中に書き方が指示されている。同じ雑誌の他の論文の書き方に習ってもいいだろう。
『プレホスピタル・ケア』の場合、
[雑誌]
番号)著者名(3人目まで),他:題名.雑誌名発行年;巻(号):初頁ー終頁.
*コロン(:)とセミコロン(;)を間違えないように。また、ピリオド(.)だったリコンマ(,)だったりして面倒くさい。
[単行本]
番号)その章の執筆者名:章の題名.編者.本の名前(巻).(版).出版社名,発行地,
発行年,pp初頁−終頁.
*単行本ではppをつける。ppは複数ページのことで、1ページしか引用しないときはpとなる。
[単行本の例]
1)天羽敬祐、山村秀夫:吸入麻酔法.山村秀夫編.臨床麻酔学書.金原出版,東京,1978,pp507−560.
*全部の医学雑誌がパンクーパースタイル(世界的な統一記載法)になったらどんなに楽だろうと思う。
←英語の文献も書き方は同じ。著者名は、「前3人の名前、et al」とする。
*「et al」とはラテン語の「et alli」の略。「et」はandで&の元の字。(&はetを筆記体で書いたもの)、「alli」は others。—改ページ—
[図1]
気管内挿管後の頸部側面単純レントゲン写真。前頸部の膨隆、上咽頭から喉頭へかけての内腔の消失(空気層の消失)が見られる。
[図2]
頸椎のCT写真。骨に合わせて画像を処理しているため見づらいが、頸椎前面に広範な出血(矢印)と浮腫が確認できる。気管は外部からの圧迫によって気管内チューブ周囲のフリースペースが消失している。食道は扁平化している。
←図表の説明はページを変えて書く
←写真・イラストは図となる。グラフも図で、表だけが表。
写真は白黒のキャビネ版と指定して焼いてもらうこと。それ以下の大きさだと出版社によっては断られることがある。(「プレホスピタル・ケア」ではサービス版もOK)。
写真の裏に、天地、図の番号を書く。ボールペンは表に映ったりへこんだりするので鉛筆の方がよい。また、決して台紙に貼ってはいけない。グラフなどコンピュータで作ったものでも同様。
出版社は写真やグラフをそのまま写真にとって製版するため、余計なものがあると困る。写真中への書き込みもしないこと。
三好の事例報告では、考察は一日で大幅に加筆しました。このため三好の色が薄まってしまいました。あくまで三好の論文なのですから、本人に原稿を返して自分の言い回し、自分の表現に直してもらうようにします。自分では気のつかないことも他人にはよく見えるもの。三好はさらに良い表現を考えることもできます。
このあと、三好が1回書き直して投稿し、さらに『プレホスピタル・ケア』編集委員が変更を指示してきたので、実際に掲載された文章とは異なっています。
投稿から掲載まで
1)投稿原稿とフロッピーディスクをそろえる
完成したら印刷です。右ヘッダ(用紙の右上隅)にページ番号を入れます。B5の無地ワープロ用紙に20字x20行で印刷します。次にフロッピーディスクを用意して、そこに原稿のファイルをコピーします。ディスクには自分の名前、題名、使っているコンピュータ(富士通FMVなど)、ワープロソフト(MSワードなど)を書きます。ワープロ専用機ではできればDOSテキストファイルに直し、だめならそのままでコピーします。
2)図表もそろえる
写真の裏に鉛筆で名前、論文の題名、図の番号、天地を書きます。写真に矢印を入れる場合には三角に紙を切って直接貼り付けます。写真に患者の名前が残っていたら黒マジックで消します。患者の顔が写っている場合には、目の部分を黒マジックで消します。図表も同じく裏に名前などを書きます。図表の説明は別の用紙に書きます。
3)郵送
全部そろったらいよいよ郵送です。送付先は「投稿規定」に書かれています。表紙に自分の氏名と連絡先、投稿したいコーナー名が書いてあるかもう一度確認しましょう。
4)編集会議
1週間くらいすると原稿を受け取ったと電話が来ます。原稿は編集委員による編集会議にかけられ、採否が討議されます。『プレホスピタル・ケア』の編集会議は年に4回開かれ、その時に3カ月後に発行する雑誌の内容が決まります。採用の合否は編集会議のあとに連絡があります。最近は投稿論文がとても多いので、投稿から掲載までの時間は半年以上かかる場合もあるようです。
5)修正作業
採用が決定したら、編集室とのやりとりによる原稿の修正作業に入ります。編集委員が赤ペンで修正個所と意見を書いて本人のもとに原稿を送り返してくるのですが、これがかなりのストレスになります。でも、意見には素直に従って書き直したほうがよいでしょう。どうしても納得いかないときには手紙を書いて、もう一度考えてもらうことも可能です。修正した原稿を編集室に返送し、再度編集委員が目を通します。修正は1回だけとは限りません。『プレホスピタル・ケア』に自分の名前が載ることを夢見て、がまんがまん。OKがでれば、修正作業は終了です。
6)校正
しばらくすると、編集室からゲラ刷が送られてきます。これは、原稿を実際に雑誌に載せるときの形に組み直したもので、ここで校正をします。字の間違いをチェックしたり、もう一度読み直しておかしな表現がないか、追加・削除すべきことはないか確認します。何かあれば、赤ペンを入れて返送します。これで全て終了、あとは発行を待つのみです。
7)発行後
長い苦難を越えて、ようやく手元に自分の名前が載った『プレホスピタル・ケア』がやってきます。共著者の人数分も一緒に送られてくるので、お礼かたがた本を手渡します。謝辞に名前を載せた医師の中で、特にお世話になった先生には論文のコピーと一緒にテレホンカード50度などを贈ると次回の協力も間違いなしとなるでしょう。
引用文献
1) 三好正志、小柳悟、三上勝弘、他:気道確保器具の選定に一考を要した頸部損傷例。プレホスピタル・ケア 1997; 10 (1): 19-21
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