吉田寿美:バックボード・バキュームマット・KEDのがレントゲン写真に与える影響と撮影中の装着感について

 
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吉田寿美、炭谷貴博、今井睦、大井雅博、斉藤隆司、玉川進:バックボード・バキュームマット・KEDのがレントゲン写真に与える影響と撮影中の装着感について。プレホスピタル・ケア 2006;19(4):35-38


バックボード・バキュームマット・KEDのがレントゲン写真に与える影響と撮影中の装着感について

吉田寿美1、炭谷貴博2、今井睦3、大井雅博3、斉藤隆司4、玉川進5

1南宗谷消防組合枝幸消防署歌登分署、2南宗谷消防組合中頓別支署、3紋別地区消防組合消防署興部支署、4枝幸町国民保険歌登病院放射線科、5旭川医科大学病理学講座腫瘍病理分野

著者連絡先:吉田寿美
098-5206北海道枝幸郡枝幸町歌登西町
南宗谷消防組合枝幸消防署歌登分署
tel 0163-68-2820
fax 0163-68-3947

はじめに

外傷初療の標準化プログラムであるPrehospital trauma care Japanとそれに続くJapan prehospital trauma evaluation and care(JPTEC)の普及によって、バックボードは傷病者搬送の標準資器材として一般的に用いられるようになった。

このバックボードは傷病者の搬送に有用とされるが、病院内で継続して使用する場合に懸念されるのはレントゲン写真への影響である。竹田1)は単純レントゲン写真の場合には傷病者とバックボードの間にカセッテを挿入することで傷病者固定用の鉄心を避けられるので問題はなく、またコンピュータ断層(CT)撮影も画像の調整が可能なので問題ないとしている。しかし同じ本であっても金子2)は病院前と病院内でバックボードに求められる機能は違うとして、病院ではレントゲン透過性が最重要としている。

今回われわれは病院内でのバックボードの使用を想定し、バックボードに固定したままで胸部単純レントゲン写真と胸部単純CTを行ってバックボード装着によるレントゲン画像の劣化を観察した。またバックボードと同じく脊柱固定資器材として用いられているバキュームマットとKendrick extrication device (KED)においても同様の撮影を行い3種類の脊椎固定用具間の比較を行った。さらに被検者として撮影中に固定された装着感を記載した。

本稿の目的はレントゲン写真への影響と撮影時間中の装着感とを調査し傷病者が受ける欠点を明らかにすることによって、これら脊柱固定資器材の適切な使用法を検討することにある。

対象と方法

使用した資器材はバックボードがFERNO社 NAJO Lite Board、バキュームマットがHertwall medical社EVAC-U-SPRINT, KEDがFERNO社K.E.D.である。被検者は筆者うちの2名とした。全ての条件でネックカラーを装着して撮影した。

胸部単純写真は仰臥位で放射線を前面から当て背面のフィルムを感光させた。CT写真では前腕を体感に密着させるように固定した。照射線量は筆者の一人が最適な条件を設定し感光させた。

装着感については撮影中の感触に限って検討した。着脱時や搬送時の感触は検討しなかった。

結果

撮影した写真を図1から図4に、結果の一覧を表1に示す。

図1頸部正面単純写真。

a:バックボード、b:バキュームマット、c:KED。

a:バックボードは上中部頸椎に頭部パッドの線が写り込んでいる

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図2胸部正面単純写真(アルファベット-1)と読影に障害となるものの拡大(アルファベット-2)。

a:バックボード、b:バキュームマット、c:KED。

バックボードは肺野と肋骨で取っ手とベルトのピンが写り込むため、特に肋骨骨折判読の邪魔になる可能性があった。

バキュームマットは脊椎、肺野、肋骨ともに良好に描出された。

KEDは頸椎・肺野ともに縦横に線が写り込むこと、Th7からL1までの胸椎がバックルによって遮られること、肺野にちりめん状の微細な陰影が写るため肺野の読影は困難である。

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図3頸部単純CT。

a:バックボード、b:バキュームマット、c:KED。

全ての固定具で影響は見られない

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図4胸部単純CT。

a-1:バックボード、a-2:a-1の写真でのアーチファクトの拡大。b:バキュームマット、c:KED。

a-2:バックボードでは固定ピンがアーチファクトの原因となる。

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表1 脊柱固定資器材まとめ

バックボード バキュームマット KED
頸部正面単純写:障害物 ・頭部padの線が写り込んでいる
・C-5,C-6,C-7が確認出来る
・特に支障はない
・C-5,C-6,C-7が確認出来る
・頭部pad(枕)が写る
・装着の状態によっては前屈し頸椎が下顎と重なって見えない。・C-6,C-7は見える

・縦方向の縞模様(蛇腹)が写り込む

頸部正面単純写:画質
胸部正面単純写:障害物 ・取っ手、ベルトのピンが写る
・ベルトのバックルが写る
・ベルトおよびバックルが写る
・背板の構成材が写っている・取っ手の芯が写っている

・Th-4と平行して横方向に線が写っている

・バックルが真ん中に写る
・Th-7,Th-8,Th9,Th-11,Th12,L-1が見づらい
胸部正面単純写:画質
×
頸部単純CT
胸部単純CT ・固定用ピンが写りアーチファクトが出ている。 ・ベルト、バックルが写っているが画像に影響は出ていない。 ・ベルト、バックルが写っているが画像に影響は出ていない。
装着感 ・仙骨部と肩甲骨部の疼痛
・縛り付けられている感覚
・暖かい
・安心感あり
・痛いがバックボードほどではない
・暖かい

単純レントゲン写真では、最も優秀なのはバキュームマットであり、脊椎・肺野・肋骨とも読影に支障はなかった。バックボードは上中部頸椎に頭部パッドの線が写り込んでいるものの頸椎は確認できたが、肺野と肋骨で取っ手とベルトのピンが写り込むため、特に肋骨骨折判読の邪魔になる可能性があった。バキュームマットは脊椎、肺野、肋骨ともに良好に描出された。KEDは頸椎・肺野ともに縦横に線が写り込むこと、Th7からL1までの胸椎がバックルによって遮られること、肺野にちりめん状の微細な陰影が写るため肺野の読影は困難であることから写真撮影には適さないと考えられた。

CTについては、頸椎の撮影では3つの固定具とも画像に差は見られなかった。胸部についてはKED, バキュームマットとも影響が認められなかったのに対し、バックボードでは固定ピンがアーチファクトとなり背側肺野の判読の妨げとなった。

それぞれの装着感については、バックボードは5分ほどの固定で仙骨部が痛くなり、10分ほどで肩甲骨部と頸部に張りを覚えた。この時に仙骨部と肩甲骨部に小さなクッションを入れ、また低い枕を頭下に入れることによって疼痛は軽減された。バキュームマットは柔らかくて暖かく、また包み込まれ守られている感覚が快適であった。KEDの場合はKEDをつけられた後バックボードに乗せられるので仙骨部は痛くなるものの、肩甲骨部はKEDに上体が包まれるため張りを覚えることはなく、またバックボードより暖かく感じた。

考察

今回の結果では、レントゲン撮影に一番有利な脊柱固定資器材はバキュームマットであり、バックボードとKEDは単純写真・胸部CT写真ともに読影の妨げとなる可能性があることが明らかとなった。ネックカラーについては画像に影響は与えなかった。またバックボードは早期に仙骨部と肩甲部に疼痛を覚えることが明らかとなった。

バックボードはこの5年ほどで急速に配備が進んだものの、病院内でのレントゲン撮影に関する報告はほとんどない。小林ら3)はバックボード8種類で単純レントゲン撮影とCT撮影を行い、それらの画像を比較している。その結果、8種類のうち3種類で頭頚部正面像で読影に妨げがあったことを指摘し、バックボード導入時にレントゲン撮影に対する影響を考慮すべきであるとしている。また大窪ら4)はネックカラー5種を比較し、単純レントゲン写真では全てのネックカラーで読影の妨げとなったとしている。逆に山ら5)はバックボードで固定して全身CT撮影を行った9例を検討し、臨床的に必要と考えられる程度の画質は得られたものの、1例で頭部の硬膜外血腫の否定に困難があったとしている。

今回我々の用いたバックボードは高いレントゲン透過性を謳っており、実際に救急外来で問題になる重大損傷、つまり椎体や椎弓の骨折や気胸などは判読に問題はないと思われる。しかし接線方向の肋骨骨折や微細な肺挫傷では取っ手やベルトが読影の妨げとなる可能性がある。それらの部位の撮影を行う場合には、傷病者をずらしたり撮影方法を変えるなどの工夫が求められる。

バックボードの欠点として頸部痛・腰痛6)があり、これが医師の判断に影響を及ぼす可能性が指摘されている6)。また仙骨部の圧迫痛が長時間に及ぶと褥創発生の危険がある7)。その点バキュームマットは素材が柔らかくて暖かく、我々被検者が長時間臥床していても特に苦痛は感じなかった。文献8)においてもバックボードに比べバキュームマットのほうが固定力が強く傷病者に与える苦痛が少ないことが明らかとなっている。KEDの場合は装着後にバックボードに寝かされるためバックボードと同じ装着感だと思っていたが、実際にはベルトでいかにも縛られ物体として運ばれている感じがするバックボードに対し、KEDは上体が包まれるため暖かさと安心感があった。バックボードによる仙骨部痛や背部痛が小さなクッションや枕で軽減したことから、バックボードに長時間固定することが予想される場合にはあらかじめレントゲン透過性に問題のないクッションをボードに当たる部分に敷く配慮が必要だろう。

JPTECでは防ぎ得た外傷死亡を減らすためにバックボードによる傷病者固定を推進している。しかしその影響か、わずかな外力による外傷であっても傷病者をバックボードに固定し搬送する傾向があるように我々は感じている。確かに脊柱固定資器材には脊椎の可動性を制限し脊髄を保護する効果があり、脊髄損傷が疑われる傷病者に対しては利点が大きい。しかしながら特にバックボードでは短時間のレントゲン撮影でもかなり苦痛であり,これが長時間となれば人によっては無視できないと思われる。また病院内での連続使用についても、レントゲン撮影に限った検討であったが欠点が認められた。これらの欠点を考えるとき、バックボードの適応はしっかりした観察によって決定すべきであり、また傷病者の利益を考えてバックボード以外の脊柱固定資器材も考慮すべきである。またバックボードで固定した場合であっても、傷病者の苦痛に対してはクッションなどで疼痛を緩和するべきだと考える。

文献

1)竹田豊:バックボードの種類と特徴。石原晋。プレホスピタル外傷学。改訂第二版。永井書店、東京、2004、pp90-93
2)金子高太郎:病院でのバックボード 〜病院搬入後もバックボードは有用〜。石原晋。プレホスピタル外傷学。改訂第二版。永井書店、東京、2004、pp152-154
3)小林泰、末吉敦、藤田俊史、他:脊椎固定用器具のX線透過性(バックボード)。日臨床救急医会雑 2001;4(2):189
4)大窪博、末吉敦、小林泰、他:脊椎固定用器具のX線透過性(ネックカラー、ヘッドイモビライザー、ストラップ)。日臨床救急医会雑 2001;4(2):189
5)山直也、庄内孝春、兵藤秀樹、他:バックボード固定下CTの有用性についての検討。日本医学放射線学会雑誌 2002;62(11):S419
6)Hauswald M, Hsu M, Stockoff C:Maximizing comfort and minimizing ischemia: a comparison of four methods of spinal immobilization.Prehosp Emerg Care. 2000;4(3):250-2.
7)Chan D, Goldberg RM, Mason J,et al: Backboard versus mattress splint immobilization: a comparison of symptoms generated.J Emerg Med. 1996;14(3):293-8.
8)Luscombe MD, Williams JL:Comparison of a long spinal board and vacuum mattress for spinal immobilisation.Emerg Med J. 2003 ;20(5):476-478.


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06.8.3/9:43 PM





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