近代消防 今さら聞けない資機材の使い方 2018/9
パルスオキシメーターの正確な値を知ろう
目次
はじめに
今回「今さら聞けない資器材の使い方」を担当させていただきます北海道留萌消防組合留萌消防署の阿部と申します。今回はパルスオキシメーターについてです。「SpO2」はバイタルサインの中でとても重要な数値です。傷病者の呼吸状態や酸素投与の目安など、救急活動の中ではなくてはならない存在ですので、もう一度基礎から確認していきたいと思います。
また、パスルオキシメーターには「やってはいけないこと」がいくつか知られています。これらをやると本当に値が変わるのか、検証してみました。
1.「SpO2」とは
SpO2は、「oxygen(酸素)のsaturation(飽和度)をpercutaneous(経皮的)に測定するという意味で、日本語では「経皮的動脈血酸素飽和度」といいます。
肺に取り込まれた酸素は、鉄を含んだヘモグロビンと結合する事で全身に運ばれますが、酸素飽和度とは、動脈の赤血球中のヘモグロビンが酸素結合している割合をパーセンテージで示したものです。パルスオキシメーターはこのヘモグロビンと酸素の結合率(酸素飽和度)を非侵襲的に測定する装置です。観血的に測定した動脈血酸素飽和度をSaO2(a=artery(動脈)のこと)と呼び、これと対比させるためにSpO2と呼ばれるようになりました。
末梢の小動脈の血流を感知し、同時に脈拍数も表示されるため、酸素投与や人工呼吸を行った際の効果の確認だけでなく、循環の評価にも有用です。
2.「S02」とは
S02(oxygen saturation, 酸素飽和度)とは、血液中の総ヘモグロビンのうち、酸素と結合したヘモグロビンが占めている割合の事です。動脈ならSa02, 静脈ならSv02(v=vein, 静脈), 経比的ならSpO2です。全身に運搬される酸素の大部分はヘモグロビンと結合しているため、SaO2(動脈血酸素飽和度)を見ることで、酸素の供給量を知ることが出来ます。
SaO2を知るには動脈血を採取し特殊な機械を使って計る必要があります。そのため誰でも簡単に酸素飽和度を計ることができるパスルオキシメーターとSpO2が頻用されています。
3.SpO2の基準値
安静時での健常者のSpO2値は96%~100%です。90%を切ると呼吸不全です。SpO2値は、呼吸の仕方姿勢、動作のその時の状況などで変化しますので、その時その時の確認が大事になってきます。呼吸状態が悪い方は、頭部を起こした「起坐位」での搬送が一般的です。
4.留萌消防署が所有する機器
留萌消防署では、この2種類で測定しています。
図1は本体とプローブが分離しているタイプです。図2は指先に付けるタイプで、ディスプレイは小さいもののSpO2, 心拍数、脈派が描出されます。どちらも小児用プローブを付けることができます(図3)。
001
本体とプローブが分かれているタイプ。
002
指に付けるタイプ
003
小児用プローブを付けたところ
4.測定方法
傷病者の指尖を挟むようにプローブを装着します。電源スイッチを押せば
ただちに測定が始まります。小児・乳児の場合は、指が小さいめ小児・乳児用プローブを用いて測定します。
5.判断
SpO2値から傷病者の呼吸状態(肺による酸素化の状態)を客観的な数値として知ることができ、酸素投与の必要性や吸入酸素濃度を判断する事ができます。体位変換や移動する際にSpO2が急激に低下した場合は
• 見て(気道の開通、胸郭の動きや左右さ、皮膚の色調、酸素吸入の状態 血圧低下の有無) • 聞いて(呼吸音の左右差、肺雑音の有無) • 感じて(人工呼吸時はバック・マスクの硬さや抵抗など)
を繰り返し確認する必要があります。
6.よく言われている注意点
どれだけ値に差があるのかやってみました。
被検者の大気中の値は97-98%です(図4)
004
被検者の平常時の値。
(1)一酸化炭素中毒やメトヘモグロビン血症で異常ヘモグロビンが増加している場合
喫煙後は血中一酸化炭素が増加します。タバコを1本吸い(図5)その直後に測定したところ95%となりました(図6)。純粋な一酸化炭素吸引では見かけのSp02は変化しないはずですが、タバコの場合は雑多な不純物を吸引します。これら不純物により末梢気道の閉塞が起きたために値が下がったものです。
005
タバコは健康によくないのでやめましょう
006
タバコ1本だけでSpO2は2-3%低下する。
(2)低還流の場合
末梢の循環不全を想定し、指が冷たさに耐えれなくなるまで冷やし(図7)、引き上げた直後に測定しましたが、値は97%と平常時と変わりませんでした(図8)。
指に輪ゴムを巻き、5分経って指が紫色になったところで輪ゴムを巻いたまま測定すると、脈は検出されずエラーとなりました(図9)。
プローブをつける側の指にマンシェットを巻き加圧減圧を繰り返すと、マンシェットに空気が入っている間でも大半の時間は測定はできますが値は95%と平常時より低く出ました(図10)。
この3つの実験を比較すると、氷水後は手指が真っ赤になっていて循環が保たれているのに対し、輪ゴムとマンシェットは血管を直接閉塞させることで循環不全となっています。寒冷=循環不全ではないことが分かります。
007
氷水に耐えられるだけ長く手を浸ける
008
氷水からの引き上げ直後。値は平常時と変わらない
009
輪ゴム5分で指が紫色になった場合は測定不能となる
010
マンシェットをまきカフに送気中。値が出ても平常時より低い
(3)色素が付着した場合
役者が使うドーラン(グリースペイント)を指に塗って(図11)測定したところ、測定不可となりました(図12)。
一方、マニキュアや付け爪については山田克己(富良野広域連合富良野消防署占冠支署)が「今さら聞けない資機材の使い方」第50回(2017年6月号)で報告しています。それによるとジェルネイル・ネイルチップ・アクリリックネイルのいずれもほぼ正確な値が出たとしています。
このように、ドーランやペンキが指についていた場合は値は不正確になりますが、マニキュアはそれほど気にせずとも大丈夫です。
011
ドーランを指に塗ったところ。JPTEC用に購入したもの。血糊用赤褐色。
012
ドーランで測定不能となる
7.おわりに
パルスオキシメーターの使用方法や注意点を紹介させていただきました。これといって難しい部分はないと思いますが、呼吸を管理するうえでは重要な数値になってきます。多くの救急現場で活用される機械だと思いますので、注意点などを再度確認して頂きたいと思います。
自分自身よりいっそう知識を深めていき、今よりさらに1ランク・2ランク上の救急活動が行えるよう努力していこうと思いました。
著者
留萌消防組合留萌消防署
阿部 康平(アベ コウヘイ)
平成27年4月1日 消防士拝命
出身 小樽市
趣味 ランニング、スノーボード
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