190226最新救急事情 除細動:単相性でも二相性でも同じらしい

 
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最新救急事情

プレホスピタルケア 2019年2月20日号

最新事情

除細動:単相性でも二相性でも同じらしい

2003年2月号の最新救急事情(当時は月刊消防連載)で私は「除細動は二相性へ」と題して除細動器の波形が単相性から二相性へ変わっていくことを書いた。そこでは単相性に比較して二相性が優れていることを述べた。この原稿から16年経ち、どちらかが優れているかなんてとうに決着がついているものと思っていた。

目次

単相性とは、二相性とは

現在市販されている除細動器は全て二相性であり、単相性除細動器は病院の手術室などに置かれている、むき出しの電極(パドル)を胸に押し当て赤いスイッチを押すタイプしか残っていない。若い人は見たことないだろうから説明すると、単相性波形とは直流が作る波形で、二相性波形とは交流が作る波形である。グラフに書くと単相性では上に凸で、二相性では上に凸の直後に下に凸の波形が現れる。現在の除細動器は最大電圧が最初に訪れ、それが短時間で減衰して突然電圧が途切れるようになっており、グラフに書くと彫刻刀の切り出しの刃を上に向けたような台形となる。二相性では同じ形の波が上と下を向いて一つずつある。

除細動器は電池で動くので直流=単相である。だから1947年に世界で初めて臨床応用されたのも単相性であったし、仕組みが簡単なので安く小さく作ることができた。二相性除細動器は1975年に出現した。当初から必要出力の小ささと除細動成功率の高さは分かっていたものの、構造が複雑で高価だったため、本格的に普及しだしたのは今世紀に入ってからである。

差はないらしい

少し古くなるが、2016年にコクランデータベースに単相性と二相性の除細動の比較が出ていたので紹介する1)。たくさんの論文を集めそれらのを総合して結論を出すメタアナリシスという手法で作られた論文を掲載しているデータベースである。

対象となった論文は4編。対象患者は552例である。病院外心停止症例に対して単相性と二相性の除細動のどちらかを行ったもので、筆者らによると2編はバイアスが強くかかっており、1編はバイアスが軽度、1編はバイアスの度合いが不明である。全体としては自脈再開率は3編で比較しており単相性・二相性で有意差なし、1回目の放電で除細動を失敗する率も3編で比較しており有意差なし。3回の放電(ガイドライン2000では放電を3回続けることになっていた)での除細動失敗率は2編で比較しておりこれも有意差なし。二相性除細動器を使っても病院前死亡率を減らすことはできず(3編で比較)、生存退院率を上昇させることもできなかった(4編で比較)。つまり単相性でも二相性でも全く差はなかったのである。

2013年にも同じようなメタアナリシスの論文2)が出ていて、こちらも単相性と二相性で差は認めない。


また小児を対象とした論文も日本医大から出ている3)。対象は5628例の小児(1歳から17歳)病院外心停止症例である。第一の評価点は1ヶ月後に神経学的後遺症の少ない生存患者率、第二の評価点は1ヶ月後の総生存率と病院に到着する前に自脈が再開した患者率である。5628例のうち、単相性除細動を受けたのは127例、二相性除細動を受けたのは303例であった。1ヶ月後で神経学的後遺症の少ない生存例は単相性17.5%二相性24.4%、1ヶ月後の総生存率は単相性32.3%二相性35.6%、病院到着前に自脈が再開したのは単相性24.2%二相性27.4%であった。全ての比較項目で有意差は見られなかった。

同じ筆者らで日本における成人の除細動の比較をしている論文4)がある。こちらでも単相性と二相性で有意差は見られていない。

心房細動では二相性が有利

除細動器は心室細動と心室頻拍に使うものと救急隊員は理解しているだろうが、急性の心房細動にも使われる。私も病院勤務中に心房細動になったときには循環器の医者から除細動器の使用を聞かれた。この心房細動については二相性が有利というメタアナリシス論文が出ている5)。

対象は論文23編3046名の患者。1回目の放電で除細動できる率は二相性が単相性の3.2倍、その後に続く放電によって最終的に除細動できる割合は同じく2.4倍であった。また二相性では単相性に比べ296ジュール未満の出力で除細動でき、放電回数も0.74回少なかった。二相性除細動器の機種による違いは認められなかった。

評価方法が変わった

二相性がもてはやされた頃は、現場での心拍再開が第一の評価ポイントであった。多くの論文で単相性に比べ二相性で除細動の効率が高いことを示しているし、最後に挙げた心房細動症例は元々生きている人だから二相性が有利になる。一方、現在の比較は生存退院率、特に神経学的後遺症の少ない生存者の率で行われており、これだと2つの方式で有意差は見られない。この連載で私がよく書く「助かる人だけが助かる」という見方は、除細動の放電方式にも当てはまるようだ。

文献

1)Cochrane DatabaseSyst Rev 2006:Feb 10

2)Am J Emerg Med 2013;31:1472-8

3)Crit Care 2012;16(6):R219

4)Circ Cardiavasc Qual Outcomes 2012;5:689-96

5)Resuscitation 2016;100:66-75

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