雑誌 健康教室 2022年12月号50-1
応急処置アップデート Q and A
ブコラム の使い方
目次
Q
令和4年7月に、てんかんの痙攣止めである「ブコラム(R)」が学校でも教員によって投与できるようになりました。このブコラムについて、投与の基準や投与方法など教えてください。本校の児童にてんかんの子がいて、親から学校に置いて欲しいと要望が来ています。
(小学校の先生から)
A
ブコラムはてんかん重積状態の時に、頬袋(歯茎と頬の間)に投与する薬です。安全域がとても広く、また拮抗薬(解毒剤)もありますので、臆病にならずに使える薬です。
解説
1.一般名ミダゾラム
商品名ブロラム、一般名ミダゾラムは、向精神薬の一種です。向精神薬は大きく抗精神病薬(メジャートランキライザー)と抗不安薬(マイナートランキライザー)の2種類に分類されており、このうちの抗不安薬に入れられています。
ミダゾラムの特徴は、迅速かつ安全にてんかん発作・痙攣発作(以下「発作」とする)止められること、安全域が広いこと、拮抗薬があることです。
製剤は透明の液体です。静脈注射、筋肉内注射、頬粘膜投与が可能。成人の臀部に筋肉注射した時の血行動態は最高血中濃度までの時間が28分、半減期が2時間50分でした1)。頬粘膜投与でも30分以内に最高血中濃度に達し、半減期は2時間25分-4時間でした2)
ブコラムは小児の発作止めに特化したミダゾラム製剤です。この薬をてんかん重積状態の患児に投与することにより、80%の患児で10分以内に発作が消失し、かつ30分間の無発作状態が続きました2)。
安全域はとても広く、定められた投与量で呼吸が止まる可能性はまずありません。私の経験では、入院患者の鎮静目的で大量に静脈投与してもこの薬剤単独で呼吸が止まった経験はありませんし、動物実験で規定の10倍投与しても呼吸が止まることはありませんでした。
ミダゾラムには拮抗薬があります。商品名アネキセート、一般名をフルマゼニルといい、この薬剤を静脈内投与することでミダゾラムによる鎮静や呼吸抑制を改善することができます。
2.ブコラムの使い方
a.対象
てんかん重積状態の患児に使います。てんかん重積状態とは、発作が5分以上続くか、途中で発作が中断しても再発するため始まりから5分経過した状態をいいます(002)。てんかん重積状態になると脳に不可逆的な損傷を来す可能性が高くなるため発作を止めなければなりません。
001
てんかん重積状態とは
b.使用方法(002)
(1)てんかん重積状態か判断します
時間を確認し、5分間を超えるようならブコラムを用意します。投与についてあらかじめ医師の指示があるならその指示を優先します。
(2)年齢と製剤の色を確認します。
年齢で使う製剤が異なります。1歳未満が黄色、1歳から5歳が青、5歳から10歳が紫、10歳から18歳未満がオレンジです。これは中身の量で区別しているためです。
(3)ブコラムを投与します
容器からシリンジ(注射器)を取り出します。キャップがついているので外します。頬をつまみ、シリンジを頬袋の奥まで差し込みます。プランジャー(押し子)をゆっくり押して、全量を頬袋に注入します。
(4)救急車を呼びます
てんかん重積状態は救急搬送の対象です。医師の指示がある場合はその指示を優先します。
3.ブコラムの注意点
a.1本しか使えません
呼吸抑制の可能性は皆無ではありませんので、薬液をこぼしたり吐き出した場合でも追加投与はできません、
b.投与直後は呼吸を観察します
パルスオキシメータがあれば装着します。
c.眠気が続くことがあります
精密な作業や運動などは体調を見て許可します。
d.立てて保管します
色のついた蓋を上にして保管します。注射器内のゴムに薬が吸収されるのを防ぐためです。
4.こんなことがありました
先日養護教諭サークルの研修会でブコラムの投与について、学んできました。
具体的にどのように使用したら良いのか、ブコラム練習用形状見本を使用し順序を確認しながら、実践に近い形研修をさせていただくことができ、勉強になりました。特に、「ゆっくり投与する=10秒くらいかけて投与する」というのが、わかり、良かったです。
今回の研修は、ブコラムの使用方法はもちろん、ブコラムだけでなく児童から薬を預かった場合、事前準備を綿密に行わなければいけないと再認識するいい機会となりました。その薬をどんな場合に使用するのかを含めた緊急時の対応表を作成する、その薬の知識を身につける、教職員への周知や研修をする、学校での薬使用について保護者としっかり確認する、学校医や学校薬剤師等の地域との連携するなど、どれも当たり前のことですが、どれも大切だと改めて感じました。
児童が安心・安全に学校生活を送れるよう、情報をキャッチし、勉強していきたいです。
参考文献
ブコラム使い方ガイドブック
https://www.buccolam.jp/patients/common/images/pdf/1-5-2929.pdf
引用文献
1)ミダゾラム添付文書
2)ブコラム添付文章
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