241125応急処置アップデート Q and A 23 股間を打撲した時は?

 
  • 31読まれた回数:
救急の周辺

雑誌 健康教室 応急処置アップデートQ and A

2024年02月号(2024/01/10発行号)p60-1

目次

Q.

股間を蹴られ負傷した場合の問診内容と病院受診の目安を知りたい。緊急性はどの程度あるのでしょうか。 

A

陰嚢内部の出血が疑われる場合は病院受診させます。痛みの軽減具合と局所の観察で判断します。

解説

男性の股間には睾丸(精巣)と陰茎があります。女性では外性器として大小陰唇があります。蹴られて問題となるのは男性がほとんどですので、今回は男性の話をします。

1.睾丸の発生

発生学からいえば、女性を元にして男性はできます。なので、体を作る部品は共通しています。男性の睾丸は女性の卵巣、男性の陰茎は女性の陰核、陰嚢は大陰唇に相当します。

睾丸もしくは卵巣への分化は胎生6週から8週にかけて起こります。男児の持つY染色体の中には、男性への分化を司るSRY遺伝子があります。この遺伝子の働きによって、胎生期初期には性線原基呼ばれていた臓器が睾丸へ変化し、男性ホルモンを放出しだします。さらに睾丸は陰嚢へ向かって移動を開始します。正常であれば出生までに鼠径管を通って陰嚢へ収まりそこで固定されます(001)。出生時に陰嚢内に睾丸が入っていないのは停留睾丸、鼠径管の穴が大きく、そこから腸が太ももへ脱出して鼠径部が膨れるのが鼠径ヘルニアです。

停留睾丸があれば、生後1年までは様子を見て、それでも睾丸が降りてこないのなら手術で睾丸を降ろします。鼠径ヘルニアは自然治癒は期待できず、腸管が嵌って壊死する可能性があるので手術で鼠径管を塞ぎます。

2.陰嚢・睾丸の構造(002)

陰嚢には睾丸と副睾丸が入っています。腹腔内とは動静脈と精管(まとめて精索と言います)が交通しています。精索の周りには筋肉があり、痛みや寒冷、興奮などがあると睾丸を腹腔内へ引っ張り上げて睾丸を守る働きをします。

睾丸自体は、陰嚢に包まれていますが外部に露出していますので、外力に強い構造をしています。陰嚢を通じてですが前後左右に動くこと、白膜という丈夫な皮に包まれていること、睾丸自体が紐をぐるぐる巻いたようなスポンジ状の構造をしており外力を吸収できることがその理由です。

4.睾丸を打撲したら(003)

通常は睾丸の激痛があります。ただまれに、睾丸に損傷を受けても下腹部痛だけを訴え局所の痛みを訴えないことがあるので、受傷機転を詳しく聞く必要があります。また高頻度で嘔気・嘔吐を来します。患部を見ると、患側の睾丸の位置が頭側に寄っています。内部の損傷がある場合には患側の陰嚢の腫大、発赤、自発痛、把握痛、牽引痛があります。

打撲だけなら痛みは徐々に軽減しますので、冷却で様子を見ていて構いません。陰嚢の腫大や発赤など、内部で出血しているような所見があれば救急車で病院に搬送します。

5.観察時には(004)

多くの場合は睾丸の打撲の判断は容易です。ですが病院送致や救急搬送の判断は陰嚢や睾丸の状態を見なければなりません。信頼できる男性教諭を連れてきて、できれば一緒に観察するようにしましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました