月刊消防 2024/07/01号 p76-7
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はじめに
救急救命士の気道確保資機材といえばラリンゲアルチューブ(Laryngeal Tube, LT)。どこの消防に聞いてもLTが第一選択である。一方、たまにしか名前を聞かないi-gel。ツチノコに似たずんぐりしたチューブで先端には喉頭を塞ぐためのドーナツ型シリコンが付いている。ラリンゲアルマスク(Laryngeal mask, LM)と同じ喉頭に蓋をすることで換気するのだが、カフがシリコンに置き換わっていて空気を入れる必要がないため挿入は容易かつ迅速に終了する。今回はLTとi-gelの比較を試みる。
論文数はi-gel > LT
Pubmedで「laryngeal tube airway」を検索すると304編がヒットする。初出は1999年である。研究者としては管に風船が2つ付いただけの単純な構造に興味がわかないのか、昔からあるコンビチューブと似ているからなのか、かなり少ない。これに対して2005年に初めて論文が出てくるi-gel airwayは510編の論文がある。i-gelはLMに似ているとしてもカフがシリコンになったことで研究者の興味をそそるものがあるのだろう。
挿入成功率はi-gel > LT
ノルウエーからの報告1)。ノルウエーでは日常的に使われているのはLTとi-gelの2種類である。この二つの臨床的性能を比較した論文でアンケートを取りまとめたものである。対象は250例の病院外心停止患者。191例はi-gel、59例はLTを挿入された。成功率はLT75%, i-gel 86%で有意差あり。対象患者に挿入した時にLTについて挿入しやすかった回答した救急隊員は51%であったのに対し、i-gelは挿入しやすかったと答えたのは80%であった。
自宅退院率はI-gel > LT
アメリカからの論文2)。2018年から2021年に起こった病院外心停止患者のうち9万3866例を対象とした。評価項目は自宅生存退院となった割合であり、他に初回で挿入に成功した率、心拍再開率、病院到着後の再心停止の割合である。患者の60%はi-gelが、40%はラリンゲアルチューブが挿入されていた。結果として、i-gel群はラリンゲアルチューブ群に比べ初回挿入で気道確保完了できる割合が高く、病院内再心停止患者の割合が低く、また自宅生存退院率が高かった。i-gelとLTの差は、最初に気管挿管に失敗してその後i-gelもしくはLTに変更された患者によってもたらされたもので、最初からi-gelもしくはLTを挿入した例について比較すれば有意差は見られなかった。
I-gelはLTに勝るという論文は他にもある。これもアメリカから3)。対象は2013年から2021年までの病院街心停止例。評価項目は神経学的に良好な生存退院率であり、他に生存入院率と神経学的評価を除いた生存退院率を評価した。その結果、i-gelはLTと比較して有意に神経学的良好な患者生存率が高かった。また生存入院率・生存退院率も有意に高かった。
気管挿管より成功率は高い
新型コロナで気管挿管が避けられた時期に挿管をやめてi-gelに移行させたという論文5)が出ている。これによると初回で挿入に成功する割合は気管挿管68%に対してi-gel は96%であった。初回成功例で挿入完了までにかかった時間は気管挿管8.3分、i-gel 5.9分であった。患者の転帰も調べているがそれらには気管挿管とi-gelで差は見られなかった。
LTが主流なのは日本だけかも知れない
ノルウエーやアメリカの論文で示したように、海外ではi-gelがよく使われている。アメリカの小児救急を対象とした研究報告4)では、研究に参加する27の研究機関のうち、小児の病院前救護において選択したことのある手技は、バックバルブマスク100%、気管挿管70%でこれは当然として、i-gelが52%、LTは30%であった。さらにラリンゲアルマスクは7%に過ぎなかった。
もっと選ばれても良いだろう
LTと比較すると、I-gelはいかにも高そうだが、値段をネットで調べるとi-gel 41.79ドル(6477円)LT 57.99ドル(8988円)でi-gelの方が安い。挿入の容易さや速さ、また患者に与える良い結果などから、i-gelはもっと選ばれても良いだろう。
文献
1)BMC Emerg Med 2021 Apr 2-;21(1):51
2)Prehosp Emerg Care 2024;28(2):193-9
3)Resusucitation 2023 Jul; 188:109812
4)Prehosp Emerg Care 2022 Jul-Aug; 26(4):476-83
5)J Am Coll Emerg Physicians Open 2024 Apr 3;5(2):e13150

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