月刊消防 2025/09/01号 47(09), 通巻555号 p62-3
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心肺蘇生ガイドライン応急処置
はじめに
心肺蘇生ガイドラインは5年ごとに改定される。今年がその5年に当たるのだが、数年間コロナ禍で会議がひらけなかったためか、執筆時点ではいつ出るのかまだアナウンスはされていない。一方、心肺蘇生ガイドラインの中に取り入れられるようになった応急処置については、2024年版がアメリカ心臓学会とアメリカ赤十字社との共同執筆で発表されている1)。内容は一般的なことが多く、このガイドラインを読んだからといって目からウロコ、とはならないのだが、今回はその中から面白そうなものを紹介する。なお、「」で囲まれた部分が応急処置ガイドラインでの内容である。
この応急処置ガイドライン、ダイジェスト版が日本語で読むことができる2)。だが内容は(ダイジェストと銘打ってあるので非難はできないのだが)英語で書いてあるガイドラインの半分程度しか書かれていない。なので興味がある人は英語版を入手しよう。
熱中症;水に浸けることが大切で水温は問わない
まずは熱中症。これは日本語版には書いていない。「熱中症患者の生存は、体温低下の速度と関連している。速く冷やせば生存率は高くなる」。冷やす方法として「冷水風呂で、15分か神経症状が消失するまで浸ける」のが最も速く冷えるので第一選択。次に「氷嚢、冷水シャワー、氷シート」などが来る。直腸温が測れるのなら、冷却の体温目標を「39℃」とする。
不思議なのは水温と体温低下の間に関連はないこと。「水温2℃から26℃の範囲内では水温と体温低下速度に有意差は見られない。水温ではなく水に浸けるという行為が最も重要である」。風呂に水道水をじゃんじゃん流すのと、大量の氷を浮かべるとで効果は同じ。多分、あまりに冷たい水だと皮膚の血管が閉じてしまって熱の発散が妨げられるためだろう。
労作後の脱水に飲ませるもの:ビールは良くも悪くもないらしい
運動後の脱水に何を飲ませるか。CMでよく聞く経口補水液が一番良いのかと思っていたが違うようだ。ガイドラインの元となった研究が示されている3)。まず運動で脱水を起こさせ運動後に体重を計る。次に研究対象となる液体を飲まる。一定時間経った後で体重を再び計測すれば、体内にどれだけ液体が留まっているかわかる。結果として、糖分が高いほど水分は体内に貯留することがわかった。この結果をもとに、応急処置ガイドラインでは「糖分が4%から9%を含む電解質溶液」を推奨している。調べてみると、経口補水液は糖分が1.8%しかない。市販のスポーツドリンクは糖分5.7%なので合格。コーラで11%、りんごジュースで10%、オレンジジュースで8%である。他に勧められるものとして「ココナツ水、低脂肪牛乳」も挙げられているが推奨は落ちる。なお、ビール(アルコール度数0-5%)でも同様の研究がされていて、ガイドラインの元となった論文ではビールを水分補給に推奨するエビデンスは不十分と書かれている。アルコールが入っていることで体内の水を尿としてどんどん出してしまう、というわけではなさそうだ。
発熱や下痢で脱水になった時には経口補水液はとても美味しいし体も楽になる。この応急処置ガイドラインでは労作後の脱水について述べているので推奨が異なるのだろう。
鼻血:氷で冷やすのは効果不明
「前かがみになり、鼻をつまんで10-15分待つ」ことを推奨している。日本ならティッシュペーパーなどを鼻に詰めるのだが、物を詰める記載はない。Pubmedで鼻血の治療を調べても、鼻の中に紙や綿を詰めるのはほとんど出てこないので、アメリカでは鼻に詰め物はしないのだろうか。
鼻血では鼻梁や鼻翼を氷で冷やした方がいいと聞いたことがある。応急処置ガイドラインでは「ファールトエイドの状況において鼻出血の管理のための寒冷療法(氷)は不明である」と書かれている。
歯:ラップに包む
歯が抜けた場合には歯を牛乳に浸けて歯医者さんに持って行くように、と聞いたことがあるだろう。脱臼した歯を何に浸ければ良いか、この応急処置ガイドラインでは明快にランク付けしている。誰でも入手できるものでは、「第一選択は・経口補水液・重湯・食品ラップに包む」であり、「第二選択は・牛乳(普通の牛乳でも低脂肪分牛乳でも良い)・本人の唾液」「第三選択は・他人の唾液・プロバイオティクヨーグルト・卵白・アーモンドミルク」となっている。プロバイオティクヨーグルトとは、〇〇に良く効くなどと宣伝されているヨーグルトがそれに当たる。
色々な方法が提案されてきたが、結局はラップに包むという単純な方法が一番いいようだ。また包んだ後は凍らない程度に冷やして歯科医に持って行った方が接着率はよくなる。
捻挫:RICEは古いのでは
捻挫に関してはいまだにRICE(rest, ice, compression, elevation)から抜け出していない。長時間の冷却は組織の再生を妨げることがわかっているのに、「冷却は20分から30分、1日3回か4回の冷却」と書いてある。ここの部分はのちに変更になるだろう。
文献
1)https://www.ahajournals.org/doi/pdf/10.1161/CIR.0000000000001281
2)https://cpr.heart.org/-/media/CPR-Files/CPR-Guidelines-Files/Highlights/2024-First-Aid/JN1455_JA_Highlights_2024FA_Accessibile.pdf?sc_lang=en
3)J Athl Train 2025 Jan 1: 60(1):55-69
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