260425救助の基本+α(107+108)救助教本「ロープレスキュー編」の作成_西宮市消防局_長谷川卓登

基本手技
DCIM\100MEDIA\DJI_0255.JPG写真№1 西宮市内


月刊消防 2025年8月号+9月号

救助の基本+α

西宮市消防局警防部警防課救助係

救助教本「ロープレスキュー編」の作成

目次

1 はじめに

西宮市(001)消防局は、1本部4署4分署、職員定数522名で構成し、4本署(西宮消防署、鳴尾消防署、瓦木消防署、北消防署)に救助工作車を配置しています。また、西宮消防署には高度救助隊員16名、鳴尾、瓦木、北消防署にはそれぞれ特別救助隊員12名を配置しており、高度救助隊1隊、特別救助隊3隊の計4隊52名の体制で日々の災害に対応しています。

また、当市では、救助隊員の資格要件を内規で定めています。厳しい選抜訓練を突破し、一定の救助知識及び技術を有する救助隊員有資格者を各署に配置しており、消防局警防部警防課救助係、高度救助隊員及び特別救助隊員を含め、計216名(令和6年10月22日現在)が救助業務に従事しています。

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図1 西宮市街

さらに、当市では、火災現場活動において警防隊員に求められる知識の標準化を目的として作成した「消防活動教本」が先行して書籍化されたことにより、認知度が高まっていますが、救助活動の分野においてはそれ以前から、救助隊員の知識及び技術の底上げと、現場対応力の向上を目的とした「救助教本」(002)を策定しています。様々な訓練、研修を実施することに加え、事故種別ごとに必要な救助活動を体系化した「救助教本」を活用し、216名の救助隊員が共通認識を持って活動できるよう工夫してきました。今回は、数ある救助教本のうち、「ロープレスキュー編」について、作成に至った経緯を含めて紹介させていただきます。

 写真№2 救助教本

2 救助教本「ロープレスキュー編」作成に至った経緯について

  当市におけるロープレスキューの正式運用は平成22年度からです。平成20年度に局内で検証委員会を立ち上げ、2年間の検証期間を経て、救助教本「山岳資機材編」を策定し、本格運用を開始しました。当時は、カーンマントル構造のロープと各ギアを合わせて山岳資機材と呼称していました。

  今回紹介する救助教本「ロープレスキュー編」は、救助教本「山岳資機材編」を令和6年3月28日に全部改定したものです。

労働安全衛生法施行令等が改正され、令和4年1月2日から改正法令等に基づくフルハーネス型墜落制止用器具の使用に完全移行したことに伴い、ロープレスキューを取り巻く環境は大きな変革期を迎え、ロープ高所作業に関する知識や技術がアップデートされていました。また、SNSの普及等によって情報の入手がより簡単となったこと、また当市においては、自己研鑽によって外部から様々な知識や技術を学び持ち帰る隊員が多くいたことなど、これまで以上に救助隊員個人が救助に関する新たな知識や技術に触れる機会が増加していたことから、局内において新たな知識や技術の現場運用についての議論が活発化していました。このため、それらの知識や技術を取り入れ、共有化することを目的として、救助教本「ロープレスキュー編」を策定するに至りました。

 

3 ロープ作業部会の設置について

  先ず、救助教本「山岳資機材編」を全部改定するに際し、ロープ作業部会を設置しました。この作業部会では、各署救助隊から1名ずつ計8名の救助隊員を招集し、年間を通じ、計6回の検証訓練を実施しました。この検証訓練の結果報告書として策定したのが、救助教本「ロープレスキュー編」です。

また、作業部会設置までの準備段階として、令和3年度にフルハーネス型墜落制止用器具特別教育・ロープ高所作業特別教育研修を公費で受講した高度救助隊員を中心に、局内で「墜落制止用器具及びロープ高所作業特別教育に関する研修」(003)を実施しており、高所作業における安全管理に対する各法令等の改正趣旨を踏まえた考え方や、科学的な知見に基づいたロープの使用方法等について理解を深めました。また、令和4年度からロープアクセス技術、知識を習得するためJIRAA検定(ロープアクセスレスキュー技術の資格認定)に救助隊員を派遣し、検証できる体制を整えました。

 写真№3 墜落制止用器具及びロープ高所作業特別教育に関する研修

4 救助教本「ロープレスキュー編」の構成について

救助活動の基本となる安全、確実、迅速な活動の実施を可能にし、全救助隊員の人材育成に資する内容とすることに主眼を置いて、基本編、実践編に分けて作成しており、局内におけるロープレスキューに必要な知識、技術を網羅した内容としました。

構成の詳細は基本編で「1、基礎知識 2、基本結索 3、資器材取扱い 4、資器材点検」とし、実践編で「1、支点作成 2、墜落制止用器具・自己確保 3、エッジ保護 4、ロープアクセス 5、上げ下ろし・倍力システム 6、アテンド方法 7、担架の出し入れ 8、斜行救助 9、中州救助 10、アリゾナボーテックス」としました。今回は一部の項目をピックアップして紹介させていただきます。

5 基礎知識について

  ロープレスキューに関する知識及び技術は、各システムや手技手法のみを学べば良い訳ではなく、強度表記や規格、関係法令、安全率等の基礎知識を身に付けておくことが、重要であることを念頭に置いて作成しています。中でも2系統(004)については、「2系統の意義」、「国内における関係法令」、「海外における2系統」、「救助活動における2系統の考え方」、「使用する資器材における2系統の必要性」に分けて詳細に記載し、局内における認識の統一を図りました。

写真№4 2系統での救出訓練

6 支点作成について

 消防活動全般に支点の存在は外せませんが、特に高所作業を伴うロープレスキューにおいては、2系統の原則に沿って、支点に使用する地物を人工物、自然物に分けたうえで、強度を判断する目安、分力及び合力に関する必要な基礎知識を整理し、地物のサイズや強度、保有資器材を考慮して最適な支点を作成できるように検証しました(005, 006)。

また、支点強度の見極めに必要な現場でのショックテストについて、何人でどのようにテストすれば、適切な荷重テストができるのかを検証(007)、数値化し、救助活動時に参考となる基準を定めました。

写真№5 ロープを使用した支点

写真№6 資器材を使用した支点

写真№7 ショックテスト

7 墜落制止用器具・自己確保

 労働安全衛生法施行令等の改正に伴い、法令に関する知識や墜落制止用器具の適切な使用方法等について、救助活動時に安全に生かせるようにするため、当市保有資器材の中で墜落制止用器具として取り扱うことができる資器材を明確化しました。

また、墜落危険のある場所に出てしまうことを制限する措置である「レストレイン」(008)、墜落時に人体に掛かる衝撃荷重を制限するための措置である「フォールアレスト」(009)にかかる正しい認識に加え、落下率と衝撃荷重、人体に掛かる影響について記載することにより、状況に応じた適切な「自己確保」を作成することができる内容としました。

写真№8 レストレインでの自己確保

写真№9 アサップを使用した自己確保

8 ロープアクセス

ロープアクセス(010)とは、「仮設足場を設置せずに屋上から特殊な産業ロープで固定された作業員が吊り下がり行う工事のこと」と定義されています。救助活動においてはロープ、フルボディハーネス、資器材等を使用することにより救助隊員が一人でロープを降下、登はん、横移動を可能とする技術であることと整理し、ロープレスキューを行う上で必要不可欠な個人技術であり、ロープアクセス技術の習熟は円滑な部隊活動に欠かせないものであることを共通認識としました。

  ロープアクセス技術も基本的な技術から応用まで様々ありますが、現在の保有資器材等を考慮し、ID登はん、クロール登はん、パンタン登はん、ID降下、チェンジオーバー、ロープtoロープ(011)を当市における救助活動上必須となる技術とし、要領や注意点について記載しました。

 写真№10  ロープアクセス

写真№11 ロープtoロープ

9 上げ下ろし・倍力システム

常に100%の荷重を受け持つメインラインと、通常時は荷重を受け持たずメインライン破断等の不測の事態が発生した際に、落下する荷重を掴んで墜落を防ぐビレイラインの2本のロープで構成される100:0システムと、常に2本のロープで分散して荷重を受け持つツーテンションシステム(012)について、それぞれのメリット、デメリットを検証し、基本的な選択基準を整理することで、要救助者への影響、効率性、実施にかかる難易度等を考慮し、適切な救助システムを選択できるようにしました。

また、規格やテスト結果から、メインシステム、ビレイシステムに使用することができる資器材を明確化し、安全かつ適切な資器材が使用できる体制としました。

写真№12 ツーテンションシステム 100:0システム

10 アテンド方法

 要救助者へのアテンド(介添え)(013)は、低所救助、高所救助等において、必ずしも必要なものではなく、誘導ロープで対応できる場合も多くありますが、誘導ロープでは対応できない高さや、下部スペースに奥行きが無く壁体等から担架を離すことができない状況、要救助者の継続的な観察や声掛けが必要な状況においては、要救助者へのアテンドが必要となるため、ロープの設定方法や使用することができる資器材を検証し、アテンドする隊員が自在に担架を操作できるように移動方法等を定めました。

 応用技術として、宙吊り要救助者の担架収容や担架以外(各種ハーネス)を使用したアテンド方法、立て坑等狭あい空間内の要救助者に対するアテンド方法(014)についても検証し、共有できるように記載しました。

写真№13 要救助者へのアテンド

写真№14 狭あい空間内でのアテンド

11 担架の出し入れ

 高所支点がない場合の担架の出し入れは高度な技術が必要であり、手すりや壁体の有無、担架が垂直(以下「垂直担架」という。)もしくは担架が水平(以下「水平担架」という。)かによっても大きく左右されるため、それぞれの場合に応じて必要な方法や注意点を理解できるよう検証しました。

要救助者への負担や動揺を最小限にするためには、水平担架での救出が望ましく、特に高リスク受傷機転が疑われる場合は可能な限り、常時、水平担架での救出ができる方法を選択する必要があるため、緊急度と重症度を考慮して選択できるよう数種類の方法を検証しました。具体的には、エッジマン(引っ掛かりを回避する役割)の有無の方法を検証し、担架の持ち手となるウェビングを取り付ける位置や人員の配置場所、人数、注意点等を詳細に記載しました(015)。応用として、庇等のオーバーハングを回避する手法についても記載し、要救助者への負担を極力減らして担架を出し入れすることができるようにしました。

垂直担架時の出し入れについては、人力での方法とウェビングを使用した方法(Vストラップ)について検証し、担架の設定方法や注意点を整理することで、水平担架が使用できない状況においても、安全に活動できるようにしました。

また、担架を出す際に支点からエッジ部分までの救助ロープの長さをサイジングする方法(016)を記載することで、人力での担架保持から資器材への荷重移行がスムーズになり、垂直担架や水平担架に関わらず、担架に急激な制動がかかることを防げるようにしました。

写真№15 水平担架時 エッジマンありの担架出し

写真№16 サイジング

12 斜行救助 中州救助

ロープレスキューにおける救出システムは、多種多様であるため、保有資器材、管轄する

地域特性、出動人員等を考慮し、当市における救助活動現場において特に有効である救助システムを検討しました。

斜行救助は、タグライン(誘導ロープ)を使用して障害物を回避し、救出したい場所に人力で誘導する①タグライン、展張した2本の斜行線上で担架を移動させ、担架に取り付けたメイン、ビレイロープにて救出する②トラッキングライン、本来鉄塔救助において用いられるシステムであり、上部の作業スペースが限られており、要救助者への接触人数を最小限にする必要がある場合に有効な救助方法である③スケートブロックハイブリッドに絞り詳細に記載しました。

中州救助(017)は、メイン及びビレイシステムをストロングサイド(救助者が進入救出するサイド)、ウィークサイド双方から担架に取り付け、双方のロープを調整しながら、目的の場所への進入や救出を行うシステムである①ツーロープ、リービングライン(担架を上下に移動させるためのロープ)が必要なく、ハイライン(両サイド間に展張したロープ)を弛めたり、張ったりすることで担架を上下させるシステムである②クートニーハイライン、タグラインの操作でハイライン上を水平方向に移動し、プーリーで方向変えを行ったリービングラインで垂直方向の移動を行うシステムである③フレンチリービングハイラインに絞り記載しました。

その他の救助システムについても参考として記載することで、救助隊員が救助方法を共有できるようにしました。

写真№17 中州救助

13 おわりに

労働安全衛生法施行令等の改正により、ロープレスキューを取り巻く環境は大きな変革期を迎えています。加えて、SNSの普及により誰でも簡単に最新の知識、技術にアクセスできるようになり、救助技術は想像を超えるスピードで発展、普及しており、これらは大きなメリットがある一方、様々な考え方や知識、技術が組織内で乱立してしまい、統一した活動ができない可能性があるなどのデメリットもあります。

当市においても、外部から救助に関する知識や技術を学び持ち帰る職員がいることで、新たな知識、技術を学ぶことができる一方、局内全体において共通認識を持つ機会がなく手技等が統一されていなかったため、各隊が合同で活動する際の連携に不安がありました。

しかし、作業部会(018)を設置し、救助教本「ロープレスキュー編」を策定したことで局内における共通認識を持つことができ、救助隊員の誰もが正しい知識、技術を習得できるようになりました。現在では初任教育を修了した全職員が受講する「救助に関する教育訓練」において、消防救助操法の基本である三つ打ちロープを使用した救助技術を習得することに加え、救助隊員の資格試験である「新規救助隊員養成訓練」の事前課題項目に、ロープレスキューに関する基礎知識やロープアクセスを組み込むことで、組織として安全、確実、迅速に活動できる体制となっています。

今回の作業部会のように、公的な研修等への派遣や局内での検証、職員が外部から学び持ち帰った知識や技術を組織として精査し、必要と判断した場合に取り入れることができる体制は、当市の強みの一つだと考えています。救助活動はロープレスキューに限らず様々な分野での活動が求められるため、現状に満足することなく救助隊員一丸となり、さらに知識や技術の習熟、研究を積み重ねていかなければなりません。  

最後になりましたが、本記事が災害現場の最前線で活動する救助隊員と要救助者の命を守り、安全、確実、迅速な活動に加えて墜落等における負傷事故を防ぐ一助となれば幸いです。

写真№18 作業部会員

14 訓練隊長のコメント

 ロープ作業部会の訓練隊長を務めました、井上桂と申します(019)。

私は、平成21年度に採用され、平成24年度から救助隊員となり、令和2年度からは救助隊長として勤務しています。

救助に関する能力向上を図るため、ロープレスキューの他、震災救助、火災性状、交通救助等に関する知識及び技術を日々学んでいます。ロープレスキューの分野では、国内外問わず、様々な情報に触れることによりグローバルな目線で学んでいますが、シンプルかつ要救助者ファーストの活動が重要視されており、実災害現場に通じるものがあります。

全ての救助活動において言えることですが、特に現在のロープレスキューは様々な考え方やシステムが存在するため、組織として統一した指針を示すことで、要救助者ファーストの救助活動が実現できると考えおり、安全、確実、迅速な活動の実現と人材育成にも生かすことができる資料の作成を念頭において、作業部会に取り組みました。

作業部会を通じ市内の救助隊員で検証することにより、救助活動に必要な知識や技術を統一することができました。ロープレスキューに限らず救助活動は常にアップデートすることが重要だと考えていますが、日進月歩で変化する救助技術を取り巻く環境を適切に見極め、現状に満足することなく理想の救助活動を追求していきたいと思います。

写真№19 訓練隊長写真

著者

長谷川 卓登(ハセガワ タクト)

出身地

京都府 宇治市

所属

西宮市消防局警防部警防課救助係

消防士拝命

平成22年4月1日

趣味
銭湯巡り

基本手技
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