近代消防 2025/08/15 (2025/09月号) p42-4
目次
1.大津市消防局の紹介
大津市(001)は、滋賀県の南西部に位置しており、琵琶湖と山々の豊かな自然に囲まれ、世界遺産や歴史的建造物に恵まれている都市で、NHK大河ドラマ「光る君へ」の舞台にもなっている。面積は約464平方キロメートル、人口は343,721人。市域は南北に長く南部に人口が集中、主要病院も南部に集中していることから、北部で重傷事案が発生した場合は、搬送時間が長くなってしまうのが現状である。大津市消防局は、1本部、4署、2分署、3出張所、消防職員325名で構成されており、救急体制は専任救急隊10隊を運用している。(令和6年4月現在)令和4年の救急出動件数は19,348件、令和5年は20,795件であった。なお、写真は全て再現である。

OO1
大津市の地勢
2.症例
覚知日時は令和x年8月某日、発生場所は大津市内の水泳場、成人男性が琵琶湖で溺れ心肺停止状態との通報により出動した。発生場所から三次医療機関までの搬送時間は陸路であれば通常約35分を要するため、早期医療介入を目的にドクターヘリを初動要請した。
先着の消防隊が現場到着した際、傷病者は砂浜に仰臥位で(002)、バイスタンダーが胸骨圧迫とAEDを装着(電気ショック未実施)していた(003)。観察を開始すると開眼を確認(004)、まもなく救急隊が到着した。
関係者からの情報では、「友人たちと桟橋から琵琶湖に飛び込んで遊んでいて(005)、飛び込んだ後に湖面でうつ伏せのまま浮いていた。あまりにも長い間動かないので友人が様子を見に行くと意識がなかった。砂浜まで運んだ後に近くで遊んでいた別の団体(医学部の学生)が胸骨圧迫とAEDの手配をした」とのことであった。
現場での観察所見を表1に示す。全身観察で両下肢の対麻痺を認めた(006)。発生状況及び観察結果から、リザーバー付きフェイスマスクで10Ⅼ/分の酸素投与を開始、ネックカラーとバックボードで脊椎運動制限を実施した。なお、車両部署位置から砂浜まで距離があったため、現場到着から車内収容まで時間を要している。
車内での観察所見を表2に示す。デルマトームTh4支配領域の少し下から知覚異常を認めた。
ランデブーポイントにおいて、医師及び看護師により静脈路確保、モルヒネ投与、ビデオ喉頭鏡を用いた気管挿管が実施された後にドクターヘリに収容、市外の三次医療機関へ搬送された。時間経過を表3に示す。
今回の症例は、脊髄損傷を伴う頸椎損傷と診断され、約2か月後に退院となった。

002
傷病者は砂浜に仰臥位

003
バイスタンダーが胸骨圧迫とAEDを装着(電気ショック未実施)していた

004
消防隊が観察を始めたところ、開眼を確認した

005
友人たちと桟橋から琵琶湖に飛び込んで遊んでいた時の事故

006
全身観察で両下肢の対麻痺を認めた

表1
現場での観察所見

表2
車内での観察所見

表3
時間経過
3.考察
今回、脊髄損傷を伴う心肺停止事案を経験した。早期の医療介入により容態悪化を防ぐことができたとことから、ドクターヘリの有効性を実感した症例となった。また、バイスタンダーが医学生だったこともあり、速やかに心肺蘇生法とAEDの装着、119番通報がされたと考えられる。改めて救命の連鎖の重要性を認識することができた。
大津市消防局では、令和6年3月からLive119の運用を開始した。これは119 番の通報者が災害現場の様子をスマートフォンで撮影し、消防指令センターに送信する映像通報システムである。今後Live119やドクターヘリ等、あらゆる手段を活用し、更なる救命率の向上に繋げていきたい。
4.ポイントはここ
脊髄損傷では麻痺した部分の交感神経が遮断され副交感神経優位になるため、血圧が低下する。本症例では血圧は104/78mmHgと保たれているが、呼吸が腹式呼吸であったこと、心拍数も徐脈になっていないことから、脊髄損傷としても不全麻痺だったと思われる。しかし患者は医師によりモルヒネ投与と気管挿管をされている。呼吸状態はかなり不安定だったようだ。脊髄損傷では同じ部分を損傷しても出る症状や場所は大きく異なることがあるので「胸椎だから呼吸は大丈夫」ではなく「脊髄損傷ならどの部位の損傷でも心肺蘇生」と考えるようにしよう。

名前
中村祐太
読み仮名
なかむらゆうた
所属
大津市消防局北消防署志賀分署
出身地
滋賀県高島市
消防士拝命年
平成31年
救急救命士合格年
平成31年
趣味
旅行

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