260417_今さら聞けない資機材の使い方_145_エアストレッチャーを活用した傷病者搬送の省力化_白山野々市広域消防本部_髙田康平・山本光太郎・武田到・水本皓大

基本手技

 

近代消防 2025/08/15 (2025/09月号)p38-41


エアーストレッチャーを活用した傷病者搬送の省力化

髙田康平、山本光太郎、武田到、水本皓大

白山野々市広域消防本部

目次

1.はじめに

皆様は、救急活動中に最も身体的負荷を強く感じるのはどの場面でしょうか?私は傷病者搬送中に最も感じます。実際に、救急隊員が最も身体的負荷を感じる場面は、傷病者搬送中の階段搬送時であり、38.5%が高い身体負荷を感じていると報告1)されています。また、身体の痛みにより救急隊員に影響が出ている場面は、傷病者搬送中が最も多いと全国アンケート調査により報告されています2)。

当消防本部では令和元年に職員を対象とした腰痛等の保有に関するアンケート調査を実施しました。傷病者搬送に携わる職員181名中118名が現場活動の支障になり得る何らかの疾病や怪我を有していました。そして全体の102名である56%が腰痛を有していると回答しています。

そこで、当消防本部で傷病者搬送器材として導入しているエアーストレッチャーを使用することによる身体的負荷及び有用性について検討しました。

2.エアーストレッチャーとは 

エアーマットとワンタッチ式ファスナー付き布などからなるストレッチャーです(002)。エアーマットのバルブ(003)を開放することで空気を吸い込み広がります。傷病者を支える安全ベルトが3本付いています。傷病者の頭部にはグリップ(004)が付いており、上方向の搬送を容易にしています

エアーマットや底部特殊ポリエチレン板が衝撃を吸収することで、平地はもちろん、階段でもスライド搬送が可能となります。

001

エアーストレッチャー

002

エアーマットとワンタッチ式ファスナー付き布などからなる

003

エアーマットのバルブを開放することで空気を吸い込み広がる

004

グリップを持って搬送する

3.導入の経緯

当消防本部ではエアーストレッチャーが導入される前、傷病者の搬送には、ターポリン担架を使用していましたが、傷病者を持ち上げる必要があるため、隊員への身体的負担は非常に大きなものでした。そこで、平成11年、全救急隊のうち出動件数の多い救急隊にのみエアーストレッチャーを導入しました。平成19年には全ての救急隊が導入し、現在、年間7000件近くある救急事案に対して、担架搬送が必要な傷病者のほぼ全てにエアーストレッチャーを使用しています。

4.従来の搬送法との比較

エアーストレッチャーは、傷病者を持ち上げて搬送する必要がなく、2名の隊員によるスライド搬送が可能です。特に狭い通路や階段などの、大人数での通過が難しい場所の搬送において、その有用性が発揮されます。また、エアーストレッチャーは持ち上げられることで生じる傷病者の不安感や恐怖感を軽減するだけでなく、仰臥位に限らず、起坐位、半坐位、側臥位、ショック体位など、傷病者に必要な体位を維持しながら搬送することができるため、傷病者の苦痛の軽減や病態の安定化を目指した搬送が可能となります。

(1)徒手搬送

傷病者を2人で搬送することができ(005)、狭隘な通路や廊下も容易に通過することが可能です(006)。しかし、傷病者が大柄の場合、搬送する隊員の身体的負荷は大きいです。また、傷病者には抱えられる事への恐怖感を与えることになります。

エアーストレッチャーでは、隊員2名による傷病者のスライド搬送が可能(007)で、傷病者を持ち上げて搬送するよりも、隊員の身体的負荷は低くなります。また、クッション性の高いエアーマット上に固定して搬送するため、傷病者の恐怖感は低くなります。

005

徒手搬送 負担は大きい

006

徒手搬送 通過は容易

007

エアーストレッチャーでは、隊員2名による傷病者のスライド搬送が可能

(2)ターポリン担架

隊員3名で傷病者を持ち上げて搬送する(008)ため、狭隘な通路や階段の通過には適していません(009)。

エアーストレッチャーでは、頭側1名及び足側1名の計2名で搬送が可能で、狭隘な通路や階段(010)も容易に通過することができます。

008

ターポリン担架 隊員3名で傷病者を持ち上げて搬送する必要あり

009

ターポリン担架 階段には不適

010

エアーストレッチャーでは、頭側1名及び足側1名の計2名で搬送が可能で、狭隘な通路や階段も容易に通過

(3)バックボードなどの剛性担架

2名の隊員で持ち上げて搬送できます(011)が、狭い通路では、方向転換に不向き(012)となります。また、急な階段であれば、傷病者が斜め姿勢となり安全性に問題がでてきます。スクープストレッチャーでも同様のことが言えます(013)。

これに対しエアーストレッチャーでは、2名でスライド搬送することができ(014)、狭い通路や階段の曲がり角でも、材質が柔軟なため容易に方向転換が可能です。また、急な階段でもスライド搬送を行えるため、隊員にかかる負担が軽減され、より安全に搬送することができます。

011

バックボード 2名の隊員で持ち上げて搬送

012

バックボード 方向転換は難しい

013

スクープストレッチャでも同じ

014

エアーストレッチャーなら方向転換も容易

5.その他の利点と欠点

(1)利点

救急隊員に与える影響として、傷病者を持ち上げずに搬送することで身体的負荷の軽減となります。

隊員2名で傷病者搬送が容易となることで、搬送と同時に1名が病院連絡や使用資器材の撤収が可能となり、現場滞在時間短縮につながります。

傷病者に与える影響としては、持ち上げられることによる不安感や恐怖感の軽減のほか、傷病者に必要な体位、傷病者が希望する体位を維持しながら搬送することが可能となります。

階段でもスライド搬送が可能で、エアーマットが衝撃を吸収するため、傷病者は背面の痛みをそれ程感じません。

(2)欠点

摩擦抵抗の大きい床面(絨毯など)の場合、スライド搬送時の負荷が大きくなります。

エアーストレッチャーの底面に、石などの硬いものが存在する状態でスライド搬送すると、床面を傷つける恐れがあります。

搬送経路を確認し、床面に何も置いていない状態で搬送する必要があります。

エアーストレッチャーの種類(材質)によっては、洗浄後の乾燥に長時間かかります。

6.おわりに

消防職員の腰痛保有者は多く、さらに、定年延長や女性職員の活躍に対する対応が必要な中、エアーストレッチャーを使用することで、救急活動の省力化が可能となります。また、搬送と同時に病院連絡ができることや、傷病者に必要な体位を保持しての搬送が可能となり、救急活動の高度化が期待できます。

文献

1)安田 康晴, 加藤 義則 :救急活動時の身体負担の現状.日臨救医誌 2010;13:604-610

2)臨床救急医学会 : 救急隊員の抱える身体的・心理的の負担に関する全国アンケート調査について.

https://jsem.me/news/items/9bec6e064f3b935c321773f844fe993037cc85aa.pdf

(アクセス日:2025/03/26)

プロフィール

名前  髙田 康平

読み仮名  たかだ こうへい

所属  白山野々市広域消防本部

出身地     石川県白山市

消防士拝命年  平成22年

救命士合格年  平成29年

趣味  ジョギング、スポーツ観戦

 

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