健康教室2019年9月号p54-5
応急処置アップデート
19 心臓震盪
ポイント
- 1.男子。4歳から18歳。平均年齢15歳。
- 2.野球。球速64km/時以上で起こる
- 3.胸骨圧迫とAEDが必須
今回は心臓震盪を取り上げます1)。
典型例は、「中学3年性男子。中体連の野球の試合中に内野ゴロを捕球ミスし胸でボールを止めた。選手は「ごめんごめん」という動作をしつつ倒れた」(図1)というものです。胸にボールを当ててから倒れるまで数秒の時間があります。
死亡者数はごくわずかで対処法も一般の心肺蘇生と変わりませんが、致死率が50%程度と高く、生徒にとっても学校にとっても非常に不幸な事件となりますので、球技の監督やスタッフは必ず覚えて欲しい疾患です。
1.心臓震盪とは
胸に強い衝撃を受けたために心室細動となり死亡する事故です。死亡者数はアメリカの場合で年30名未満なので、青年の人数を考えると日本では10名に満たないと思われます。生存率は以前は4%から44%という「不治の病」でしたが、現在はどの報告でも50%を超えています。
年齢は4歳から18歳、平均15歳。20歳以上の心臓震盪は喧嘩によるものです。95%は男子です。野球のボールが胸に当たって発症することが最も多く、次にソフトボール、ホッケーが続きます(図2)。
ボールが胸郭に当たることで胸郭が凹み、心臓を直接圧迫することで心室細動を引き起こします(図3)。野球ボールの速さは64km/時あれば心臓振盪を起こします。エネルギー量で50ジュールです。小学生であっても打球ならば簡単に出る速度です。
骨折せずに胸郭が凹む必要があります。余りに球が速ければ胸郭を骨折させるために心臓震盪にはなりません。19歳を超えて胸郭の骨が硬くなれば容易に骨折するので19歳以上の症例報告はごくわずかです。ほぼ男子に限られるのは、女子に比べ男子の方が高速のボールやスティックを扱う機会が多いことに加え、女子は乳房や皮下脂肪がクッションとなり心臓への衝撃を和らげるためです。同じ理由で胸板の薄い男子が心臓震盪を起こしやすいとされています。
2.心臓震盪を起こす仕組み
胸郭に野球のボールが当たると、ボールは胸郭を押し下げ、心臓を変形させます。この変形が心電図のT波と同時に起こるか、変形によって心臓の伝導系に障害を与えると心室細動に移行しますが、心臓の収縮サイクルの中でこの危険がある時間は全体の1%に過ぎません(図4)。野球選手が胸でボールを受けても心臓震盪がまれな理由です。
解剖では全胸部の皮下出血や心嚢の表面の出血が1/3に見られるだけで心臓に損傷は認めません2)。
3.処置
状況から心臓震盪の判断は容易です。反応がなければ周りの先生や生徒にAEDと119番通報を命じます。胸と腹の動きを確認し、動いていなければ胸骨圧迫と人工呼吸を開始します。中高生なので死戦期呼吸が高頻度で見られますので惑わされないようにしましょう。AEDが到着したら一刻も早く放電に持っていきます。
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4.防止(図5)
胸当ては無効です。患者の27%は胸当てをしていました。
(1)監督やスタッフが心臓震盪と心肺蘇生術を知っていることが最も強く推奨され、次に
(2)心臓震盪を起こさないように技術指導することが推奨されています。
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文 献
1)Commotio Cordis. StatePearls, internet, 2019年1月11日版
2)Medicine(Baltimore) 2015;94(51):e2315
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