雑誌 健康教室 2020年9月号p50-51
応急処置アップデート the movie
(6)三角巾の使い方
今回は三角巾です。当初の原口良介監督の絵コンテでは頭・額・腕での使用法だったのですが、頭や額は普通包帯やメッシュを使うだろうと考え、T小学校の先生に保健室での使用状況を尋ねた上で、上腕と鎖骨の固定に絞って動画にしています。
001
上腕骨折での腕の吊り方。絵のように、底辺の端を結んで腕を吊ります。
002
肘が動かないように、余った布は結んで縮めます。
003
鎖骨骨折の固定法。001と異なり、脇の下から端を通して布を腕に絡めます。
004
脇の下の端を引くと腕が固定されます
005
上肢の動揺を防ぐために、三角巾をもう1枚使って前腕を固定します。
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目次
三角筋のアップデート
英語で三角巾は「triagular bandage」と言うらしいのですが、医学文献を見ても全く出てきません。だいたい、医者の私が使ったことないのですから、文献検索には引っかからなくても不思議はない。そのため今回は、鎖骨骨折と上腕骨骨折のアップデートです。
鎖骨骨折
鎖骨骨折の80%が鎖骨の近位端から1/3の部分です(図1)。
単にポキっと折れた場合には手術しなくても治りますし、手術しても治ります。小児は回復力が強いので通常は手術せずに固定だけして治癒させます(図2)。では成人ではどうなのでしょう。
過去の論文をまとめた報告が出ています1)。対象症例は1469例で17歳から70歳まで。結論としては、保存療法に比べて手術が上肢の機能を改善させる結果は得られませんでした。「手術しないと骨がすれてずっと痛いのでは」と思うのですが、痛みも両者で差がないとのこと。手術の利点はしっかりと骨が付くことで、手術でも骨折が治らない割合が3.4%であったのに対して、保存療法で骨が付かない割合は11.6%でした。また保存療法では骨が曲がって付く割合が11.3%(手術では1.2%)見られます。手術の欠点は皮膚に傷がつくことで、さらに傷の感染、変形治癒、骨を固定するプレートによる不快感など、手術固有の欠点があります。特にプレートの不快感によるプレート除去術は手術患者の10%に行われています。
これらの結果を踏まえ、筆者らの結論は「利点と欠点を考えて治療法を選択しましょう」。私が今鎖骨を折ったとしたら保存療法でしばらく様子を見て、骨の付きが悪いようなら手術をすると思います。なお、骨折場所が異なったり骨がバラバラになった場合はまた違った判断になります。
上腕骨骨折
折れる部分で治療法が治療法が異なります。スウエーデンで2)16歳以上の上腕骨骨折の2011例の統計では近位端骨折79%, 骨幹骨骨折13%、遠位端骨折8%でした。症例の平均年齢は67歳ですが男女差があり、男性の平均が59歳なのに対し女性は70歳。さらに女性患者数は男性の2.4倍になります。高齢者の骨折では総じて女性の方が多くなります。
まず近位端骨折。肩関節のすぐ下で折れるものです。小児の場合は保存療法が第一選択です3)(図3)。腕にギプスを巻いて首からぶら下げておけば治癒します。成人でもそれで治癒するのですが、手術を選ぶことが多いようです。手術と保存療法では1年後の生活の質(Quality of life)に有意差な差はありません。合併症についても有意な差は見られなかったとしています4)。
次は骨幹部骨折。0歳から17歳までの80例を治療した結果5)では、65例(81%)が固定だけで完治しており、手術は15例(19%)だけでした。手術方法はプレート挿入、髄内釘、その他でした。年齢が高く、骨折に至るエネルギー量が多くて開放骨折や複雑骨折があることが手術を選択する理由となっています。
上腕骨顆上骨折だけは手術が第一選択です6)(図4)。ここは肘関節に直結しており、放置することによって肘が曲がらなくなったり腕が内側に曲がったりします。当院の以前の看護部長さんが小児期にここを骨折し、変形した肘で働いていました。手術は先が尖った針金数本を皮膚を通じて骨にねじ込む方法を採ります。
文献
1)Cochrane Database Syst Rev 2019;1:CD009363
2)BCM Muscloskelet Disorf 2016;17:159
3)BMC Muscloskelet Disord 2019;20:571
4)PLoS One 2018;13:e0207815
5)J Child Orthop 2019;13:508-15
6)EFORT Open Rev 2018;3:526-40
次回は骨折時の固定です
監督
原口良介(はらぐちりょうすけ)
hataguchi.jpg
唐津市消防本部消防署救急第一係
消防士長
消防士拝命:平成21年4月
救命士運用:令和元年7月
趣味:カメラ、動画編集
医学監修・解説
玉川進(たまかわすすむ)
tamakawa.JPG
旭川医療センター病理診断科
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