月刊消防2023年04月号, p20-22
目次
プロフィール
トレンチレスキュー
1.はじめに
松江市は、島根県の東に位置する県庁所在地で中核都市に指定されています。古くは国宝「松江城」の城下町として栄え、堀川や宍道湖も望める「水の都」です。
近年はプロバスケットボールチーム1部の「島根スサノオマジック」の本拠地として、市全体が盛り上がりを見せています。
松江市消防本部は、1本部2署4分署1出張所で組織され、職員数は254名(令和4年4月1日現在)です。その中で救助隊は2署に2隊(高度救助隊1隊、特別救助隊1隊)配置されており、救助隊員は計28名となっています。また、国際消防救助隊には平成22年4月から6名の隊員が登録しており、日々訓練に励んでいます。
2.トレンチレスキューについて
(1)トレンチレスキューとは
掘削等による崩落事故や土砂崩れにより生き埋めになった要救助者を周囲が崩れないよう、処置を行うことで安定化を図り、二次災害を防止しながら救助活動を行う技術をいいます。
(2)安定化の目的
崩落したトレンチ(溝)は、救助隊が掘り起こしている時、再び崩落する可能性が50%を超えているとも言われています。よって二次災害防止及び活動スペースを確保するという観点からも溝の安定化が必要不可欠となります。
(3)安定化の方法について
一般的な方法として、救助用支柱器具(レスキューサポート)の使用があります。
001のように、左右の土壁に板を当ててレスキューサポートで突っ張り、その内部の安全を確保します。
001
救助用支柱器具(レスキューサポート)の使用
(4) 問題点
救助用支柱器具やコンパネ等の大きい板は、車両積載スペースの確保ができず、当本
部では常載していないのが現状です。
3.実事案から救助活動の検討について
そこで、皆さんは通報内容が「掘削作業中に作業員が土砂の生き埋めになったもの」と聞いて、どのような救出方法を想定されますか?
【発生日時】
令和3年6月12日(土)15時頃天候(晴れ)
【災害概要】
某ドラッグストア駐車場内の掘削現場において、溝(幅約1m、深さ約1.5m)の
側面が崩れ作業員2名が土塊に挟まれたもの(002)。
002
実際の現場写真
003
側面図
【活動内容】
作業員1名は消防隊到着前に現場作業員や警察官により救出され、もう1名を現場に
あった重機のバケットで土塊を固定後、削岩機で土塊を削り救出した。
【活動の検討】
今回、当消防本部では、通報内容とは異なり、実際には掘削作業現場で「土塊」に挟まれた救助事案について、どのような活動がベストだったかを検討しました。
その結果、今回の現場では、二次崩落に対する隊員への安全が十分に確保されていないという見解に至り、まず車両積載の資機材でできる二次災害防止を検証しましたので、紹介いたします。
4.エマージェンシートレンチレスキューについて
(1)救助工作車に車載した資機材での土留めの検証。
使用資機材(004)
・油圧エンジンポンプ
・プランジャーラム(縮長760㎜)
・テレスコピックラム
(縮長530㎜)
・単梯子
・敷板
・ロックブロック
実施したのは、油圧器具を拡張し、単梯子で三面側溝の側面を土留めし、片側だけでも二次崩落を防ごうとするものです。
(2)実施した考察
結果として、今回使用した資機材では、接する面が平でなければ、資機材をあてがい左右に突っ張る際に不安定となり、確実に土留めをすることはできませんでした。
ただ、下図のように、資機材を当てがう面が平であれば、突っ張ることは可能でした。
※但し、本来の使用とは異なり、単梯子は面で押さえていないことや対面は小ブロックでの押さえとなる上、強度も不明であり、あくまでも非常時(エマージェンシー)での使用と考えます(005,006)。
005
油圧器具による土留め
006
上から見たところ。
(2)次に車両上部ボックスの積載スペースを計測し、車両に積載することとして自隊作の「車載用土留めコンパネ」で検証。
② 主な使用用途(008)
・土留め板としての使用
•寸法等
縦90㎝
横60㎝
厚11㎜
※車載用土留めコンパネ。この板を3枚作成(007)
(1)と同じく油圧器具を拡張し、土留め板で三面側溝の側面を土留めし、二次崩落を防ごうとするものです。
実施した考察
車載の資機材と同様に接する面が平でなければ、確実につっぱることは困難でした。しかし、要救助者に対する1次確保として土留めするポイントを局所に絞って使用するのには効果的であることが検証できました。
また、初動時のグランドパットとしても活用ができます。
008
土留め板やグランドパットとして使用
5.おわりに
掘削現場での生き埋め、挟まれの現場では、二次災害防止が強く求められます。
今回のような災害現場では、ポイントを局所に絞り車載用土留めコンパネを使用した
土留めをすることで救助者及び要救助者への安全確保に少しでも効果的であると検証ができました。よって今後、類似した救助現場に活用していきたいと考えています。
また、土砂災害時の初動で使用するグランドパット、頭部周辺を保護することによる呼
吸確保にも使え、幅広く活用できるものと考えています。
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