月刊消防2022/02/01, 03/01
救助用三脚
岩国地区消防組合消防本部
林和成
目次
著者
林 和成 (はやし かずなり)
所属 山口県岩国地区消防組合消防本部 中央消防署
第2中隊救助小隊2分隊(分隊長)
出身地 山口県岩国市
消防士拝命 平成19年4月
趣味 野球、ソフトボール
1 はじめに
今回、月刊消防「救助の基本+α」の掲載記事を担当させていただくことになりました、岩国地区消防組合消防本部中央消防署の林 和成と申します。今回は当消防組合の救助工作車(Ⅱ型)に積載している救助用三脚のテラダプター・ポータブル・アンカー・システム(以下「テラダプター」という。)について紹介させていただきます。
テラダプターは、平成31年2月の救助工作車更新に伴って配備された資器材です。最新鋭の救助用三脚であるテラダプターについての紹介記事はまだ少ないため、今回の投稿に至りました。
2 消防組合の紹介
岩国地区消防組合は、山口県の東端、広島県との県境に位置する、岩国市と和木町で構成された一部事務組合です。管内の人口は約14万人、管内面積は瀬戸内沿岸部から中国山地の山間部までの約884㎢で、県内消防本部の中では2番目に広い管轄面積を有しています。岩国市内中心部を流れる清流錦川には、日本3大名橋の一つである錦帯橋が架けられ、その周辺にある武家屋敷や錦帯橋がつなぐ城下町とともに世界遺産への登録を目指しています。
また、管内は、山陽自動車道や山陽新幹線、山陽本線が横断し、平成24年には米海兵隊岩国航空基地との軍民共用空港として「岩国錦帯橋空港」が開港するなど、多様な交通ネットワークを有しています。
平成28年3月には、岩国市内中心部の高台にある愛宕町に、新たな防災拠点として建設した「いわくに消防防災センター」が完成、また、令和2年4月には、二つの消防施設を統合した「中央消防署西分署」の運用を開始し、1本部・1消防署・1分署・4出張所・2機関員駐在所の職員231名体制で、広大な地域の「安心・安全」を担っています。
【写真2】岩国市の位置
【写真3】いわくに消防防災センター
3 テラダプターについて
テラダプターはマンホールや井戸、山中の崖下等で発生した救助事案に対して使用する救助用三脚です。トリポッド(三脚)型、バイポッド(Aフレーム)型、モノポッド(ジンポール)型、クアッドポッド(四脚)型の設定が可能で、浅い角度や水平面への利用ができ、独自の角度調整機構と付属部品により、野外、狭い空間等、多様な救出環境に適合させることができます。
4 テラダプターの構成部品の概要
テラダプターにおける複数のシステムは、標準装備された各構成部品の組み合わせから構築することができます。主軸となるシステムは、トリポッド(三脚)型で、約3mの高さの支点を構築できます。テラダプターは、収納や持ち運びを目的とした3個の専用バッグに収納された状態で搬送が可能です。
【写真4】テラダプターの収納状態
【写真5】テラダプターの構成部品
【表1】構成部品名称
5 テラダプターの基本的な組み立て方法
テラダプターは最少人員2名で組み立て可能で、地面に寝かせた状態から組み立て始めることで、効率的に設定することができます。
• 3本のレッグを目的の高さに設定する
レッグは、パーフチューブ2つとミッドチューブ1つで構成されており、それぞれを伸縮させて高さを調整します。調整する穴は、パーフチューブに9個(1~9の数字で刻印)、ミッドチューブに4個(XとYのアルファベットで刻印)あり、ピンで接続します。
【写真6】3本のレッグ
(パーフチューブ2つとミッドチューブ1つの接続状況)
写真6は下部をミッドチューブX:パーフチューブ9、上部をミッドチューブX:パーフチューブ5で接続(高さ243cm、破断強度35kN)したものです。
• レッグクランプをヘッドに取り付ける
レッグクランプは、3本のレッグをテラダプターの軸となるヘッドに取り付ける部品で、2種類の形状があります。
【写真7】2種類のレッグクランプ
ヘッドは、2つのプレート(メインプレートとハーフプレート)が接続さ れたもので、それぞれの外周部に角度を調整する穴が10個あります。この穴の内6個の穴(アルファベットのAからFまでで表記)は、各レッグの角度を調整する穴で、レッグクランプに表記された矢印の刻印をプレートのアルファベットに合わせることにより、角度を調整します。
レッグクランプとプレートの接続は、3つのピンで固定し、一定以上押し込むとロックするよう設計されています。標準的な三脚を設定する際には、メインプレート左右にレッグクランプ2つを接続し、角度アルファベットA、ハーフプレートにレッグクランプ1つを接続し、角度アルファベットBで3つのピンをそれぞれ固定します。
テラダプターの主要となる荷重への支点は、ヘッドのメインアタッチメントピンと補助アタッチメントポイント(各プレートに1つずつ)計4箇所です。
【写真8】ヘッドとレッグクランプの接続状況(ヘッドの支点)
• ヘッドに接続したレッグクランプに3本のレッグを取り付ける
3本のレッグをセンター1本とサイド2本に分けます。
サイド2本に分けたレッグから⑵でメインプレート左右に固定したレッグクランプにピンで接続、次にセンターに分けたレッグを⑵でハーフプレートに固定したレッグクランプにピンで接続します。レッグクランプと3つ のレッグの接続場所は、すべてパーフチューブ8で接続します。
【写真9】3本のレッグをレッグクランプにピンで接続
(真ん中がセンター、左右がサイド2本)
センターのレッグをハーフプレートにピンで接続した後は、センターのレッグを保持しなければ、ヘッド、レッグクランプ及びピンに負荷が掛かるため、素早く三脚を起立させる必要があります。
• テラダプターを起立させる
高さの設定によっては、テラダプター起立後、ヘッドの支点に手が届かなくなるため、ヘッドの支点に各種ライン(ロープ等)や各種器具(滑車等)を起立前や起立途上に設定する必要があります。
• 起立後、レッグロープで三脚の開き防止を設定する。
テラダプター起立後、再度ピン等の接続に異常がないことを確認し、テラダプターの各レッグ下部のフットに、三脚の開き防止を設定します。また、開き防止を設定する際に、フットの角度が三脚の中心の向きになるよう調整します。
開き防止は、3本のレッグロープで行い、プルージックコードで長さ調整をして、ロープが少し張る程度に設定します。開き防止を設定すると、テラダプターの設定は完了です。
【写真10】テラダプターの設定完了
※備考
4で設定したテラダプターの高さ調整については、各レッグ上部のパーフチューブの長さを伸縮させることで調整し、上部のパーフチューブとミッドチューブの重なる面が多い程テラダプターの破断強度を強くすることができます。
また、テラダプターの最低高さは、ミッドチューブ1つとパーフチューブ1つで構成する3本のレッグで設定した三脚(各レッグミッドチューブX:パーフチューブ7でピンを接続)で、高さ122cm、破断強度54.2kNです。これは、収容器具(ピタゴール等)に収容した要救助者を地切りできる高さです(要救助者の体格にもよります)。
※5⑵で各レッグの角度を調整する際、三脚の角度を浅く設定すれば、高さをより低く調整することも可能です。
【写真11】3本のレッグで設定した三脚(開き防止省略)
6 付属部品の紹介
• ラッシュリング
ラッシュリングは、三脚の設置を安定させるための支点で、テープスリングやカラビナを設定できる小さな穴が円形に複数あり、パーフチューブの穴(主に先端部で使用)にピンで接続します。位置や向きは任意で接続でき、耐荷重は、ラッシュリング1つの穴の使用で、20kNです。
【写真12】ラッシュリング
• クイックラッシュ
クイックラッシュは、補助の支点として使用する部品で、テラダプターを設定するどのタイミングでも設置することがでます。接続場所は、パーフチューブの穴で、ピンで接続します。耐荷重は、真っ直ぐな牽引で30kN、左右への牽引で15kNです。
クイックラッシュを設定する際は、接続するチューブに対して、回転やねじれ等の負荷が掛からないように設定する必要があります。
【写真13】クイックラッシュ
7 テラダプターの活用例
• 立て坑救助引き上げ(三つ打ち)
テラダプターを4で記載した標準的な三脚(訓練施設の都合上、下部をミッドチューブX:パーフチューブ9、上部をミッドチューブY:パーフチューブ7でピンを接続、高さ213cm、破断強度53.8kN)に設定し、三つ打ちロープでつるべ式引き上げ救助により、立て抗内の要救助者を救出。
※環境測定、空気呼吸器の装備等省略
【写真14】立て抗救助引き揚げ(三つ打ち)
• 立て坑救助引き上げ(都市型救助資器材)
テラダプターを7⑴で記載した三脚に設定し、スタティックロープでつるべ式引き上げ救助により立坑内の要救助者を救出。パーフチューブ下部に5⑵のクイックラッシュを接続し、制動器具としてMPDを使用。
※環境測定、空気呼吸器の装備等省略
【写真15】立て坑救助引き揚げ(都市型救助資器材)
• 中州救助高取支点(都市型救助資器材)
テラダプターを三脚(エッジA)に設定し、クートニーハイラインシステムで中州の要救助者を救出。テラダプターの高取支点により、救助者及び要救助者のストロングサイドへの引き込みが容易となります。
また、サイド2本のレッグ先端部にラッシュリングを接続、左右にアズテックを展張して転倒防止(安定化)を行っています。また、テラダプターの近くにいる隊員も三脚のフットを踏み、転倒防止を行っています。
※テラダプター三脚エッジA
サイド2本のレッグは、下部をミッドチューブX:パーフチューブ9、上部をミッドチューブX:パーフチューブ5、センター1本のレッグは、下部をミッドチューブX:パーフチューブ9、上部をミッドチューブX:パーフチューブ1でピンを接続します。メインプレート左右のレッグクランプ2つの角度アルファベットB、ハーフプレートのレッグクランプ1つの角度アルファベットCで3つのピンをそれぞれ固定します(高さ213cm、破断強度42.7kN)。
【写真16】中州救助高取支点(都市型救助資器材)
• ハイアングル引き上げ救助(都市型救助資器材)
テラダプターを7⑶と同様の三脚に設定し、スタティックロープで3分の1倍力システム(ミラードシステム)を作成し、崖下の要救助者を救出。
7⑶と同様に、テラダプターの高取支点により、救助者及び要救助者の引き込みが容易となります。
【写真17】ハイアングル引き揚げ救助(都市型救助資器材) ローアングル引き上げ救助(都市型救助資器材)
テラダプターを7⑶と同様の三脚に設定し、7⑷と同様のシステムを作成し、斜面下の要救助者を救出。7⑶、⑷と同様に、テラダプターの高取支点により、救助者及び要救助者の引き込みが容易となります。また、テラダプター設定場所付近は、斜面下へ隊員を投入する際などのエッジ保護資器材がロケーション等によっては必要なくなります。
【写真18】ローアングル引き揚げ救助(都市型救助資器材)
8 おわりに
今回は、テラダプターの基本的な三脚の設定、付属部品、活用例をご紹介しました。
テラダプターを設定する際は、救助の基本である安全(安全場所での作業、自己確保の徹底)、確実(詳細な長さ及び角度調整、ピンの接続)、迅速(少人数でも素早く設定する)な活動が求められ、日頃の訓練は必要不可欠です。
要救助者を救助する際の支点の構築については、多種多様な方法と資器材があると思われますが、テラダプターがその一つの手段として参考になれば幸いです。
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