「目の前にあるものに全力を!」

 
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救急隊員日誌

「目の前にあるものに全力を!」

2018年2月25日日曜日

 もう5年は経っただろうか、高校生に「受験勉強は大変かい?」と聞いたことがある。「私の周りは受験勉強で忙しい人が多いのですが、私はそうでもありません。私は昔から保育士になるのが夢でした。保育士は短大や専門学校卒でもなれるので、大学受験をする人ほど勉強しなくても大丈夫なんですよ。今のうちに遊べるだけ遊んどきます。」

 実際に保育士として仕事をされている方が聞いたら、きっと憤慨される回答だろう。僕はこの方面に詳しくないので事実関係はわからないけど、今の自分なら分かる。大切なのは保育士になることではなく“どんな保育士になるか”ということだ。本当に彼女が保育士という仕事に憧れを抱き、夢を持って生きてきたというのなら、どうやったらなれるのかという必要条件だけを満そうとするのではなく、少しでも素晴らしい保育士になれるよう様々な経験をしたり、必要条件を満たす以上の勉強をしたりするはずだ。少なくても子供を預ける親の立場からすれば、“保育士さんはそうあってほしい”と願うであろうことは、考えればすぐに分かることである。

 ある一つの仕事を成功させようとするとき、どれが最短ルートなのだろうとつい考えてしまうし、そしてその最短ルートに向かっていくのが最良の方法だと思ってしまうけど、今になって思い返してみれば、それは私にとって必ずしも最良のルートではなかった。例えば消防団のポンプ操法指導。要領は細かいし、週3回のペースで消防団の訓練に付き合わなければならず、飲み会にも幾度となく呼ばれた。なぜ救急救命士の私が担当しないといけないのだろうかといつも考えており、私はそれを壁としてしか捉えることが出来ずにいた。その結果、真剣に指導に取り組んでいた隊員は、消防団からの信頼も厚く、親密な関係を築いていた反面、私と消防団との繋がりはいつまでたっても希薄なままだった。いったいこれまで、何度消防団と連携して活動してきたことだろう。田舎であればあるほど地域と消防団は密着しており、救急現場で消防団がバイスタンダーとして胸骨圧迫をしているなんてざらである。あのとき消防団の方達と真剣に向き合っていればもっと良い救急活動を行えたはずなのに。後悔したってもうあの時には戻れない。

 私は彼女に、短大にさえ合格すれば良いという最短ルートばかり考えずに「今、目の前にあるものに全力を注いで生きた方が良い」と話した。そして、救急救命士として生きる私の人生にとっては、目の前の壁を避けずに乗り越えていくことが最良のルートであったと説明し、おそらくこの生き方をするだけで、どこで何をしていてもあなたの成功は約束されるはずであると伝えた。

 読者のみなさんは、どんな消防吏員を目指しているのだろうか。消火のスペシャリスト、全国救助大会への出場、救急救命士。オールラウンダーもいるだろう。どうか皆さん、最短ルートや具体的手段に惑わされず目の前にある仕事に全力でぶつかってほしい。その彼女、今はずいぶん立派な保育士になって活躍していると聞いている。「今、目の前にあるものに全力を注いで生きた方が良い。」この言葉、ぜひ皆さんも手帳か何かに書き留めることをお勧めしたい。

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