140727統合失調症の原因
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140727統合失調症の原因
統合失調症は以前は精神分裂病と言われていた病気である。異常行動で搬送を要請された読者諸兄も多いだろう。統合失調症は原因不明の精神疾患で、(1)現実認識の障害によって生じる幻覚・妄想(2)思考形式の障害(滅裂した思考=他人には筋の追えない思考)(3)精神運動の減衰(意思発動性の減弱、感情の平板化、思考活動の貧困化)によって特徴づけられる。発症は思春期以降で若年発症ほど予後が悪い。だが現在は治療薬の発達により予後は改善されて来ており、慢性経過で社会復帰が不可能な症例は全体の1/3とされている。
今回は「実験医学」というおよそ救急とは関係なさそうな雑誌から統合失調症の原因についての疫学研究をお送りする。
遺伝
内因性の疾患の多くに遺伝が関与している。統合失調症の発症には遺伝の関与は50%とされている。これは家族研究、特に一卵性双生児(遺伝子が完全に一致する)で明らかになったもので、片方が統合失調症と診断された場合にもう片方が発症する割合が50%であったことから提唱されている。残りの50%は環境ということになる。単純に考えて、50%の環境因子を消滅させることができれば患者数は半分になる。
冬期出生
統合失調症患者は冬に生まれた人が多い。北半球29カ国・250以上の研究をまとめた報告では、冬から春にかけて生まれた人がそうでない人より10%多い。同様の報告は日本からも出ている。南半球では夏冬が逆転するが、同様に現地の冬(北半球の夏)の出生者が多い。また赤道地域では出生月と発症の関連ははっきりせず、緯度が高く夏と冬の寒暖差がはっきりする地域になれば季節による発症の差が鮮明になる。
冬にはインフルエンザや風邪のウイルスが流行することと、日照時間の低下が発症に関係すると推測されている。
感染症
感染症で関与が示唆されているはインフルエンザウイルスと風疹である。インフルエンザは年によって大流行したりほとんど流行しなかったりする。大流行した年に産まれた子供に統合失調症の割合が高くなればインフルエンザウイルスが発症に関与していると考えることができる。この結果、ある年のインフルエンザの患者数とその年に産まれた子供が統合失調症になる割合には正の相関が見られている。さらに、妊娠期にインフルエンザに罹患したことが血液検査によって証明できた例では、妊娠初期から中期までに罹患した場合は罹患しなかった場合に比べて統合失調症の発生危険率は3倍になることが示されている。
風疹はさらに危険性が高い。妊娠中に風疹にかかった場合、その子供の1/5が統合失調症と診断されたという報告がある。これが正しいとすると統合失調症になる危険率は正常人の10-20倍である。妊婦が妊娠初期に風疹に感染するとその子供は「先天性風疹症候群」となる可能性が高い。これは先天性心疾患、難聴、白内障を主症状とするもので、精神遅滞や網膜症といった神経疾患も症状として認められる。統合失調症も神経系の不具合と考えれば納得できる。
都市部での発育
統合失調症を発症したものは、都市部に生育した者の方が非都市部に生育した者に比べ1.7倍統合失調症を発症していたというデータがある。他の報告では農村から地方の町、地方都市、首都郊外、首都へと人口が多くなるほどその発症率は高まり、首都では農村部にくらべて発症危険率は2.4倍となった。別の報告では同様に1.97倍というデータが出ている。これらの結果から、統合失調症に関する都市部生育の危険因子の寄与度は30%と計算されている。先の遺伝が関与度が50%だから、遺伝的素因がなく田舎に住んでいれば統合失調症にはなる確率は著しく低くなる。また不思議なことに、都市に住むと精神疾患になりやすいのは統合失調症だけで、他の精神疾患(うつ病等)ではその傾向は見られない。都会の大気汚染も子供の社会的孤立も産科的合併症も無関係とされる。また移民は統合失調症が多く見られるのだが、その発症も小児期に都会という環境に暴露される度合いによって発症頻度が異なることが分かっている。都会には何があるのだろうか。
妊娠時の母親の状態
これで分かっているのは妊婦の低栄養と妊娠時の精神ストレスである。低栄養については戦時中にオランダで起きた飢餓状態に妊娠していた人はそうでない期間に妊娠していた場合より発症が2倍になった。また中国の「大躍進」による飢餓でも同様に発症率は2倍となった。またストレスについては、妊娠中に夫と死別した場合、出生後1年以内に夫が死別した場合に比べて統合失調症になる割合が有意に高かった。また望まれていない妊娠では望まれた妊娠より危険率は2.4倍となることも示されている。
これからの研究
以上が今までの疫学研究で明らかになった事項である。患者を見ていると遺伝は確かにあるし、感染症についても納得できる。冬期出生も感染症に絡めれば理解できる。都市に住むと統合失調症になりやすいというのはなぜかよく分からない。小児の疾患ではあるが発達障害(自閉症やアスペルガー症候群など)も年々発症率が増加しているのも、日本に農村が減って都会にする人が多くなったからとも思える。
精神疾患の動物モデルは現在盛んに作られているが、動物がどんな気持ちでいて何を考えているのかは感じることはできても定量できないので、動物を使った病因解明はなかなか難しい。だが疫学研究では胎児の時期に何かが起こって統合失調症になることが示されている。現在はラットの胎児の脳に操作を加えて病院の解明が試みられている。
参考文献
実験医学2010;28:2189-2210
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14.7.27/10:44 AM
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