症例12:癌性腹膜炎

 
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60歳男性
某年8月頃より嚥下困難感が出現。10月、食道内視鏡により食道癌を認めた。翌年1月開胸開腹・胸部食道全摘・頸部食道胃管吻合・腸瘻造設術施行。術後化学療法と放射線療法が施行されたが、嘔気が強いため化学療法は半クールで中断。6月、肝臓の多発転移が発見されたため肝動脈への抗ガン剤動脈注入療法が施行された。本人の希望により退院(写真1)。7月、急激な呼吸困難にて救急車出場依頼。
自宅では起座呼吸、口唇と爪床はチアノーゼを呈しており、SpO2 88%。血圧は160/98mmHg, 脈拍144/分。


Q1
病態は
Q2
もし呼吸停止した場合、バッグマスクによる補助呼吸で注意すべき点は

A1
肺炎、癌性胸膜炎による呼吸困難。
A2
嘔吐、誤嚥。
患者は食道全摘術後で、食道は途中から胃管と繋がっている。胃管とは胃を丸めて筒状にしたもので、取り去った食道の代わりとして喉と腸をつなぐ役割をしている。正常であれば食道と胃の間には噴門があり胃から食道への逆流を防いでいるのだが、胃管ではそういった正常の構造物は全て紛失している。さらに、食道と比べ胃管は太く蠕動運動に乏しいため、中に唾液や胃液・食物がとどまっていることが多い。この患者では闘病中でも非常に激しい嘔気と嘔吐に悩まされ続けたため化学療法を途中で中止せざるを得なかった。


解説
食道ガンの手術は現在でも外科における最大の手術である。患者は喉を切られ肋骨を開けられ腹を切られ、手術後には多くの場合人工呼吸が施行される。手術成績は年々向上しており、人工呼吸せずに術後を乗り切る施設も多くなってきた。
本患者の場合、発見時にはすでに食道筋層までガンが浸潤しており、手術後の検査でも付属リンパ節に転移が認められた。術後は小康状態はなきに等しく、次々と起こるイベントに振り回された末の死亡であった。
呼吸困難は前述したように胸水の貯留による。幸いにも意識がしっかりしていたため、救急隊による酸素投与で呼吸苦は改善した。病院到着後(写真2)、酸素投与と胸水穿刺・排除にて症状は改善したが、翌日には再び呼吸困難感が出現、胸腔ドレーン挿入(写真3)、モルヒネ投与を行った。その2日後に死亡した。

写真1
退院時の胸部レントゲン写真
写真2
病院搬入時の胸部レントゲン写真。右肺には葉間胸水が見られる。横隔膜が丸くなっているように見えるのは胸水である。左肺は水でほとんどつぶれている。
写真3
胸腔ドレーン挿入後の写真。胸腔ドレーンは肺のところに白い線となって見える。


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