180402上司から呼び出しを食らうその前に

 
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救急隊員日誌
上司から呼び出しを食らうその前に

2018年4月2日月曜日

 いつか後輩からパワハラと言われてしまうのではないだろうか。私のもっぱらの悩みである。上司から呼び出しを食らってしまう事態だけはなんとか避けたいが、言うことは言わねばならない。同僚とそんな話をしていると彼は「ほめ方」を工夫しているという。

 例えば、学校でひとクラスをAとBの二つのグループに分けてテストをする。Aグループの生徒には一人ひとり採点した答案用紙を返す。Bグループの生徒には答案用紙は返さず、その代わり、一人ひとり生徒を呼んで「この間のテストはよくできていた。職員室の他の先生たちもびっくりしていたよ」などと言って褒める。

 しばらくしてまたテストをする。答案用紙を返すのはAグループだけ。Bグループの生徒には前回同様、「今度も良くできていた。お前、最近すごいなあ。やる気が出てきたみたいだな」と言う。こういうことを3、4回繰り返した後でABそれぞれの平均点を出すと、Bグループの方が目に見えて成績が上がっているのだという。これは「ピグマリオン効果」と呼ばれるもので、人は、ほめられると頑張ろうという意欲が増し、学力向上や技術習得の上達に大きく作用すると言われている。

 ただ、これには注意点があって、怠けている人や努力不足の人をむやみやたらにほめても逆効果になる。大切なことは、「ほめること」ではなく「ほめ方」なのだそうだ。

 実は先日、地元のケーブルテレビに出演した。交通事故対応に関するデモンストレーションを実演し、市民に消防の活動を紹介するのが目的だった。私は救急隊長でJPTEC活動を展開し、救助隊と連携して運転席の傷病者を救出するという内容だった。撮影の際、ワンカットの度にディレクターが言う。「はい!バッチリです。言うことありません。とてもいいです」と。そしてその後で彼は必ずこう言うのだ。「えーっと。強いて言うなら最初の部分のセリフ。もう少し自然にお願いします」とか、「もうちょっと目線を前に」とか・・・。つまり全然「ばっちり」でも「言うことありません」でもなかった。だから、同じシーンを何度も何度も撮り直した。でも、その度にまたほめられるので気落ちすることはなく、むしろ「ディレクターの要求にもっと答えよう」と言う気持ちになった。

 撮影というものはこんなに時間がかかるものだとは知らなかった。5分少しのデモンストレーションだったのに、6時間は救急ガウンを脱ぐことができなかった。それでもディレクターのほめ言葉で、職場は終始和やかな雰囲気だった。

 こんなこと消防教科書には一言も書いていない。また一つ引き出し増えた。ピグマリオン効果は「頑張っている人」に対するほめ言葉の効果を説明している。つまり努力不足や怠けに対してはしっかり叱れば良い。その代わり努力の結果成功したならきちんとほめてあげようということだ。それでも上司からパワハラ疑惑をかけられたら、その上司が指導の意味を理解していないということである。そんな努力不足の上司には「叱責無くして隊員の安全が守られるとは思えない」とでも言ってやろう。もちろん「いつも親身なご指導ありがとうございます」と、ほめ言葉の前置きを忘れずに。

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