050425除細動をめぐる動向:消防職員へのAED普及に向けた取り組みと展望

 
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救急の周辺

プレホスピタル・ケア(東京法令出版株式会社)18巻第2号[通巻66号](平成17年4月1日発行)

特集:除細動をめぐる動向

消防職員へのAED普及に向けた取り組みと展望

炭谷貴博(すみやたかひろ)

南宗谷(みなみそうや)消防組合中頓別(なかとんべつ)支署

はじめに
「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用について」(平成16年7月1日付け)が厚生労働省から通知されたことにより、非医療従事者・一般市民による除細動を実施することが認められた。現場での早期除細動が可能になり、病院前で発生した突然死の救命率を大きく上昇されるものと期待される。本稿では、自分の所属での取り組みについて述べる。

改正の経過

非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)を使用した除細動の実施につては、「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用について」(平成16年7月1日付け)により救急救命士以外の救急隊や、一般消防隊員等の「一定頻度で心肺停止者に対しての応急の対応が期待、想定される者」について、以下の4つの条件を満たしている場合は、医師法違反とならないとの見解が示された。
1) 医師等を探す努力をしても見つからない等、医師等による速やかな対応を得ることが困難であること。
2) 使用者が、対象者の意識、呼吸がないことを確認していること。
3) 使用者が、自動体外式除細動器(AED)使用に必要な講習を受けていること。
4) 使用される自動体外式除細動器(AED)が医療用具として薬事法上の承認を得ていること。
その後、「救急隊員の行う応急処置等の基準の一部改正について」(平成16年8月26日付け)により示され、救急隊員の行う方法に「除細動」の項目が追加、「救急隊員の行う心肺蘇生法の実施要領」改正、「救急隊員の行う心肺蘇生等について」(平成16年8月26日付け)、また、救急隊員が自動体外式除細動器(AED)を使用するために必要な講習等について「『応急手当普及啓発推進検討会報告書』について」(平成16年12月24日付け)に示されるなど、必要な規定が追加的に整備された。
この整備に伴い、北海道救急業務高度化推進協議会より、救急隊員の行う除細動について「除細動プロトコール」が追補され、各消防において当該部分について変更し、このプロトコールに基づいた活動を実施するよう講習会を実施することとなった。

南宗谷消防組合中頓別支署の現状

自分の所属する南宗谷消防組合は枝幸町、歌登町、浜頓別町、中頓別町の4町で構成されている。
所属では2年前から署内救急事例研究会を月1回行い、全ての救急出動に関して検討を行っている。研究会では、活動の内容に関して検討を行い改善できるものは改善していき、資機材で必要な物などの検討も行っている。例えば、自分の所属の救急車には心電図モニターが装備されていない。この研究会を通して、今まで必要と感じなかったものが必要と感じるように、職員の救急に対する意識が変化してきたことを感じている。心電図モニター以外にも必要な救急資機材は他にも多々ある。その必要な救急資機材を全て一度に整備することは、今の財政状況を考えると無理である。住民の生命を守るために今何が大切か、何が必要かを検討し本当に必要な救急資機材の要望を進めていく必要がある。

救急を取り巻く環境の変化への対応
近年、救急を取り巻く環境が大きく変化している。心肺蘇生法の変更、外傷初療の標準化、メディカルコントロール体制の構築、救急救命士の処置拡大、そして今回の一般市民・救急隊員の自動体外式除細動器(AED)の使用が認められるなど、ここ数年で救急が大きく変化している。しかしながら、全ての消防本部・消防署ではたしてこの変化に全て対応できているのだろうか。残念ながら自分の所属では、変化についていけていない状況がある。
救急の環境の変化を職員に浸透させるのは、救急係担当の救急救命士が中心になって行う。この財政状況が厳しい中で、救急の情報を収集するのに講習会・研修会に全て公費で参加できる訳ではなく、その何割かは私費で参加し、その後、得た情報を職員に伝える。伝えたれた情報が職員に浸透するには、ある程度時間がかかる。情報が浸透する前に、新しい情報が次々と伝えられ、浸透されていない情報が次々と蓄積され遅れが出てくる。自分の所属ではそんな悪循環に陥っている。自分の所属は少人数であり、救急の他に消防のすべての業務を全職員がこなさなければならため、これが救急の変化への対応の遅れを招いている一因であろう。
このような状況の中、AED使用についてのプロトコールが作成され、当組合でも取り組むことになった。

当組合の取り組み

救急隊員に対する講習会は「応急手当普及啓発推進検討会報告書」の「救急隊員に対する自動体外式除細動器の講習プログラム」1)(別表1)に基づいた内容で実施する。

拡大

講師は、北海道救急業務高度化推進協議会、道北メディカルコントロールで開催された「包括的指示下における除細動実施のための合同研修」修了の救急救命士が中心に実施する。講習内容は、「自動体外式除細動器についての講習(座学)」「自動体外式除細動器の使用法(実技)」を実施する。実技については、「包括的指示したにおける除細動実施のための合同研修」の活動例を救急隊用に変更し、シナリオを作成してこれに基づいてシミュレーション訓練をする。講習会終了後の効果確認のため、筆記試験・実技試験を実施。試験方法は、各消防署・支署の代表救急救命士が、試験を行い組合内の除細動実施に係る知識・技術の統一性を図り、試験終了をもって講習修了とする。当組合では今年4月中を目途に試験を実施する予定である。
今回の自動体外式除細動器(AED)の講習・訓練を通して、職員の救急に対する意識改革、救急を取り巻く環境の変化への対応の遅れを少しでも取り戻していきたい

実際の講習

自分の所属する南宗谷消防組合中頓別支署では、現在、除細動器は整備されていないため、除細動器がどういう仕組みなのかもわからない救急隊員がほとんどである。また、上述のように救急車に心電図モニターも整備されていないため、心電図波形については、消防学校の救急Ⅱ課程・標準課程で習っただけである。そのため、講習内容は除細動器の仕組み、実際の操作方法、注意点、心電図波形の種類、除細動適応の心電図波形等細かく噛み砕いて講習を行った。
実技の訓練は、勤務の空いてる時間を利用してその日の勤務者で実施している。除細動器が装備されていないため、他の消防からAEDトレーナーを借用したり、模擬の除細動器を作って訓練を行っている。実際にミュレーション訓練を始めてみると、今行っている処置を声に出して実施しているが、声を出す方に意識が集中し手技が厳かになってしまうことがある。手技を確実に行えるよう、一つ一つの手技を確認しながら実施している。さらにプロトコールを理解できるよう心電図波形を変化させたシナリオを複数用意し様々なシチュエーションに対応出切る様訓練を実施している。
想定を与えてシミュレーションの訓練を行うことを繰り返していると、救急活動の一連の流れが固定化してしまうことがある。流れが固定化することにより、シミュレーションとは違った現場に遭遇した場合、流れがストップしてしまい、次の行動が遅れてしまうことになりかねない。こういう状況に陥らないためにも、様々な想定を与えシミュレーション訓練をしていくことが重要である。
自動体外式除細動器(AED)は、機械自体の解析精度が向上し安全性が高まっているが、使用方法を誤ったり、安全確認を怠ったりすると、非常に危険なものであることを認識し、訓練しなければならない。また、教える側にとっての訓練は「質」を担保せねばない。その結果、訓練を行う職員・指導する救命士ともついつい熱が入り感情的になる場面もしばしばであるが、現場ではお互いの命も預かっているので、人間関係が崩れるような訓練にはしたくないと考えている。
さらに、知識・技術は使わないと急速に失われる。定期的に講習会・訓練を行い、救急の知識・技術を維持することも必要である。

一般市民への講習

消防職員がAEDを使えるようになった後には、一般市民への講習が待っている。これには広報活動がポイントとなる。広報誌への掲載、人が集まる場所へのポスター等の掲示、関係団体への講習会参加依頼など地道な広報活動が必要である。講習会開催は自動体外式除細動器(AED)の性格上、救急領域であり消防機関が中心となって実施すべきであると考える。
では、人口2,000人のわが町の町民が、自動体外式除細動器(AED)を使用する日が本当に来るのだろうか。町の公共施設に自動体外式除細動器(AED)が設置されるのは、財政状況から考え非常に難しい。消防設備等のような建物の面積、収容人員などで厳しく設置基準ができれば、設置される可能性はあると思われるが、現時点では任意の設置であるので非常に難しい。しかし、だからと言って町民に対しての講習が無意味であるとは思わない。それは、町外に出かけたときに自動体外式除細動器(AED)が設置されている場所で心室細動のの心肺停止傷病者に遭遇する場合も想定されるためである。

おわりに

当町は財政状況が厳しく、救急資機材の必要性を認識していなかったため、近隣町村と比べ救急資機材の整備が非常に遅れている。今必要な救急資機材は何かを検討し整備を進めていかなければならない。その中でも自動体外式除細動器(AED)については病院外で発生した心室細動心停止患者救命のために1分、1秒でも早い細動を行える体制を構築すべきである。また、今回の講習会・訓練を機に職員の救急に対する意識改革も進めていき、救急を取り巻く環境の変化への対応の遅れを取り戻し、これからの変化にも対応しなければならないと考える。

文献
1)総務省消防庁:「応急手当普及啓発推進検討会報告書」(平成16年12月)


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