070205オーバートリアージが人々を救う

 
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070205オーバートリアージが人々を救う


書籍

消防職員のための「トリアージ」 アトラス 救助隊員のための外傷アプローチ

概念+手技+訓練

手技23:トリアージ の概念と意義 手技24:STARTトリアージ 手技59:スタート法を学ぶ 手技82:初めてのトリアージ(トリアージ訓練法):大島基靖(札幌)

トピックス

最新事情:トリアージは誰がやっても同じ 070205オーバートリアージが人々を救う 病院でのトリアージ(スライド) 手技62:トリアージとAED:最新のトピックス

災害/交通事故でのトリアージの経験

佐呂間竜巻災害(消防本部 佐竹信敏(遠軽)) 佐呂間竜巻災害(佐呂間消防先遣隊 野村林太郎(佐呂間)) 隊員の手の届かない重症外傷 応援出動を要した交通事故

写真集

070324第3回留萌管内救急勉強会in古丹別_大島OPS 060222上川北部救急業務高度化推進協議会 救急隊員研修会(OPS#31) 講義 060126第14回全国救急隊員シンポジウム 1日目 051130なかそら忘年会(OPS#29)トリアージ訓練 0501025 第1回留萌管内救急勉強会(OPS#28)ラリーA班


 2001年のアメリカの同時多発テロは現在でも取り上げられる大きな事件であった。しかし読者諸兄はスペイン・マドリッドとイギリス・ロンドンでも大きな爆弾テロがあったのを覚えているだろうか。今回はLancetにロンドン地下鉄同時多発テロの詳細な報告が出たので報告する。

多発するテロ

 現地時間2004年3月11日午前7時30分頃、スペインの首都マドリード中心部の三つの駅で4つの列車が10分の間に次々と爆弾が破裂、車両は大破した。爆弾は工事現場で使われているダイナマイトで、13ヶ所に仕掛けられたうち10ヶ所で爆発、死者191名、負傷者約1700の大惨事となった。このテロのために全世界で株が暴落、さらにこのテロの3日後に行われた総選挙でイラク派兵を押し進めていた政権は大敗し、イラクからのスペイン軍引き上げと繋がっている。イギリスの首都ロンドンでは現地時間2005年7月7日午前8時50分から地下鉄と路面バスを標的に4回爆発が起こり、死者56名、負傷者775人の大惨事になった。イギリスの場合にはこれに留まらず、わずか2週間後に今度はバスを狙った爆破事件が起こっている。1995年に起きた地下鉄サリン事件が死者11名であることを考えても、その大きさが分かるだろう。

ロンドンテロでの指揮系統

 ロンドンの指揮系統は以下のようになっている。大規模災害の場合は現場もしくは司令室から全ての救急機関へ情報が送られる。それに対する指令は金(全体の戦略)銀(個々の戦略)銅(現場での活動)に分けて伝えられ、それに沿って現地の指揮本部が組織され活動が規定される。ロンドンの主要な危機管理ブランでは銀プラン(個々の戦略)には医師が必要とされ、それら医師は王立ロンドンヘリコプター救急医学サービス(ヘリサービス)によって現地へ投入される。ロンドン地下鉄テロではロンドン広域指揮本部が9時23分に設けられた。ただちに金プランが発令され、ロンドン市内の全ての救急部門が負傷者収容の準備をした。それぞれの爆発現場に近い駅では銀プランに基づく現場指揮本部が設置された。爆発がトンネル内で起こったため最初の情報は混乱しており、最終的には現場指揮本部は8箇所に設けられた。最終的には775人が負傷し56人が死亡した。死亡者のうち即死だったものは53人であった。

トリアージ概要

 今回のテロでは19人の現場医師、ヘリサービスから8人の救命士、101台の救急車、25の現場救護所が投入された。また現場でトリアージをしたのは救命士を中心とした救急隊員かヘリサービスの救命士のいずれかであった。

 トリアージには2006年3月号で紹介したTriage SieveとInjury Severity Score(ISS)を併用している。タグは日本と違い数字の1から4としているが、理解のため色で表すことにする。負傷者は外傷の程度とバイタルサインによって単純に赤から黒のタグをつけた。このうち55人の重症患者には赤か黄を、歩ける667人の患者には緑が付けられた。2人の瀕死の患者は死亡不可避者として黒が付けられ現場で死亡した。赤と黄を付けた患者は現場救護所で1時間当たり27人の速度で処置されていった。緑を付けられた患者のうち349人は現場に設けられた応急収容所で手当を受けたあと待機させられ、重症患者が病院に収容完了したあとで病院へ搬送された。

 675床の王立ロンドン病院では赤と黄の患者27名と167名の緑の患者を収容した。緑患者は救急部門へは入れず、それ以外の部署に連れて行かれて治療を受けた。

トリアージの評価

 この論文ではトリアージが正しかったか評価を加えている。それによると、現場で赤と黄とされた患者がオーバートリアージと判定された割合は64%であった。また救急隊員がオーバートリアージをした割合は82%、ヘリサービス救命士がオーバートリアージをした割合は33%であった。さらに、王立ロンドン病院では8名の医師によって再びトリアージされている。これら医師によるオーバートリアージ率は63%であった。またこの病院では2例のアンダートリアージ例が発見されている。いずれも重症頭部外傷であった。

 さらに「防ぎ得た外傷死」の評価も行った。病院に搬送後死亡した症例は3例。2例は王立ロンドン病院で死亡しており、1例は四肢切断によるコントロール不能の出血、もう一例は外傷性ショックでショックによる心停止から脳死に至った症例であった。これら2例については後の検討でも死を防ぐとこは不可能であったと判定された。もう一例は他病院の死亡であり、重症脳外傷であった。

死者を減らすためのオーバートリアージ

 今回の爆弾テロでは過去の爆弾テロより死者が少なかったと著者らは強調している。ロンドンのテロでは地下鉄での閉鎖空間であるにもかかわらず死亡率は7%であり、解放空間であるマドリッド列車テロの9%にくらべ低い。過去に目を移しても閉鎖空間での爆発は死亡率が高く、イスラエルの自爆テロでは46%、1995年のオクラホマ爆弾事件では21%、1994年のアルゼンチンでのテロでは29%、1983年ベイルートでは68%、2001年ニューヨークでは91%の死亡率であった。

 著者らは今回の死亡率が低かった要因としてオーバートリアージを挙げている。

オーバートリアージは大災害では事故現場から患者を退避させることが優先される場合にはその率が上昇するとされる。過去のテロでのオーバートリアージ率が67%で死亡率が25-30%であったのに対し、今回の死亡率は15%であった。筆者らはオーバートリアージが死亡率を低下させた直接の関連は分からないとしながらも、技術を持つ医療スタッフが迅速にトリアージをしたことが死亡率を低下させた可能性は否定できないとしている。

 また繰り返しトリアージして見落としがないか確認することも重要である。アンダートリアージは迅速にトリアージを繰り返すことによって正しい評価が与えられていく。

恐れず、早く、繰り返すこと

 トリアージの重要性はこの連載でも繰り返し強調してきた。今回の論文で分かることは、「トリアージは間違う」ということである。ヘリサービスは大規模災害のために特別に訓練された人たちでいわばトリアージの専門家である。しかし彼らであってもオーバートリアージ率は35%もある。また救急隊員が行ったトリアージでは実に82%がオーバートリアージと判定されている。8割にも上るオーバートリアージ率であっても患者が救急部門に殺到しないのは、トリアージが要所要所で行われているからに他ならない。この報告では現場、現場指揮本部、病院内で少なくとも3回のトリアージが行われており、特にアンダートリアージについては症例を挙げることによってトリアージを繰り返すことの大切さを訴えている。

 トリアージ。死亡不可避者に黒を付けるのは勇気がいる。後でうなされるかもしれない。だが誰かがやらなければならないのだ。

引用文献

Lancet 2006;368(Dec 23):2219-25


書籍

消防職員のための「トリアージ」 アトラス 救助隊員のための外傷アプローチ

概念+手技+訓練

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災害/交通事故でのトリアージの経験

佐呂間竜巻災害(消防本部 佐竹信敏(遠軽)) 佐呂間竜巻災害(佐呂間消防先遣隊 野村林太郎(佐呂間)) 隊員の手の届かない重症外傷 応援出動を要した交通事故

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08.10.12/9:01 AM

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