080413蘇生に家族が付き添うということ
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080413蘇生に家族が付き添うということ
蘇生時に家族がいるのは救急隊では普通のことだろう。しかし病院では蘇生中ずっと家族が付き添っていることはまずない。だから、家族に見られながら蘇生を続ける救急隊員のプレッシャーはいかばかりだろうと思う。今回は救急現場から離れて、蘇生中の家族の付き添いについて考えてみたい。
付き添いは「いいこと」
1987年に付き添いの有効性を示した初めての論文が出されている。ここでは蘇生現場で患者に付き添った経験のある一般人47人へアンケートを実施した。結果として、このような蘇生の機会があればまた付き添いたいと答えたのが94%、看取ることや悲しいことを経験することによりCPRの大切さに気付くことができると答えたのが76%、死にゆく患者にとっても親族が横にいることが大切と答えたのが64%と報告している。その後いくつもの論文が出て、蘇生中に家族が付きそうことはいいことと宣伝されてきた。2000年以降、付き添いはガイドラインにも勧告されている。
スタッフはできれば敬遠したい
しかし全例で家族を救急室に入れて蘇生中の最初から最後まで見せている病院はほとんどないだろう。
2005年の段階では蘇生時の付き添いは家族にとって好ましいと考える医療従事者は63-88%に上った。しかし好ましいのと自分が許可するかは別である。アメリカの学会場で参加者にアンケートを試みた報告がある。それによると、付き添いを好ましいと考えている医療スタッフは参加者全体の2割にも満たなかった。蘇生対象が成人の場合には20%の回答者が付き添いを望ましいとしているのに対して、蘇生対象が小児の場合には14%しか望ましいと考えていなかった。これを職種別に見ると、付き添いが望ましいと考えているの医師は成人対象で20%、小児対象で14%であったのに対して、看護師だと成人対象が43%、小児対象が17%と医師より数字は増える。
付き添いのメリット
家族が付き添うことを推進している論文の主張は、死にゆく人も家族の一員でありその死の痛みは家族全員で共有すべきであること、立ち会った人は次には良いバイスタンダーになる可能性があるとする。医療に参加するのは患者の権利でありプライバシーの一部であるという主張もあるし、「立ち会うことによって医療スタッフと家族の絆が深まる」というものもある。医療スタッフについては監視の目があることにより手技が向上するとともに、自分たちの医学的リスクを考察しそれを少なくするよう努力するようになるとしている。さらに医療スタッフが言葉を選び、ブラックジョークを避け、患者自身のプライバシーや痛みに対しても強く考慮するようになるとしている。
家族は心肺蘇生という悲惨で助かる見込みのないイベントに参加することで死を受け入れやすくなる可能性はあるかも知れない。しかしこれらメリットとしてあげられているものは論文を書いた人の主張ばかりで客観的なデータはほとんどない。データとして一つあるのは死の受容といった心理的な影響について前向き研究をしたもののみであり、それによれば付き添いのあるなしで差はなかったとしている。
付き添いのデメリット
家族を拒む最大の原因は「家族は蘇生に混乱をもたらす」というものである。次に多いのが「家族の心的外傷をもたらす」。さらに訴訟リスクが高まると主張するものもある。
現在に至るまで家族がいたから混乱したという論文は見当たらない。しかし論文になっていなくてもスタッフのストレスが増えることは自分の経験からいっても間違いない。これは医師が付き添いを拒む理由の87%、看護師が付き添いを拒む86%の理由となっている。これとは逆に、家族の付き添いはストレスにならないという報告もわずかだが出ている。家族の心的外傷については、最初に付き添いが紹介された1987年の時点で、蘇生に付き添ったことのある18家族中13家族(72%)が蘇生に付き添えたことに満足していると回答した。法律的な問題に巻き込まれる可能性を指摘するのは医師、看護師ともに71%が認めている。またそこにいる親族に説明が不足することによって親族が蘇生過程に不満を漏らす可能性も指摘されている。
自分ならどうするか
この稿を読んでいる読者諸兄。あなたが家族の付き添いを許可できる立場だとすると、付き添いを許可するだろうか。一度蘇生の付き添いを経験のある医療スタッフで次回も付き添いを許可したいと考えているのは半数に過ぎない。過去に蘇生現場の経験のないスタッフは42%が付き添いを許可したいと回答したのに対して、過去に蘇生現場で働いた経験のあるスタッフで家族の付き添いをこれからも許可したいと述べたのは22%に過ぎなかった。家族についてもこの傾向は同じで、一度蘇生に付き添った経験のある一般人で次回も自分もしくは家族が蘇生に付き添いたいと答えたのはの2/3で、1/3は蘇生に付き添いたくないと答えている。
自分が蘇生をしているときにはだいたい勝負がついたときに初めて家族を救急室に招き入れている。これまで書いたメリットとデメリットを理解しても、たぶんこれからも変わることはないだろう。目の前に倒れているのが自分の家族だったらどうするだろう。もしそれが交通事故だったら。正直なところ、その時にならないと分からない。
参考文献
Chest 2002;122:2204-11
J Advanced Nursing 2008;61:348-62
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08.4.13/11:10 AM
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