091002ネックカラー新時代
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091002ネックカラー新時代
外傷初療ではネックカラーは必須のアイテムで、頸椎へ何らかの外力が加わった場合には必ず装着するものである。しかしネックカラーの効果については懐疑的な意見が多く、この連載でも否定的なことしか書いていない。しかし、ようやく頸椎保護できるネックカラーが登場したので紹介したい。
25年前から知られる欠点
ネックカラーを着けられた読者諸兄は多いだろう。どれだけ固定されるかと思ってたら、下も向けるし振り返ることもできる。外傷セミナーでインストラクターたちは「真ん中を決めて」とか「指で高さを確認して」とか一生懸命展示してくれるが、こんなに首が動くのに正確に装着する必要性はあるのだろうか。
ネックカラーに頸椎の動きを妨げる働きがほとんどないことは、すでに1983年には報告されていた。この論文1)では、スポンジでできたソフトカラーとプラスチックでできたハードカラーとを比較し、ハードカラーのほうが頸椎の動きを妨げる効果は大きいが、その効果は満足にはほど遠いレベルであり、最も優れた固定方法は耳の横に砂袋を置くことであるとした。また、砂袋とネックカラーを組み合わせて使うと頸椎の動きが有意に抑制できるとした。ここから現在の砂袋(ヘッドイモビライザー)+ネックカラー+バックボードの組み合わせが広まったようである。
ネックカラーは有害
25年間、ネックカラーはバックボードと一緒なら使える、ということで現場に広まっていったし、その立場に安住してネックカラーは改良を放棄したように見える。2004年当時には市場に3社のネックカラーが出回っていたが、見かけは似たり寄ったりで、カラーの高さの調整方法に違いが見られるくらいであった。ボランティアにログロールやログリフトを行って頸椎の動きを見た研究2)でも、3社のカラーの性能はほぼ一緒で、しかもネックカラーを着けないときとほとんど変わらないだけ頸椎が動いてしまっている。
しかし同時期に出た報告は驚くべきものであった。本当に頸椎が損傷している場合には、ネックカラーは有害に作用する可能性を示したからである。論文3)では死体を用い、頸椎の靱帯を切断して実際の頸椎損傷を再現した上で、ネックカラーの頸椎保護作用を検討した。ネックカラーはソフトタイプとハードタイプを用意し、体位変換による頸椎の動きを測定した。その結果、ネックカラーには頸椎保護作用を全く認めなかっただけでなく、逆に頸椎の動きを有意に大きくした。これはネックカラーの縁が骨折部に当たり、そこが支点となって頭が落ち込むためとされた。これは限られた場合ではあろうが、このような可能性もあることを注意する必要がある、と著者らは述べている。
手で頭を持つほうがいい
ネックカラーと用手保持を比較した論文もある。喉頭鏡で喉頭展開するときの頸椎の動きを、ネックカラーと用手保持で比較したものである。その結果、用手保持では頸椎の動きが減少したが、ネックカラーでは減少は見られなかった4)。しかしこの用手保持も無効であったという報告がいくつかあり、それほど頸椎保護に効果があるものではないようだ。
Xcollar 5)
日本ではこの原稿が出るくらいに使用認可が下りる新しいネックカラーの商品名である。自分に装着し驚いた。全く首が動かない。
寝ころんでいる知人に着けたら立ち上がれなくなった。首が動かないばかりでなく、顎が動かないので満足に話もできない。驚くべき固定力である。
これを使えば、ネックカラー装着後の頭部保持も、もしかしたらヘッドイモビライザーも不要になるのではと思わせる強さであった。
この固定力は顎から胸へと、うなじから背中へ伸びる2枚の「つば」によって実現されている。また襟も高くなって頬まで達している。もし挿管など開口が必要になったときには首の前でX状に交叉している二本のマジックテープを剥がせば簡単に固定は解除できる。
しかしいいことばかりではない。カラーを着ける方法が今までのものと全く異なり、手数も多く必要である。そのため装着には今までのものよりは少し時間がかかるが、慣れれば今までのカラーと大して変わらない時間で装着できるとのことであった。
Xcollarを着けられると首が動かなくなる。座位と仰臥位で首がどれだけ動くかボランティア25名を用いて測定した報告6)では、用手で頭を保持していないのにもかかわらず、上下左右に最大で1-1.5cm、平均にすると1cm未満しか動かせなかった。これは一般的なネックカラーと比較して有意に少なかった。この結果を受けて筆者らは、最終的にはヘッドイモビライザーを用いてバックボードに固定されるにしても、Xcollarは今までの用手的頸部固定に変わりうる有力な資器材であると結論づけている。
煩雑さを補って余りある効果
このXcollarについて、日本の代理店であるコーケンメディカルに話を伺ったところ、日本ではどれだけ売れるかわからない、と弱気な返事が返ってきた。ほぼすべての消防にネックカラーが行き渡っており、それらは使い捨てとされながらよほど汚れない限りは再利用可能なので、新しい製品を買ってもらう余地はないのでは、という判断だそうだ。それに値段も今までのものの倍はするし、構造もそれほど強くなさそうなので再利用は限られるかも知れない。
だが、あの固定力は倍のお金を出しても買う価値のあるものだと思う。代理店には、人件費をかけてまでも熱心に売らなくてもいいから、製品引き上げはしないで欲しい、Xcollarが欲しいときに簡単に手に入るようにお願いしたい。
文献
1)J Trauma 1983;23:461-5
2)Spinal J 2004;4:619-23
3)Can J Surg 2004;47:251-9
4)Ann Emerg Med 1986;15:417-20
5)http://www.xcollar.com/
6)Prehosp Emerg Care 2009;13:256-60
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09.10.2/5:37 PM
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