100207匂い

 
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救急隊員日誌

100207匂い

作)たんぽぽ



救急車が老朽化の為に更新され、この程納車され新しい車両での活動が始まりました。

そんな折、「新しい車は新車の匂いがして気持ちいいよね。救急車も新しい匂いが心地いいでしょう。」と友人から言われましたが実感がありません。匂いを気にしなかったというよりも、新車の香りが強くないのでしょう。納車までに、様々な艤装を施され、たくさんの工程を経て、多くの作業員の手にかかります。業務が開始されると、すぐにアルコール等での消毒や、時には消臭剤も捲かれる車内。言われて初めて気がつかされた、新しい救急車の新車独特の香りを感じないのも、うなずけます。救急車で感じる匂いには、強烈な思い出があります。

私の住んでいる町は、漁師町で数多くの水産加工場があります。作業中の漁師さんを搬送した時や、水産加工場勤務の方を搬送した後は、しばらく魚の香りなどが車内に漂う事があります。

水産加工場の一つに、前近代的な施設で稼働している所があります。今の加工場は衛生管理が徹底しているので、査察等で訪問した際に、消毒の香りしか感じないような施設がほとんどですが、その加工場だけは昭和の大昔に戻ったと錯覚するような作業場です。とても衛生的とは言えない環境で、当然香りというより悪臭が強烈です。

ある日の夕刻、その水産加工場から119番通報がありました。作業所内で50代の男性作業員が、高さ2m位の所から転落し頭を打ったので救急車をお願いします、という内容でした。

詳しい状況は不明ながら、資器材を準備しながら現場へ向かいます。そんな中隊員が、「あそこは臭いんだよな・・・」とつぶやきます。その一言を聞き、私も機関員も強烈な悪臭とも言えるような香りに包まれた現場に覚悟を決めました。

現場に到着し一同絶句。衛生的とは言えない作業場ですが、なんと床一面に、魚を加工する工程で出る内臓や頭が散らばっています。そして加工した魚を洗い流した水が、排水溝ではなく床面を流れています。その上に傷病者が仰臥位で横たわっていました。

幸い意識も清明で頭部にも主だった外傷はなし。しかし、転落し頭を打ったということは、頸椎損傷の可能性も考慮にいれて、ネックカラーを装着・・・等と考えていた私たちでしたが、資器材を床に置くことも観察の為に膝をつくことも出来ないような状況です。バックボードを持ち込んでいたのですが、直ちにスクープに変更。とてもログロール出来る状態にはありません。バイタルを取ろうにも、傷病者は魚の廃棄物と汚水まみれです。スクープで傷病者を車内に収容し、収容後汚れた上着を脱がせ観察と処置をする事にしましたが、床面は汚物と汚水でヌルヌルの状態、活動も思うように進みません。

悪臭と足元の悪さに悪戦苦闘し、なんとか車内収容し観察と処置。傷病者の状態に異常はなく、聞けば足元が悪く作業していたところから滑り落ちただけで、それに驚いた周りの人が救急要請したとの事でした。

帰署後の清掃で、飛び散った汚物や汚水を徹底的に洗浄・消毒、消臭剤のボトルが空になるほど噴霧しましたが、異臭は全く消えません。搬送先のいつもは饒舌な看護師さんも、思い起こせば何故か無口でした。結局その日は、以後半日程救急車の運航を停止し、換気と消臭を徹底的に行いましたが、車庫に行くだけでその加工場の匂いが漂う状態が数日続きました。

運転席周りにほんの少し残る新車の匂いを感じながら、今でも同じ状況で作業をしているあの水産加工場は、品質に問題はないのか保健所の指導はクリアしているのか等と余計な事を考えながら、早く新しい車両に慣れようと奮闘中です。




興部進歩の会OPS|病院前救護・救急医療勉強会 おこっぺしんぽのかい オーピーエス

10.2.7/4:35 PM

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