101217 CPRファーストの効果
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101217 CPRファーストの効果
「ガイドライン2010徹底解説」近代消防社からイラスト満載で2011年6月発刊
CPRファーストの効果
ガイドライン2010(G2010)は日本では10月19日に発表になった。もうご覧になった方もいるだろう。。またG2005の結果も次々と報告されてきている。今回はG2005で30:2の次に大きな変更となったCPRファーストについて、まとめとなる報告が出たので紹介する。
CPRファーストもショックファーストも同じ
この論文1)は過去に発表された研究を横断的に検証してエビデンスを出すメタ解析という手法を用いたものである。筆者らは1950年から2010年までに発表された論文1503編について検討し、CPRファーストとショックファーストでどちらが優れているか調べた。検討対象とする論文は前向き無作為割り付けのものとした。検討した最重要項目は生存退院率であり、次に心拍再開率、精神神経状態が正常もしくはそれに準ずるもの、1年後の生存率とした。
検索した年代は幅広いものの、実際に採用になった論文は4編しかない。古いものではCPRファーストを知らしめたWikの論文(2003)、最近ではJostが出した論文(2010)がリストアップされている。
これら4つの論文で対象となった症例数は1503例。4つの論文をまとめてもCPRファーストとショックファーストで差は見られなかった。個々の項目を見ていくと、自脈の出現率がオッズ比1.01と全く同じ、生存退院率のオッズ比が1.1とCPRファーストでわずかに有利、神経学的良好患者の割合がオッズ比1.02で全く同じ、1年後の生存率はオッズ比1.38でCPRファーストがやや有利であった。オッズ比とはある項目が他の項目に比べて何倍有利か示すもので、競馬のオッズと同じである。オッズ比では差があるように見えるのだが、統計学的検討ではCPRファーストとショックファーストで差の出た項目はない。
次にCPRファーストの根拠となった、覚知から現着までを5分で分けて検討してみた。覚知から現着時間が5分以下の症例では自脈再開率・生存退院率・神経学的後遺症はすべて有意差なし。5分を超える場合には自脈再開率は有意差なし、生存退院率はWikの2003年で有意差ありとされた項目であるが4つの論文をまとめると有意差なし、神経学的後遺症も有意差は見られなかった。助かる人はどんな方法でも助かる、ということなのだろう。
ショックファーストは有効なのか
この論文の筆者らが採用した4つの論文のうち検討項目で有意差を認めているのは、Wikが2003年に発表した「現着5分以上でのCPRファーストの有用性」だけである。4つの論文を合わせるとその有意差が消えるのはひとえに症例数が少ないからに他ならない。Wikの患者数は202人であり、最も人数の多いJost(2010)が845人である。単純に考えれば、多くの症例数から導かれた結果は少しの症例数からのものより全体に与える影響は大きくなる。
CPRファースト、ショックファーストに関係する過去の論文は多い。早いものでは1992年に犬を用いた動物実験が行われており、1999年にはCPRファーストが有効であるという論文が発表されている。動物実験ではCPRファーストで有効であってもヒトでは有効でないのは、初期の動物実験では通電により心室細動を作って心停止をしていたからだとされる。ヒトでは突然心室細動になるのではなく、心筋梗塞で心筋虚血が起きる結果として心室細動になる。そのため現在では冠状動脈を閉塞させて虚血させることによって心停止を起こさせる方法が採られている。またヒトでは心室細動の時間はまちまちであり、動物のように決まった時間ではないことも、動物実験のような明快な結果が出ない原因とされる。
ヒトに関しては、G2005になってからは大規模な症例を集めた論文が発表されており、2008年には除細動の前に胸骨圧迫を200回連続して行うことによって生存退院率が1.8%から5.4%に上昇したという驚くべき論文も発表されている。しかしこれらは前向きの無作為割り付け研究ではないため、今回は4つの論文に絞って検討した。もう少し論文が出てくるか、論文の採用基準を変えれば結果も変わったものになる可能性はある。
メタ解析の限界
エビデンスが重要とされるようになった10年前からメタ解析は広く行われるようになった。エビデンスを追求した論文集(コクランデータベース)は全編メタ解析で覆われている。メタ解析で作られた論文の利点は、読者がそれぞれの原典に当たらずとも簡単に真偽のほどを比較できることである。ある事象について結果が異なる時、論文が少なければ全部読めばいいだろうが、これが10も20も論文があれば、普通の人ならとても目を通す余裕はない。それら大量の論文を、知りたい人に代わって読んでくれて結論を出してくれるのがこのメタ解析である。
このメタ分析、致命的な欠点がある。それは情報の二次加工に過ぎない、と言うことである。メタ解析にはオリジナルはなく、新しい発見もない。今回の論文1)も、採用された4つの論文を一瞥しただけで有意差はなさそうだ、と見当が付く。さらに、解析の対象となる論文、今回はWikの論文などでは、その発表の段階でデータは選択され加工される。もしそこでデータが恣意的にゆがめられていたのなら、メタ解析を用いても正しい結果を導くことはできない。結局のところメタ解析はまとめるための方法であって、その限界を知った上で論文を読むのが正しい態度である。
文献
1)BMC Medicine, 2010,8:52
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11.1.4/7:49 PM
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