120131春の事故:除雪機による事故

 
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春の事故:除雪機による事故

杉 山 祐 二
すぎやまゆうじ

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所属:留萌消防組合消防署小平支署
出身:留萌市
消防士拝命:平成17年4月1日
救命士合格;平成16年4月
趣味:音楽鑑賞、スポーツ

はじめに

冬から春にかけて、積雪地では降雪による交通事故や落雪事故、雪下ろし中の転落事故など、雪による事故が多く発生します。

ここ北海道は全域が豪雪地帯であり、当消防本部の管轄区域である小平(おびら)町は特別豪雪地帯の指定を受けております。この時期、除排雪作業に昼夜奮闘することとなりますが、中には除雪の苦労を少しでも軽減させようと、家庭用除雪機を所有する方が増えてきています(写真1)。

また、農家などでは大型の除雪機(写真2)を所有し、広範囲にわたる除雪を行っています。

除雪機は正しい方法で使用していればとても便利な機械ですが、使用方法を間違えると死亡または重大な事故につながる恐れがあります。
今回、除雪機の下敷きとなった救急・救助事案が発生したので紹介いたします。

除雪機による事故

回転部分(オーガ、ブロア)への巻き込みによる事故や後退時に障害物に挟まれる事故、転倒し除雪機に轢かれる事故が多く発生しています。

まず、回転部分による事故についてご説明させていただきますが、家庭用除雪機では安全装置が装備されており、操作中に手を放すことで機械が停止する仕組みになっています。

そのため除雪クラッチに針金やマジックテープを巻き付け回転部分が作動している状態(写真3)とし、

雪を放り込みながらの作業(写真4)中や、回転部分に詰まった雪を取り除く際に手や足を回転部に巻き込まれて受傷する事故があります。

使用書には必ずエンジンを停止してからメンテナンスを行うこととなっていますが、慣れや面倒なことから、エンジンを掛けたままの状態で危険な行為をしてしまいます。

機械に巻き込まれた場合、皆さんも想像ができると思いますが、手指の切断、最悪四肢の切断も起こりうる事故となります。

次に、除雪機に轢かれてしまう事故ですが、前述したように手を放すと停止する仕組みの家庭用除雪機ではあまり見られませんが、大型の除雪機になると安全装置はなく、クラッチを切るかエンジンを止めない限り機械が停止することはありません。前進での作業では轢かれることはありませんが、後退時には壁などの障害物と機械に挟まれる事故も発生しています。さらに転倒した場合はなす術もなく轢かれることとなります。

大型の除雪機は約300kg~500kgとかなりの重量があるため、事故が起きた場合は人力ではどうにもなりません。

またキャタピラーでの駆動であり、滑ることなく進み続けます。自分で操作ができなくなった時点でどうすることもできない状態となってしまうのです。

事例

3月中旬、この時期北海道の農業者は春の雪解けを少しでも早めるため、畑に融雪剤を撒き、または除雪機による除雪作業を行います。本事例も農業用ハウスを建てる場所の除雪作業中に起きた事故です。

覚知10:13 近所の住人からの通報で「○○さん(夫)が自宅前の畑を除雪中に、除雪機の下敷きになっていると○○さんの奥さんから連絡を受けましたので救急車をお願いします」とのことであった。

詳細は不明であり救急車の出動と共に救助工作車も出動しました。

現場到着時、既に傷病者は近所の住人により大型除雪機から救出されており、座位の状態でいました。

状況を聴取すると、除雪機を後退させている際に、雪に足を滑らせ転倒し*1、後退してくる除雪機の下敷きとなった*2とのことでした。

またキャタピラーに左手を巻き込まれたとのことでした。(写真5、6)

受傷時すぐに、その場に居合わせた妻がエンジンを停止させ近所の住人へ119番通報を依頼し、助けを求めたものでした(救出までの時間約20分)。

観察すると、意識レベルはクリア、骨盤動揺は認めず、腰部への痺れを伴う疼痛、両下肢に腫脹、末梢に痺れ、左手背部に皮膚圧挫(デコルマン損傷*3)を確認しました。

高濃度酸素投与、左手背部を直接圧迫止血及び被覆、バックボードにて全脊柱固定を実施し車内へ収容しました。

車内の観察では脈拍81回、血圧120/84mmHg、SpO2?100%、心電図所見異常みられず。車内にて容態変化なし。継続観察を行いながら病院へ収容しました。

実際の写真:救出後の現場

事故現場を確認すると緩やかな傾斜となっていました(写真7)。

数名の近隣住民により、何とか機械を持ち上げ(傾け)傷病者を救出したそうです。
傷病名: 左上肢・両下肢圧挫

解説

*1 操作方法、注意書きです。(こんなことが書いてあります)
(1)作業を行う前には、必ず取扱説明書をよく読んで、正しい使い方を理解しましょう。
(2)雪詰まりを取り除くときは、必ずエンジンを停止し、回転部(オーガ、ブロア)が完全に停止してから雪かき棒を使って行いましょう。
(3)回転部に近づくときは、必ずエンジンを停止し、回転部が完全に停止してから作業を行いましょう。
(4)発進時は、転倒したり、挟まれたりしないよう、足もとや後方の障害物には十分注意しましょう。
(5)除雪作業中は、雪を飛ばす方向に人や、車・建物がないことを確認しましょう。また、除雪機の回りには絶対に人を近づけないようにしましょう。
(除雪機安全協議会の注意喚起事項より引用)

とにかくエンジンを止めることが肝心だということです!

*2 重量物による圧挫
四肢、臀部などの筋肉の豊富な部位が強い圧迫を受け挫滅されたりすると、その部分に血液が流れにくくなります。そのため、その部分の筋肉がむくみ、筋肉内の圧が上昇して、さらに血液が流れにくくなってしまうという悪循環が生じます。
一方、圧迫が取り除かれて筋肉に血液が流れ出すと、壊死した筋肉からカリウム・ミオグロビン・トロンボプラスチン・乳酸などが流出し、血液中の量が増えて、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、播種性血管内凝固症候群などがおこります。とくに危険なのは高カリウム血症で、急速な心停止をおこすことがあります。
筋肉の圧迫にともなっておこるこのような全身状態の障害を挫滅症候群(圧挫症候群)といい、家屋の倒壊、列車事故などで広い範囲の筋肉が2時間以上も圧迫され続けたときにおこります。
1995年に発生した阪神・淡路大震災のおりに注目されたもので、救出されてから治療を始めるまでの時間が患者さんの明暗を左右するといわれています。救出の際に圧迫されていた部位の痛みなどを訴えることはありませんが、救出後しばらくすると、圧迫されていた部位の麻痺、感覚障害(とくに痛覚と触覚の消失)、むくみがおこってきます。尿が茶色に変わり、尿の量も減少するという特徴があります。

*3 デコルマン損傷
交通事故などの際、皮膚・皮下組織が回転するタイヤなど、強い牽引力によって筋組織から剥脱されて生じる皮膚損傷です。
左手背部の出血量は少なく直接圧迫止血にて止血しましたが、効果が不十分な場合や出血面が広く直接圧迫止血が困難な場合は駆血帯などを用いた間接圧迫止血も考慮した方が良いようです。ただし間接圧迫止血は第一選択ではありません。

考察

今回の事例では、事故発生直後に発見され家族や近所の住人により傷病者を素早く救出できたことが幸いであったといえます。また、接地面がコンクリートやアスファルトではなく柔らかな雪上であったために機械との空間が生じたこと、転倒した場所が両キャタピラー間であったことなどが考えられ直接外力が傷病者へかからなかったことも大事に至らなかった要因ともいえます。

今回の事例で使用された除雪機には安全装置がなく、機械から手を放しても動き続けるものであり、体に重く伸し掛かり圧迫し、更にキャタピラー部が左手を巻き込んだものでした。

おわりに

除雪機による事故は、降雪地域での冬期間にかけて起こる特有の事故です。

また事故に遭う傷病者の年齢は高齢の方が多く見られ、注意力の低下や体力の衰微、また操作ミスなどが原因で起こっています。

降雪地域の消防本部の方は、この機会に除雪機の特徴を覚えていただけると幸いです。


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12.4.14/1:19 PM

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