120526山菜採りで行方不明になった事例

 
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120526山菜採りで行方不明になった事例

講師

氏名:渡部 修(わたなべ おさむ)
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所属:富良野広域連合上富良野消防署
年齢:30歳
出身:富良野市
消防士拝命:平成12年4月1日
救急標準過程:平成14年3月終了
趣味:ドラム・バイク

特異事例

山菜採りで行方不明になった事例

富良野広域連合上富良野消防署
消防士長 渡部 修

【はじめに】

写真1
落葉きのこ

北海道は山間部が多く、春になると行者ニンニクやフキ、ウドなど、また秋になると落葉キノコやエノキダケなどの山菜が多く採れます。そのため山菜採りシーズンになると、山菜等を採りに山へ行く人が増えます。しかし、山菜採りをする人は山岳登山者にくらべ軽装で山間部に入り、また、山菜採りシーズンの北海道は朝晩の冷え込みが厳しく、天候も変わりやすいため、山間部で道に迷うと命を落としてしまう危険性もあります。筆者は秋に落葉きのこ(写真1)採りではぐれた行方不明者の捜索に携わり、第1発見者として行方不明者に接触しましたので紹介したいと思います。

【消防法の中での捜索活動の位置付け】

事例紹介の前に、消防関係法規内での捜索活動について考えたいと思います。捜索活動は本来警察業務と考えている方も多いと思います。警察の捜索活動は警察法の中に標記されています。では、消防は消防組織法の中に標記されていますが、そこには「消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うことを任務とする。」と記載されています。ということは、消防は傷病者がいる場合また傷病者の発生が予測される場合に捜索活動を行うことできます。ここからは私の考えですが、社会的な部分を見ると、住民感情もあるため傷病者がいなくてもできる限り(地域の消防力が低下しない程度)警察に協力するのがよいと思います。

【上富良野町の概要】

 写真2
さわやかな紫色の花ラベンダー

上富良野町は、北海道のほぼ中央部、東経142度41分25秒、北緯44度32分55秒に位置し、北から東にかけて美瑛町と新得町、南富良野町、南から西にかけては富良野市と中富良野町に隣接しています。上富良野町では7月半ばを過ぎると真夏の陽光をいっぱいにうけ、さわやかな紫色の花ラベンダーを見事に咲かせます(写真2)。

写真3
日の出ラベンダー園

その新鮮な芳香は十勝岳のふもと一面に漂います(写真3)。

かれんながらも高き理想と気品を誇るラベンダーは、人の心を癒す和やかさがあり、人生に希望と勇気を与えます。上富良野町の人情深さと温かい思いやりのあるまちを象徴するにふさわしく、広く町民に親しまれています。

【概  要】

9月のある日に北海道警察富良野警察署より情報提供という形で、「北海道空知郡上富良野町西9線北24号付近でキノコ採りの4名のパーティーが入山し8時50分までに3名は下山したが1名が戻って来ていな。」と上富良野交番に通報が入りました。通報内容では詳細が不明な部分が多く、「現在上富良野交番勤務の警察官が現地に向かっている。」とのことでした。また、追加情報では、「このパーティーは下山時間を決めず入山したため、行方不明者は現在もきのこを採っている可能性も高い」とのことでした。

9時55分に北海道警察富良野警察署より上富良野消防署に捜索活動の要請が入り消防が本格的に活動を開始しました。

【出動状況】

写真4
当日の装備

まず、9時56分に上富良野消防署職員を招集。招集した職員が活動準備等を実施(写真4)。行方不明者が発病・ケガ等をしている可能性もあり、またこの日の天候は雨で消防覚知時の気温15.3℃とやや肌寒く行方不明者の体力消耗も考慮し、10時18分に救急車1台(隊員3名)を先行させました。その後10時23分に人員輸送車にて隊員7名が出動し、私は後続隊の連絡車で隊員2名と共に出動しました。

【活動内容】

写真5
高さ1.5m-2mほどの笹が生い茂る現場

現着後、関係者及び警察官と合流し、関係者から情報聴取、警察官と現場指揮本部を立上げ情報の共有化、捜索方針等を検討しました。10時37分消防職員10名、警察官8名により捜索を開始しました。捜索方法にあっては捜索隊が横一列になり隊員間を約5mとり、人海戦術により捜索する方法でした。その後10時48分、私が出動した後続隊が現着し、現場指揮本部で活動の内容、傷病者状況を聴取し、私を含めた隊員2名で入山し、一番近くにいた先行隊の隊員と接触し、現在の活動内容を聴取しました。しかし、現場は高さ1.5m-2mほどの笹が生い茂っていた(写真5)ため、

写真6
5m離れた隊員の声は聞こえるが姿が見えない

約5m離れた隊員の声は聞こえるが姿が見えない状況でした(写真6)。そこから約100m下ったところで呼びかけをしながら捜索していると、呼びかけに返答する声が聞こえたため、さらに約150m下った視界の開けた所で12時00分に行方不明者を発見しました。

写真7
入山場所と発見場所

【発見時の状況】

行方不明者は私達の姿が見えた所で私達に近づき、「道に迷いました。」と返答したため、歩行可能、意識清明と判断し、状況及び主訴を聴取したところ、「キノコ採りに夢中になり、仲間とはぐれた。ケガはなく、喉が渇いたため、近くの沢(水たまり)まで下がり、水を飲んでいたところ声が聞こえた。」とのことでした。隊員が装備していた飲料水を手渡し、トランシーバーにて現場指揮本部及び各隊に状況を周知し、現場指揮本部まで行方不明者を誘導し(写真7)活動を終了しました。

【今後の反省点】

今回私が経験した事例での反省点は捜索者自身の装備品が少なかったことです。私が携行していたのは、トランシーバー、飲料水、携帯電話のみで、行方不明者がケガをしていた場合、ましてやCPAだった場合の対応が不十分であったと思います。また、行方不明者発見時に、発見した場所を携帯電話のGPSを使用し特定しなかったため、正確な位置情報を現場指揮本部に伝えられなかったことが今回の反省点です。今回の反省点を踏まえ、普段から出動時に携行できるように、着替え、飲料水、携行食、皮手袋、筆記用具、三角巾、ガーゼ、保温シート等が入ったバックを用意し、捜索活動だけではなく普段の消火活動等にも持参するようにしています。

【おわりに】

今回の事例は幸いにも行方不明者が単に道に迷ったための捜索活動のみでしたが、発見までが数日間にも及んだ場合、行方不明者の命に係る事態に陥っていたかもしれません。また、現場指揮本部(入山場所)から行方不明者発見場所が数百メートルの場所という比較的近い場所での遭難でした。草木が生茂っている場合、比較的近場でも道に迷い遭難してしまいます。しかも山菜採りをする方は登山者に比べ装備が軽装の傾向があります。登山者同様に、最低でも携行食、着替え、携帯電話、GPSなどを装備することが良いと思います。最近の携帯電話にはGPS機能が付いており、最悪、電話に出ることができない状況でも携帯電話のGPS機能を使い、携帯電話の位置情報を知らせるサービスなどがある様なので活用してはいかがでしょう。


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12.5.26/11:49 AM

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