140615スキージャンプ競技での事故

 
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140615スキージャンプ競技での事故

プロフィール
駒津祐二
こまつゆうじ
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所属:上川北部消防事務組合下川消防署
出身:名寄市
消防士拝命:平成15年
救急救命士合格年:平成15年
趣味:サッカー・フットサル

はじめに

写真1 下川町の風景(下川町提供)

下川町は北海道の北に位置し雄大な自然環境に恵まれ、真夏には30℃、真冬にはマイナス30℃に達する寒暖差の大きい四季の変化に富む町です【写真1】。平成23年度には環境未来都市として政府から認定され、豊かな森林環境で、木に包まれた心豊かな生活を目指しています。

現在日本のスキージャンプの競技人口は小学生から一般まで約270人だと言われており、そのうち下川町では小学2年生から高校3年生まで17名が活躍しています。また2006年トリノで開催の第20回冬季五輪では、日本代表6人中4人が下川町出身、2010年バンクーバーで開催の第21回冬季五輪では5人中3人が下川町出身選手でした。2014年2月にソチで開催される第22回冬季五輪では女子ジャンプも正式種目となることから、下川町出身の選手の活躍を町民全員が期待しています。

写真2 スキージャンパーの格好

スキージャンプで使用する板はアルペンスキーなどの板に比べると非常に大きく軽く作られていて【写真2】、

写真3 かかとが浮いた状態

装着時でもかかとが浮く構造となっています【写真3】。

写真4 下川のジャンプ台(下川町教育委員会提供)

下川には最長約65m級ジャンプ台【写真4:】が設置されていて、

写真5 飛行中の様子(下川町教育委員会提供)

飛距離はもちろん、飛行時【写真5】や

写真6 着地姿勢(下川町教育委員会提供)

着地の姿勢【写真6】なども競技対象になります。

怪我を負ってしまう原因は「ランディングバーン」という選手が着地する滑走路での転倒が大半です。下川町は、スキージャンプ競技の施設や環境(中学生からスキー留学生を受入れる体制があり、過去には沖縄の高校生のスキー留学もあります)が充実しているため、日本各地から年々合宿に訪れる方が多く、その期間中に怪我をしてしまう選手も少なくありません。
そこで今回は、冬季に発生したスキージャンプ競技での事故事例を紹介させていただきます。

事例1

12月下旬09時44分覚知。
スキー場の管理人から「スキージャンプの練習中、着地に失敗して転倒し負傷した人がいる」との救急要請にて出動。
写真7 転倒の様子①(再現)

現場到着して、救急車から約150m離れた場所に傷病者はスキージャンプ台のランディングバーン上(着地地点)に腹臥位で倒れていました【写真7】。

呼び掛けに反応があり、見当識障害もなく、自分の氏名もはっきり答えてはいましたが、意識清明とはいかず、JCS1程度と判断。ヘルメットとスキー板は既に関係者により外されており、頸部の痛みはなく、出血や明らかな変形等も見当たらず、主訴は右脇腹が痛いとのことでした。着地に失敗したということで、ネックカラーを装着。降雪があったため車内収容を優先し全身観察は中断。バックボードに固定後、近くにいたチームメイトやジャンプ競技関係者に協力を得て車内収容。車内収容後、全身観察を実施するにあたり、本人と同乗していた関係者にジャンプスーツ切断の承諾を得て切断し全身観察を実施しましたが、異常は見当たりませんでした。呼吸18回/分、脈拍63回/分、血圧104/88mmHg、SpO2:98%、瞳孔4mm対光反射(+)受入要請済みの町外二次医療機関に搬送開始しました。搬送中の継続観察でも特に変化はありませんでしたが、途中に意識が完全に回復したのか、今の自分の状況が全く把握できていないことや、転倒したことも記憶にない様子で、受傷機転や現在救急車で病院に向かっていることを説明。間もなく病院到着となりました。後日医師からの診断名は脳震盪(中等症)でした。

事例1解説

◎脳振盪とは軽度のびまん性脳損傷のことで、受傷後6時間以内に意識回復することをいいます。
◎びまん性脳損傷とは、回転加速度によって生じた脳組織の剪断力(ズレの力)による損傷です。
◎ 頭部外傷等で瞳孔異常があった場合の原因は多々ありますが、一側の瞳孔が散大し対光反射が消失していた場合同側の大脳に血腫など重大な障害が存在している可能性があります。しかし、健常人でも数%瞳孔不同がみられることも念頭におかなければなりません。

事例2

12月下旬16時23分覚知。
スキー関係者から「スキージャンプの練習中、着地に失敗して怪我をした」との救急要請にて出動。
写真8 転倒の様子②(再現)

現着時傷病者は、ジャンプ台のランディングバーンで右側臥位で関係者に介抱されていました【写真8】。意識清明、呼吸正常、前頭部に擦過傷があり、後頸部に痛みは無く、主訴は左鼠径部の痛みでした。

写真9 固定の様子(再現)

ネックカラー装着後バックボードに固定【写真9】し救急車内に収容しました。

救急車内でのバイタルは、呼吸18回/分、脈拍80回/分、血圧133/87mmHg、SpO2:98%で地元の一次病院(初期救急医療機関)に搬入後、診察のためにジャンプスーツの切断を実施しようとしましたが、承諾を得られなかったため、やむなく傷病者に痛みに耐えてもらい脱がしました。診察結果は左股関節の脱臼(中等症)でそのまま町外の二次医療機関へ転送となり、搬送中のバイタルの変化は特にありませんでしたが、車両の振動で傷病者は患部を常に痛がっていました。

事例2解説
◎股関節の脱臼や頚部骨折は痛み軽減のために固定を行いますが、痛みの少ない体位に個人差があり、毛布や減圧固定器具を使用してもとても痛がります。
◎ジャンプスーツはオーダーメイドで約8万円と高価なため、切断に承諾を得られないこともあります。脱がすにも体にフィットしているため脱衣はかなり苦労します。

スキージャンプ競技で怪我をしてしまう要因としては?

今回の事例紹介にあたって、下川ジャンプ少年団コーチに話を聞かせていただいたところ、スキージャンプ競技で重症を負ってしまう可能性があるのは、やはり転倒してしまうことで、その要因としては、恐怖心があり空中で膝を曲げてスキーの板が下がってしまったり、強風や不安定な風にあおられ空中でバランスを崩したり、板と靴の固定具の不確認でスキー板が空中で外れてしまうことが主にあげられるようです。転倒した場合は足に力を入れて膝を曲げないようにすれば、怪我が軽減されるとのことでした。またチームメートの怪我に対しては応急手当の講習を受講することと外傷の資機材を常備することが大切とのことでした。

おわりに

スキージャンプの事故は初心者からベテラン選手誰もが起こしてしまう可能性があります。ジャンプ競技は単純に言えば高所から落ちてくる競技であり、命に係わる事故にもなりかねません。
痛みの軽減や怪我の後遺症を少なくするためにも、救急隊の判断・処置はもちろん関係者による対処も大切です。関係機関との連携や医療機関への迅速な搬送を通じて傷病者の利益となるよう心がける必要があります。

協力:下川町教育委員会 教育課 専門指導員(下川ジャンプ少年団コーチ) 竹本 和也


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14.6.15/12:20 PM]]>

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