151105また出て来た高濃度食塩水輸液

 
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151105また出て来た高濃度食塩水輸液

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救急救命士による心停止前の輸液が全国で開始されている。輸液を開始するのに出血性ショックの確証を求められたり、輸液量がわずかで本当に血圧が上昇するのか疑問だったりと問題も指摘できるのだが、これら外野からの雑音に関しては症例を積み重ねて実効性を検討すべきだろう。

この連載では過去に何度か高濃度食塩水の点滴について触れて来た。今回はドイツからまとまった症例数の報告が出たので紹介したい。

7.2%食塩水+でんぷんを点滴

この論文1)は、病院外心停止患者にでんぷんを混ぜた高濃度食塩水を投与することで心拍再開率が上がるかどうか検討したものである。

研究期間は2000年から2011年.点滴は2種類で、乳酸リンゲル液を投与する群(通常群)と、7.2%食塩水にハイドロキシエチルスターチ(HES)を混ぜたものを投与する群(食塩水群)である。HESというのはでんぷんの一種で血管内に長く留まる性質がある。このHES入り高濃度食塩水を体重1kg当たり2mLを10分かけて投与する。50kgの人なら100mLだから大した量ではない。

心肺蘇生方法はヨーロッパ版ガイドライン2000とガイドライン2005で行われている。筆者らが評価の対象としたのは心拍再開をスコア化した「心拍再開スコア」というものである。これは心拍再開に対して行われた手技や患者の状態、心停止が発生した場所などで加点減点するもので、例えば80歳以上なら-0.2, 最初の心電図が心静止なら-1.1、バイスタンダーCPRが行われていれば+0.2を足すというもの。これらは単純に足すわけではなく指数関数のべき数として与えられる。このスコアを用いて高濃度食塩水の効果を確かめようとしている。

期間中に心肺停止を起こした患者は11744例.そこから記載の不備のある患者を除き、外傷患者を除き、18歳未満を除くと、通常群で10486例、食塩水群で481例が残る。これに対して患者背景が統一として考えられる322例ずつを評価の対象とした。患者背景と治療薬剤については両群で差は認めていない。

結果を見てみよう。心拍再開率では通常群が42%であったのに対し食塩水群は59%と有意差を認めた。また救急外来でも心停止せずに入院できた割合も通常群34%に対して食塩水群53%と有意差を認めている。また筆者らの2012年の論文2)では、食塩水群は通常群に比べて神経学的後遺症が軽度な人も割合も低いことが述べられている。

食塩水とでんぷんがどういう人に有効なのか、筆者らはサブグループを作って検討している。それによると、食塩水とでんぷんが有効なのは、・女性・80歳以上・心原性の心停止・目撃のある心停止・バイスタンダーCPRなし・心電図でVFもしくはVT・現着まで6分以上10分未満・アドレナリン投与、であった。蘇生に有利な条件ばかりでなく不利な条件でもでんぷん入り高濃度食塩水が有効であるとの結論である。

高濃度食塩水は前からあった

高濃度食塩水を点滴するという案は前からあった。高濃度食塩水が蘇生に有利なのは、血管外の水分を血管内に引き込み、それを暫くの間キープするからである。またでんぷんも長い時間血管に留まり、水を引き寄せる働きがある。動物ショックモデルではアドレナリン投与にでんぷん入り7.2%高濃度食塩水輸液を加えることで心臓や脳での微小循環を改善することが示されており、短期の生存率も改善させる。また脳細胞が壊れた時に出てくるS100蛋白や心筋障害で出てくるトロポニンの上昇も抑えることが示されている。この結果を受けて、2007年にはヒトでの結果が発表された。これ以降の研究ではでんぶん入り高濃度食塩水はヒトの脳血流量と心筋血流量を増加させることを示している。心筋血流量の増加は心拍再開率の上昇に繋がり、脳血流の増加は神経学的後遺症の軽減に繋がると著者は主張している。

点滴する量については、出血性ショックでは体重当たり4mL、この論文の2倍量が投与されるのだが、心停止患者では4mLも2mLも効果に差はないので体重当たり2mLを選択している。副作用については見られなかったとしている。

あくまで短時間の効果

この論文で評価基準としている心拍再開率については、高濃度食塩水やでんぷんの作用を考えれば確かにこういう結果になるかも知れない。体に入った100mLが血管周囲から水を引き込んで血液が増える働きをすれば、心臓に多くの血流がいくことになるだろう。生存退院率が向上しなかったというのも理解できることで、高濃度食塩水は急激に薄まってしまうし、でんぷんも排出されるか代謝されるかで短時間で消失してしまう。病院についてまでその効果がずっと持続することはない。

よく分からないのが神経学的後遺症がこの点滴で軽減という結果である。結局心臓は停まってしまうのに、脳には十分な血流が行くということだろうか。

今回の論文を見ると、指数関数にスコアを足し引きすることで結論を出している。これは前回11月号で述べた、「統計を用いたこねくり回し」と同じと感じる。これからもこの高濃度食塩水の論文は出て来るのだろうが、余り期待しないで見て行こうと思う。

文献
1)Resuscitation 2014;85:628-36
2)Resuscitation 1012;83::347-52


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15.11.5/3:04 PM

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